第2話 凶悪なスキル
不幸な勘違い(?)とギルド職員エレナさんの泣き落としにあった俺は、農業者ギルドの受付に案内された。
「こちらに必要事項の記入お願いしますね」
「疑問があるんですけど、俺は当然ながら畑とか持ってませんし、どっかに派遣されて働かされるのとか絶対嫌ですよ」
よく分からないまま引っ張り込まれたのだ。
当然ながら警戒している。
疑問の声をあげると、エレナさんはちょっと固まって、手に持っていた書類をササっと隠した。
「今何か隠しましたか?」
「……何のことでしょうか? あっやめてください。返してくださぃ!」
「なになに……、週7日勤務、一日16時間労働……、って死ぬわ!」
俺は書類をビリビリに破いて捨て去った。
「わぁーすいません! 謝りますから暴れないでください」
危うく奴隷契約をさせられそうになった。
この人は油断ならない。
「うーん、派遣は嫌ですか、ワガママですね」
「ちょっ!?」
「ギルドで遊ばせてる農地があるのでそこをお貸ししましょう。その土地を耕して頂いて、収穫物の10%をギルドに納めるという契約でどうですか?」
収穫物の10%か。それっていい条件なのか?
それだけ訊くとそんなに悪くない気もする。
しかし疑わしい。
「ちょっとその土地の資料見せて下さい」
「あっ、やめて」
俺はエレナさんが手にする資料をひったくって目を通した。
・グラッセル西門から1㎞ほど。
・土地面積1ha(100m×100m)
・注意事項 魔物頻出 幽霊の目撃多数
魔物頻出……幽霊の目撃多数……
「だらしゃああああああああああ!!!」
「あぁ、破かないでぇ!」
なんて奴だ。不良資産を押し付けようとしやがった。
「だって今貸せる他の土地ですと、収穫物の20%を収めるのが標準ですし、面積もかなり狭くなりますよ。魔物だって駆け出し冒険者でも倒せるレベルですし、幽霊もそんないるかどうか怪しいものに怯えてどうするんですか。男の子でしょ!」
まぁ確かに、注意事項にさえ目を瞑ればいい条件ではある。
「じゃあそうですね、聖職者の除霊をおまけで付けてあげます。これならどうですか?」
うーん、微妙だけどしょうがない。
そもそも俺は冒険者志望なのである。
低級の魔物ぐらいなんとでもなるか。
「分かりました。それじゃ、その条件でお願いします」
「承りました。それとおまけは今回だけですよ。感謝してくださいね」
エレナさんは満面の笑みであった。
◇
「さて書類手続きも終わりましたし、ステータスカードの発行をしましょうか」
「え? 農業者ギルドにもそんなもんがあるんですか?」
「勿論ですとも、クラスの付与もありますよ」
これは意外だった。ステータスやクラスなんて冒険者のものだと思っていた。
「基本クラスが農家だったら、専門化すると酪農家、野菜農家、適正によっては聖農家、闇農家なんかもありますし、他にもたくさんのクラスが存在しますよ」
「闇農家って、それただの違法稼業じゃないですか」
「まあまあ、細かいことは置いといて、この帽子をどうぞ」
そう言うと、エレナさんは奇妙な帽子を俺に手渡した。
「何ですか? この変な帽子……」
「かぶった者の能力や適性を鑑定する魔法の帽子です。鑑定が終わるとステータスカードを発行してくれます。さあ、かぶってみてください」
言われるがまま、頭に乗っけると、その瞬間帽子が喋り始めた。
『ほーう。アムル・ベル。歳は16か、若いのぉ。能力は……、ほーう。見事に微妙じゃ。可もなく不可もなく。さてさてクラスはどうかのう……』
「闇農家はダメ。闇農家はダメ」
『ほーう。闇農家は嫌か。いいのかね? 闇農家になれば多額の収入が約束されるのにのう。しかし、安心せい。そもそも善人でもなければ、悪人でもない。お主のクラスは決まっとる。適正なし! ファーマーァアアア!!』
「なめとんのか!」
勢いで帽子を机に叩きつけてしまった。
すると、ペシャリと潰れた帽子がカードを吐き出した。
「あら、スキルがありますね。【お世話】ですか、あまり見たことがないスキルですよ」
エレナさんは帽子に吐き出されたカードを確認して俺に手渡した。
【お世話】 厄介ごとに巻き込まれる確率上昇(極大) 雑務の処理効率上昇(並) 作物の成長率上昇(微小) 家畜の好感度上昇(微小)
「……スキルって消せないんですか?」
「消せませんね」
「ですよねー」
得たスキルは最悪だった。
「何はともあれ、アムル・ベルさん。あなたは農耕神クロノスの祝福を賜り、晴れて農業者ギルドの一員となりました。おめでとうございます!」
「はぁ……ありがとうございます……」
「それじゃ、農地までご案内しますね。レッツゴー!」
こうして俺は職業とクラス、スキルを手に入れたのだった。冒険者への道は遠い……