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第4話 迷惑神降臨


 農家の朝は早い。


 なぜかというと納屋の隙間から朝日が差し込んで顔を直撃するからだ。眩しくて朝寝坊もできない。


 そしてもうひとつ原因がある。


「お前何者だ?」

「……ゥゥゥゥゥゥゥ」


 いつの間に忍び込んだのか見知らぬ女の子が納屋のなかで寝ていた。ギョッとして恐る恐る近寄ると、泡を吹いて低く唸り続けている。


 右手には食べかけのパン。そうエレナさんから貰ったカビとホコリにまみれたパンだ。


 それを見て一瞬で状況を把握した。


「お前、それ食ったのか?」

「……ゥゥゥゥゥゥゥ」


 気の毒ではあるが、泥棒に掛けてやる情けなどはない。


「ま、いっか。仕事しよっと」


 俺は放置を決め込んだ。


 実のところ仕事はあまり進んでいない。

 土の中の岩が原因だった。


 スコップを入れれば必ずといっていいほど岩にあたるのだ。


 とりあえず、埋まっている岩をどうにかしないといけないな。

 なにか効率的な方法はないものだろうか。


 そう思案しつつ外に出ようとしたら、ガシッと足を掴まれた。


「水を…… 水をください……」





「プハー、生き返った。まったく何てものを食べさせてくれるんだい!? サイテーサイテー。あんなものを食べるのか君は? 貧困もここまでくれば度し難いね。本当に理解できないよ」


 あまりの死にそうな表情に仕方なく水を恵んであげたのにこの有り様だ。


「お前は人様の家に勝手に上がり込んだうえに、色々として貰って何アホなこと言ってんだ!」


「アホなことを言っているのはそっちじゃないか。ここはぼくの拠点なんだ。人様の家に勝手に上がり込んだのは君の方なんだよ! おまけによく分からない穴ぼこまで作ってくれちゃってさ、引っ掛かって転んじゃったじゃないか! どう責任取ってくれるつもりなんだい!?」


 ぼくの拠点だと!?

 俺はその女の子に昨日交わした契約書を突き付けてやった。


「おい、これを見ろ! この土地は納屋を含めて全部俺が借りてるんだ!」

「なっ!?」


「これで分かったか! いい加減にしないとお前を不法侵入で警備隊に突き出してやるからな!」


「人の子がつくった法ごときがなんだと言うんだい!? ぼくは農耕神クロノスだぞ! ぼくが所有すると言ったら、それは全部ぼくのものだ!」


 はぁ? 何言ってんだ、こいつ?


「なんだよ神ってウケるんですけど!」

「君はこのぼくを疑うのかい!? いいだろう。証拠を見せてあげるよ!」


 そういうとその子は飲みかけの水が入ったコップを持ち上げた。


「ムムムムム。さあ、見るがいいよ」

「なんだこれ?」


 コップのなかは紫の液体で満たされていた。


「ワインだよ。ぼくの神技さ」


 飲んでみると、確かにワインだ。しかも旨い。


「どうせ手品か何かだろ?」


「なぬ! まだ疑うのかい? いや、よくよく見ると君はぼくの祝福を受けているじゃないか。ふふ、良いことを思い付いた。疑う余地のないほどの奇蹟を起こしてあげるよ。ステータスカードを取り出すんだ! 今すぐに!」


「何するつもりだよ?」


「それをよく見ててくれ。いくよ! 3、2、1、はい!」


 それ手品のカウントダウンじゃんと思ったが、その瞬間手に持ったステータスカードが光を放った。


 眩い光が収まると、カードに記載されている内容が変わって、新しいスキルを得ていた。


 特殊スキル:【農耕神クロノスの呪い】 不信人者に与えられるバッドスキル。すべてが上手くいかなくなる。それが嫌なら農耕神をおもてなししなければならない。


「マジかよ……」


 確かに普通の人間が人のステータスをいじるなんて不可能だ。

 ということは、こいつマジなやつか!?


「分かってもらえただろうか、君ぃ?」


「まあ一応信じてやってもいい」


「ん、なんだね? その態度は? スキルの内容はちゃんと見たのかい? 君はぼくをおもてなししないと、とてつもなく不幸な人生を送ることになるんだよぉ? もっと取るべき姿勢があるんじゃないかと、ぼくなんかは思うけどねぇ、君ぃ?」



 腹が立ったので摘まんで外に放り出し、石を投げて追い払ってやった。

 しきりに不幸になるぞ、この罰当たりなどと喚き散らしていたが相手にしない。


 そのまま仕事を始めたが、不愉快にも不幸が重なった。


 スコップの先が欠ける。掘り起こした岩が手から滑って足を痛打。

 それを自称農耕神が遠くの木陰からニヤニヤと覗いていた。


 さすがにふたつ目のスコップが欠けたところで諦めて降参した。


「おいっ、ギブアップだ! 早くこのスキルを解除してくれ」


「ふふふ、ようやく分かって貰えたみたいだ。ついては、ここにしばらく滞在する予定だから、その間一瞬たりとも気を緩めず、ぼくの為に働いてくれたまえ。それが終わったらスキルの解除を考えてあげようかな。ま、頑張りたまえよ、君ぃ」


 こうして俺はしばらくの間、農耕神の女の子と暮らす羽目になった。


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