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第9話 家族始めました


「まあお前がここに住みついてる理由は分かったよ。そういう事情があるなら、俺としてもお前がここにいることに異論はない」


 魔法陣の部屋から縄梯子を登ってでると目の前にワイルドボアがいた。魔獣とはいえど、さすがに梯子の上り下りは出来なかったので留守番だったのだ。


 おりこうさんな猪である。


「そうかい。先にいたのは僕の方なんだけど、まあいいさ。ここは休戦協定といこうじゃないか。世の中に農地が増えるのはぼくの利益にもなるしね」


 そんなこんなで俺とクロノスの同居が決まった訳だけど、ひとつ大きな問題がある。


 食費のことだ。


「今まで食事はどうしてたんだ? この納屋を共有することに異論はないが、流石に養ってやれるだけの余裕はないぞ?」


 自分ひとりの食事を確保するのもギリギリだ。

 しばらく現金収入のアテもないし。


「ぼくは神だからね、別に食事をしなければならない訳でもないんだ。いわゆる趣味なんだけど、出来れば食べたいかな。そうだ! 良いことを思い付いた! ボアくんに獲物を狩ってきて貰おう! ボアくん、いけるかい?」

「ブヒ!(任せて!)」

「おお、ありがとう! それじゃあお願いするよ!」

「ブヒ~(行ってきま~す)」


 ワイルドボアはひと鳴きすると、トットコトットコと駆け出して行った。


 ……というか、言葉通じてる?


「もしかして、ワイルドボアと話せるのか?」

「ぼくは神だよ。当り前じゃないか」

「マジかよ、それめっちゃ便利じゃん」

「そうだろう。そうだろう」


 魔獣と話せるとかひと財産築けるんじゃないか?

 いや魔獣使いみたいなクラスがあったな。

 それにしても有用な能力だ。羨ましい。


 だけど不安だな。あいつ、俺たちに会ったときビビって気絶してたけど狩りなんかに行って大丈夫なんだろうか?


 一応、魔獣だからそんな簡単にやられたりしないとは思うけど、森には冒険者とかあいつよりデカい魔獣とかがいっぱいいるだろし、すごく心配だ。


「ていうか、よくよく考えるとあいつって俺たちに拉致されてここにいるんだよな。しかも仲間が沢山殺されたのも元を辿ればお前が変な魔法を使っておびき寄せたからだし」


「うっ……それはそもそも君がけし掛けたんじゃないか! あのとき、素直に串焼きを買ってくれていたら、こんなことにはならなかったんだ! それにあれは魔法なんかじゃない! 神の力、ゴッドパワーさ!」


 神の力うんぬんはどうでもいいが、このまま黙っているのはさすがにマズいよな。


「ワイルドボアには事情を説明した方がいいよな?」

「だけど怒ってぼくたちに襲い掛かってきたりしないかな?」

「確かに……」


 ワイルドボアがキレて突進でもしてきたら、無傷で済む自信がない。いや、普通に死ぬと思う。


「気合い入れていこう……」

「うん……」





「ブヒ?」


 ワイルドボアが野ウサギを咥えて無事に帰ってきたとき、俺たちふたりはなるべく武器っぽい農具を構えてブルブル震えていた。


「よよよ、よし。クロノス通訳してくれ」

「わわわ、分かった」


 そして、クロノスを通して出来る限り印象を損なわない迂遠かつ慎重な言い回しをもって、事情を説明した。


 しかし、俺たちの予想とは違ってワイルドボアの様子はあっけらかんとしたものだった。聞くにこのワイルドボア、そうとう波乱万丈な人生を送ってきたらしい。


 六匹兄弟の末っ子に生を受けたワイルドボアはまだ幼かった頃に冒険者によって両親を目の前で殺されたという。


 庇護を求め合流した群れではその臆病さから侮られて、自分よりも遥かに幼い者より下に置かれ、生き残った兄弟も次々と冒険者の凶刃に倒れる。


 気付けばどこにも居場所がなくなっていたらしい。


 そんな絶望の日々を送っていたある日、街の方から自分たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


 街の方には人間がたくさんいて、その危険は計り知れない。


 当然行くつもりなどなかったのだが、武闘派ワイルドボアグループがニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべ、冗談半分で連行されてきたという。


 そこで出会った俺たちだが、印象は悪くないようだ。


 というのも、群れの序列で最下位に置かれ、自分で採ってきた獲物でさえ上の者に差し出さなければいけなかったおかげで、いつも腹を空かせており、俺のあげたチーズパンに感動したという。


「お“ま”え“づら“が”っだんだな“(泣)」


 俺は号泣した。

 クロノスは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。


「うっ、今日からは俺たちがお前の家族だからな~(泣)」

「そうだよ。ぼくのことはお母さんだと思って頼ってくれてもいいんだよ~(泣)」


 え? さすが図々しくね?


「「……うわ~ん(泣)」」


 そんなこんなで俺たちは家族っぽいものになった。


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