青春を終わらせたのはお前だ
「青春を終わらせたのはお前だ!!」
振り向くと、ビシッ!!と人差し指を顎先に突き付けられていた。
日曜の深夜2時頃。確かに、俺は近くの公園の樹齢何なんかは存じ上げぬが大いに立派にそびえ立った大木に麻縄を括りつけて、首吊り自殺をしようとしていた。だが、気がついたら、得意げな表情を浮かべる制服姿の電波女に人差し指を突き付けられている。一体なぜだ。
「は?」
思わず、年齢差も忘れて年甲斐もなく条件反射的に高圧的な返答をしてしまう。
すると、少女は一度くるりと回転して、再び、人差し指を顎に突き付けてきた。今度は少し近づいて、鼻先をぷにっと押される。
「青春を終わらせたのはお前だ!!」
「は?」
何このデジャヴ。某知恵袋サイトで、丈夫な麻縄はどこで売っていますか?という質問に対して、それは丈夫な麻縄が売っているところです!!とクソみたいな回答をされた時と同じような気持ちになった。ベストアンサーは勿論、ホームセンター。税抜き980円。命の値段である。
再び、街灯に照らされた制服少女は、やれやれと言わんばかりに呆れ顔を浮かべると、再び一回転する。
「青春を終わらせたのは」
「何度も何度も同じことばっか言いやがって、お前はRPGのNPCか!!」
流石に俺はシャウトしていた。街灯にビシャビシャと体当たりする小さな蛾が音響によって散っていく。
面を喰らった制服少女は自分の決め台詞を最後まで言えなかったことに怒りを覚えたのか、顔を真っ赤に赤らめて言い返して来た。
「今どきのJKに、RPGのNPCか!!なんて喩えツッコミされても、あんまりやらんからピンと来んわ!!」
「お前の電波なアンサーの一億倍はベストアンサーだわ!!」
「お笑い用語で一回ウケたことをもう一度上乗せすることを、天どんっていうんだよ~。おじさん、知らないの??」
「こんな不味い天どん、ちゃぶ台返しでお返しするわ!!」
ハーハー。お互い肩で息をする。
なぜだ。なぜ、俺は死のうとしていたはずなのに、こんな深夜に見知らぬ制服少女とお互いのギャグセンスに突っ込みを入れながら即興漫才みたいなことをしているんだ。
謎の制服少女は、カッー、ムカつく!!と吐き台詞を言い放つと、地団太を踏んで、キッとこちらの方へ鋭く睨みつけた。
「アンタね、公園で死んで、朝、子供たちが発見したらトラウマになるじゃないの!!」
「死んだ後の世界なんて、俺の知ったことか!!」
「サイテー」
「俺が死んだら、俺の世界は消えてなくなるんだ。なら、罪悪を覚えたところで、一体何の価値がある」
「その理屈って、コンドームつけるのを面倒くさがって、相手を妊娠させたクソ男が、知ったこっちゃねえってトンズラこいてスタコラサッサと逃げ出すくらい気持ち悪いわ」
「っ・・・」
俺は制服少女に最もらしい正論を突き付けられてぐうの音も出なかった。
制服少女は動揺する俺の表情を読み取ると、妖しくニヤリと唇を引き上げ、殺しの一言を投げかける。
「さては、あんた、童貞でしょ?」
「ど、どどどどど、童貞じゃないわ!!」
死にたい。やはり、この世に神も仏も存在はしない。無慈悲だ。これじゃ傷口に練りわさびじゃないか。死んでしまう。いや、いいのか。
制服少女は、ふーんと勝ち誇った表情を浮かべると、その場でくるりと一回転して、近くの街灯の下にぽつんと置かれたベンチへとトコトコ歩き始めた。
すとん、と音を立てて学生鞄とともに腰をかけると、ジーとこちらに目線を向けて来た。
「な、なんだよ」
「来なよ。相手してあげる」
「は?」
本日、三度目の、は?である。
街灯にくっきりと照らされた少女は、綺麗に染め上げられた金髪ヘアーに、豊満な胸元を強調するかのような第3ボタンまで解放した制服シャツ、膝ギリギリまで短いスカートを身に着けていた。
コイツ、家出不良少女かなんかか?と俺は訝しげに少女を見つめると、制服少女は夜空に浮かぶ大きな満月を虚ろな眼でぼーと見上げていた。
一般成人男性である俺は下半身の隆起を感じるものの、先ほどまのテンションとは打って変わって、その少女が醸し出す何処となく気だるげな雰囲気に呑まれると、気がつけば、俺は彼女の座るベンチへと足を進めていた。