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第3話 初めての畑作り



 農業者ギルドにて農家(ファーマー)のクラスと【お世話】のスキルを手に入れた俺は、ギルド職員のエレナさんと共にさっき借り受ける契約をした農地へと移動していた。


 ンモォオオオ、ンモォオオオ。

 ……牛が鳴いている。


「あの、ひとつ質問いいですか?」

「はい、何でしょう」

「何で牛車なんですか?」


 そう。俺とエレナさんは農家仕様の牛車に乗っているのだ。


「いい質問ですね。知りたいですか?」

「知りたい!」

「演出です!」

「マジで言ってます?」


 大した荷物がある訳でもなく、何故に歩くより遅い乗り物に乗らなければいけないのか?


「こういうのは案外重要なんですよ。牛の匂いとか、自然の景色とか、これから農家になるんだぞっていう気持ちが段々生まれてくるじゃないですか?」


 確かに言われてみるとそういうものかもしれない。この人もまともなことを言うんだな。


「まあホントのところ、ただ牛たちのお散歩の時間だっただけなんですけどね。あはは」

「……」





「着きましたよ。ここが今日からあなたが耕す土地です」


 牛車に揺られること20分。ようやく目的地に着いたみたいだ。


 目の前には雑草が生い茂る、耕作途中で放棄されたとおぼしき農地があった。


「アムルさん、宿は決めてありますか?」

「いえ、まだ決めてませんけど」


「もしよければ、あそこの納屋をお使いください。自由に改築してもらって結構ですので」


 そこにはちょうど森に隣接している納屋があった。


 側面の壁板にはデカい生き物が爪を研いだような形跡があるが見なかったことにしよう。


 悠々と宿に泊まる懐の余裕なんてないからだ。

 今、ものすごくお金が欲しい。


「この農地ですが、いきなり好きにしてくださいと言われても困ってしまうと思いますので、しばらくは私がバックアップに付きます。よろしいですか?」


「おお。ありがとうございます」


 意外と親切だな。


「いえいえ、これも仕事ですから。だけどバックアップ料金として月利益10%上乗せしてください。あ、お金はギルドを通さないで、私に直接渡してくださいね」


「ピンハネ!?」


 前言撤回である。


「それとこれ餞別です。しばらくは食べ物に困らないと思います」


 そういうと、エレナさんは袋に入った大量のパンを手渡してくれた。


「ありがとうございます。すごい助かります」


「いえいえ、倉庫に放置しててカビが生えちゃったやつなので。あっ食べる前にちゃんとホコリも払ってくださいね。」


「……俺はアンタが怖いよ」





 納屋を開けると農機具が色々と揃っていた。

 訊くところによると、前にこの土地を借りていた人のものらしい。


 その人は幽霊をみたと農業者ギルドに駆け込んだ数日後、突如として行方が分からなくたったとのことだ。


 ははっ、笑えない。


「さて、それじゃ仕事の説明を始めます。いいですか?」


 納屋に荷物と大量のカビが生えたパンを置くと、エレナさんの農業授業が始まった。


「まず、ア厶ルさんにはジャガイモを作ってもらいます。理由は簡単で、麦などに比べて少ない面積で大量の収穫が期待できるからです。それに植えてから収穫までの期間が短い。そしてなによりも腹が膨れる。これが大事です」


 確かにジャガイモが収穫できれば主食には困らなくなる。


「しかし、その辺に植えれば適当に生えてくるといった簡単なものではありません。作物を育てるには、それに適した土壌を用意しなければいけないのです」


 なるほど。


「さて、土壌を作る第一歩として、土のなかにある岩や木の根っこを取り除きます。ジャガイモを育てるので深さは50cmといったところですかね」


 50cmと言ったら、爪先から膝ぐらいの深さがある。うーむ。


「それからさらにその土を砕いて小石を取り除くのがベストですが、労力と時間が掛かり過ぎるので今回は省きます。ただ目に付いた石などは取り除いてください。そして掘り起こした土に堆肥などを混ぜて完成です。ここまでで質問はありますか?」


「ちなみにどれ位の範囲を掘るんですか?」

「この土地全部です」


 やっぱりか。悪い予感が当たってしまった。


「と言っても、最終的にはですけどね。今回は最初なので、総面積の大体半分程度で大丈夫です。目安として四隅に木の棒を刺しておきますね」


 半分と言っても、結構な広さだった。

 これを全部掘り返すのか……


 果てしない労働の予感に打ちひしがれていると、エレナさんが笑顔でスコップを渡してくれた。


「一週間後に堆肥とかを持ってきますので、それまでに終わらせておいてください。それじゃ、ファイト!」


 そう言ってエレナさんは牛車に乗って帰っていった。


「本当は冒険者になりたいんだけどな……」


 俺はちょっと泣きながらスコップを振るったのであった。


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