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7話 アネモネ ③

 あれから薬草や香草集めに、狩など食料の調達、家具道具の手入れなど、頼まれたものはどんなものでもこなしていき、次第に獣人の村にも打ち解けてきたように思う。


 リアは相変わらず俺の前では少し緊張しているようで、あまり目を見て話してはくれない。俺よりここの連中の方が馴染めているのは、少しだけ寂しい。


 ただ、ここにきてから一週間ずっと考えていたのだが、もしリアがここを気に入っているのなら、しばらく彼女をここに匿ってもらい、その間に王国の諸々を消化してしまうのはどうだろうか。


 そもそも、外の状況がわからないこの状況は少し拙い。


 ザック、ストラスコンビがまたいつここに顔を出すかもわからないし、他に出入りをしてる獣人は初めから詳しい状況がわからないため噂程度の情報しか入らない。


 その噂でも見かけない、まるで国兵のような甲冑を着た何者かが付近の森を出歩いているのを見た、と言った曖昧な情報で、正確な人数もそれが本当に王都の兵士かもわからない。


 ただそんなに人数はいないということは、警戒心の強い獣人が複数名証言していることもあり、信用できるだろう。


 逃げてる時兵どもは殺さんばかりの勢いで迫ってきたが、所詮奴らは荒くれ者上がりの末端の兵だ。彼らを振り切って直接王様に会い話をすればもしかしたら聞く耳を持ってくれるのではないか。


 このまままたいつ襲われるのかわからないのでは、俺もそうだがなによりもリアの心労は尽きない。亡くなった家族の供養もさせてあげられない。


 守ると言ったんだ、ちゃんと平穏な暮らしができるように動くべきではないか?


「これまた随分としみったれた顔してるねぇ」


 チラチラとリアの様子を見てはため息をつく俺を見て、アネモネはそう声をかけてきた。


 今後のことも考えていたし、もし俺だけ出てくにしてもリアの面倒を見てもらわなければならない。一人ではどうにもできない問題だ。ちょうどいいかもしれない。


「アネモネ。ちょっと相談がある、んだけど」


 ちなみに何度か「アネさん」と呼んでみたが「馴れ馴れしい」と険悪な顔をされたので言われた通り呼び捨てにして呼んでいる。


 呼び捨ての方が馴れ馴れしくないか、と疑問にも思ったが彼女の中で明確な線引きがあるのだろう。


 単に俺がよそ者で、訳ありで、人間だから警戒されているのかもしれないが。


「別にかまやしないがね。変に策を弄さず素直に伝えりゃいいじゃないか」


 ちらりとリアを横目見てアネモネは盛大にため息をつきながら言った。


「うかうかしてたら、伝える前に誰かに取られちまうよ」


「……あっいや!違!そういう話じゃないってば!」


 カーッと顔に熱がこもり、赤くなったのがわかる。思わず声も大きくなってしまった。


 アネモネは俺がリアを見て物思いにふけっているのを、恋煩いの類だと勘違いしたらしい。


 そんな様子を必死に誤魔化す少年心のようなものだと思っているのかニヤニヤとしながら「わかったわかった」と言って俺の主張は流された。


 なまじそういう展望が全くないわけではないことも相まってか、図星をつかれたような居心地の悪さがあるの。


「……ちょっとおばさんくさいぞ」


 精一杯の抵抗というか仕返しを繰り出すと、ピクリとも白い耳が片方だけ動いた。


「ほう……いい度胸だねレーヴェ」


 見た目は若い。実際に年齢もまだ二十代だと聞いているが、彼女の豊富な人生経験からか考え方や言動は年寄りじみているというか堂に入っているというか……。


「あ、いや!年寄りじみてるとかじゃなくて」


「そうかいそうかい。とりあえず中で話そうじゃないか」


 しっかりと笑っているが、どうしよう。アネさん呼びを断られた時より全然怒ってらっしゃる。


 家の中、いつかの応接室のような部屋に少し緊張した面持ちで入ると、バシッと背中を叩かれた。


「そんな、緊張してんじゃないよ!あんなのただの冗談さね」


 彼女の方を見るとカラカラと笑っていた。


「それで、相談ってのはなんだい?」


 ちょうどいいサイズの机に腰をかけると足を組む。タイトなスカートから白い生足が覗かせている姿は先ほどまでの所帯染みた雰囲気とは打って変わって妖艶な雰囲気を醸し出している。


「あ、ああ。その……」


 俺はここ最近考えていた、今後の行動に対して何か意見をもらえないかとアネモネに相談をした。


「……随分と甘いね」


 一通り話を終えると、アネモネは一回ため息をついた。その目には今までにない強い意志が込められていて思わず息を飲んだ。


 アネモネは淡々と彼女との認識の違いを語った。まずは村でいつまでもリアを匿うつもりはないこと。


「いつ、ここの連中があんたらの味方だと言ったよ。国と揉めるようならすんなり引き渡すさ」


 そして次に国のこと。そもそもどうやってこの辺境から王都まで向かうのか、どうやって王に会うのか。そして王が話を聞くわけがない、よしんば聞いてくれたところで他の臣下に一笑されるだけだ。


「たしかに、国に関しては考え無しだった」


 ただ、ちょっと冷たいんじゃないか、と上目で睨みがちにアネモネを見ると、また盛大にため息をついてこちらを見た。


「わかった。もう少し考える。まだしばらくは厄介になるけど。なるべく面倒はかけないようにする」


 アネモネは目を瞑りうなずくと、話は終わりと言わんばかりに手を叩いた。雰囲気の切り替えがうまい人だ。


「なぁに!あんたらのことは別に嫌いじゃないよ。誰も積極的に売りにいくこたぁしない。安心しな!」


 アネモネは立ち上がるといたずらを思いついた子供のような表情で言う。


「それこそどうしてもここで預かってほしいっていうならリアをうちの誰かに嫁がせればいい」


「なっ!ら、……」


 伏していた顔を上げて思わず立ち上がった。がアネモネはそんな俺をみてまたカラカラと笑っていたので、からかわれているのだと気づいた。


「ま、しっかり面倒見てあげなよ」


 外に出て先ほどの話を考えてみた。腹を割って話してくれたのも冗談を言うのもアネモネの気遣いだ。いつまでも甘えてるわけにはいかない。


 彼女を守るためにもしっかり、今できることをしよう。


「リア。今ちょっといいか?」


 軒下の木陰で頼まれていた織物をしているリアを見つけて声をかけた。ピクンと耳の角度が上がり、おずおずとこちらを見る。


「リアは魔法、使える?」


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