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第20話 グラッセルの裏社会


 グラッセルの繁華街にその店はあった。


 店の名前は『ほくほく亭』、俺の行きつけのパン屋であり、以前美味しいチーズをくれた気のいいおじさんがやってるお店である。


 その店の前でエンチョを頭にのっけた地獄丸がガタガタと震え出したのだった。


「行きつけのパン屋さんってここだったでやんすか!?」

「そうだけど、どうかしたのか?」

「坊ちゃんはなんて命知らずでやんすか。あっ入っちゃ駄目でやんす!」

「え?」


 その言葉が届いたのは、店の扉を開けたあとだった。


「いらっしゃい」

「あ、フィラデロさん。こんにちは」

「おおアムルか、今日も来てくれたんだな」


 挨拶を交わしたフィラデロさんは視線を俺の後ろで止めた。


「そこにいるのは地獄丸じゃないか?」

「ひ、人違いでやんす」


 地獄丸はエンチョを持ち上げてそこに隠れた。


「アニキからお前が帰ってきたことは聞いている。なぜ今まで顔を出さなかったんだ?」

「ぼっ、坊ちゃん! 後は任せるでやんす! ひぃいいい!」


 そういうと地獄丸は猛スピードで何処かへと逃げて行った。


「まったくあいつは挨拶も出来んのか」

「ふたりは知り合いなんですか?」

「あいつは俺の姪っ子だ」

「あー! なるほど!」


 そこで俺はポンと掌を叩いた。

 初めて会ったときから、誰かに似ていると思っていたのだ。


 そうかカルデロさんだったのか。すごいスッキリした。


「すまんな。昔からあの調子なんだ」

「いえ、それにしても驚きました」

「ああ俺もふたりが一緒にいることに驚いたぞ。あいつにはよくしてやってくれ」

「はい、もちろん」


 俺はとりあえずパンを買って地獄丸を追いかけた。





「お前いったいどうしたんだ?」


 地獄丸を見つけたとき彼女は狭い路地で蹲っていた。


「坊ちゃんはこの街に来て日が浅いでやんすから知らないと思うでやんすけど、ほくほく亭のフィラデロと言ったら、この街の裏社会を取り仕切るマフィアの首領(ドン)でやんす」


「いやいや、パン屋さんがマフィアって……」


「あの店はパン屋じゃないでやんすよ。正確にはピザ屋でやんす」


 え、そうなのか?

 いや確かにピザも売っている。

 だけどちょっとお高めだから手が出ないのだ。


「それがどうかしたのか?」

「え、分からないでやんすか? 古来よりマフィアのボスはピザ屋をやっているのが相場でやんす」


 そういうものなのか?


「それに奥のテーブル席に座っていたのはファミリーの幹部でやんした。『人攫いのマリオ』『金塊のゴンゾ』『白い粉のビアンカ』この街でやつらに逆らったら一族郎党ハチの巣にされるでやんす」


 マジかよ。恐ろしすぎるわ。


「だけどフィラデロさんは地獄丸の叔父さんなんだろ? なんでそんなに怖がってるんだ?」


「あれはオイラが幼い頃でやんした。ファミリーに裏切り者が出て……」


 地獄丸の話はとても凄惨なものだった。


「な、なぁ俺どうすればいいと思う……?」

「坊ちゃんは奴らに顔を覚えられてしまったでやんす。諦めて今まで通りに通うしかないでやんすね」

「だけど俺は普通の客だし、地獄丸の友達だし、大丈夫だろ?」

「……」

「なぁ?」

「……」


 聞かなきゃよかったと激しく後悔しました。



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