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第19話 龍とほうじ茶


「ところで地獄丸はどんなクラスになったんだ?」


 クラスはその人の適性によって与えられるのだ。

 他人事とはいえ、不思議と気になる。


養龍農家(ドラゴンファーマー)でやんす」

「へ?」

「龍を育てる農家でやんす。いっぱい育てればドラゴン肉が食べ放題でやんすね。じゅるり」


 規格外かよ。


「すごいな。世の中にはそんな職業があるのか」

「初めて確認されたクラスだって言ってたでやんすよ」


 ほへ~。さすがの地獄丸さんだわ。


「ちなみにドラゴンを育てるって具体的にどうするんだ?」

「捕まえてきて繁殖させるでやんす」


 まずドラゴンを捕まえるっていう前提がおかしい。

 そりゃ前例がないのも肯けるクラスだ。


「だけど繁殖させるにも場所がいるだろ? さすがに街の近くでやるのはむずかしくないか?」

「え? この家の横でやろうと思ってたでやんすけど?」

「絶対に止めてくれ」


 ドラゴンを食う前に俺が食われるわ。





「ごめんください。こちらに地獄丸さんはいらっしゃるかな?」


 扉を開けるとそこには社会的地位が高そうな人たちとフルプレートの騎士がたくさんいたのだった。


「どうもこんにちは。お初にお目にかかる。ワシはグラッセルの領主をやっているグランド・グラッセルという者だ。アムル・ベルさんと地獄丸さんで宜しいか?」


 りょりょりょ領主!?


「へっへい。違ぇありません。本日はどのようなご用件で?」


 俺は手をスリスリしながら愛想のいい笑いを浮かべた。


「農業者ギルドから報告があってな。地獄丸さんが得た職業クラスについて話をしたいのだが、今都合は宜しいかな?」


 なんだ、あまりの物々しさに捕まるかと思った。

 しかし相手は領主さまである。失礼のないようにしなければ。


「左様でございますか。ささっ中へ。汚いとこですが……へへっ」

「別に汚くないでやんす」


 地獄丸よ、お前は権力の恐ろしさを知らないのだ。

 そんな目で見ないでおくれ。


「そうかすまんな。それではお邪魔させて貰おう」





「早速で悪いのだが地獄丸さんはAランク冒険者だったと聞いている。なぜ農業者になったのかね?」


「アムルの坊ちゃんとじゃがいもの試練を受けにいくのでやんす!」


 地獄丸はよく物怖じせずに話せるな。

 俺はみんなに出すほうじ茶を焙煎しながら話を聞いていた。


 これは手持ちの茶葉で最も質のいいものだ。

 俺は香草・香辛料オタクだが、お茶もそこに入る。


 詰まる所、葉っぱが好きなのだ。


「ほう。試練を受けにいくのか。実はワシの家も農場を持っていてな、若い頃に試練を受けたことがあるんだ。そうかそうか」


「おお! どうだったでやんすか? 楽しかったでやんすか!?」


「いや~あれは大変でな。ワシは『小麦の試練』を受けたんだが、もう懲り懲りだなぁ」


「色々なのがあるんでやんすね! わくわくするでやんす!」


 地獄丸が領主と盛り上がってる……


 俺は出来上がったほうじ茶をみなさんに配ってから地獄丸の隣に座った。


「おお、すまないな。ところで(ズズー)旨い! ゴホンいや失礼した。大変美味しいお茶だ。使っているのは市場に流通している茶葉かね?」


 おお反応は上々だ。


「へっへい。街で買いやした」


「なんと! それでは焙じ方か!? いやすまない。お茶には目がない性質でな、アムルさん、君はお茶を淹れる才能があるぞ!」


 俺が血のにじむ研究の末に習得した焙煎である。

 執念が違うのだよ。執念が。


「もし君がよければ、うちの料理人にレシピを教えてくれないか?」


「……もっ勿論でごぜぇます。誠心誠意努めさせて頂きやす」


「そうかそうか! これは思わぬ収穫だった! おおそうだ本題に戻らなくてはな」



 研究成果が掻っ攫われることが確定しました……



「地獄丸さんは試練が終わったあと、どうされるのだ? もしグラッセルでドラゴンの飼育を始めるなら最大限の援助をしようと思っているのだが」


「え! 本当でやんすか?」


「勿論だ。ドラゴンがこの街の特産になれば経済効果は計り知れないからな。資金も人材も出来得る限り提供しよう」


「乗ったでやんす!」


 こうして双方笑顔でビッグビジネスが始まったのだった。

 そして地獄丸のドラゴン牧場の目途が立ったことは嬉しいのだが……


「坊ちゃん、どうしたでやんすか!?」

「権力が俺のレシピを……権力が憎い……」


 権力の前に人は無力なのであった。



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