第16話 死霊農家アンデッコ
「アムルくん、なにか禍々しい気配が近づいて来るんだけど!?」
「ブヒブヒ!」
新築のウッドハウスで食後の温かいお茶を啜っていると、突然クロノスとエンチョが立ち上がった。
するとその直後にドアがノックされたのだった。
「もし、あなたはアムル・ベルさんではありませんか?」(ボソボソ)
「そうだけど……」
ふたりに押される形で恐る恐る扉を開けると、そこにはボソボソと喋るヘンテコな格好をした女の子が立っていた。
そいつは灰色のローブを着て、首には十字架と長ネギ(?)を巻き、ニンニクのブレスレットを身に付けていたのだ。
パッと見、風邪気味のヴァンパイアハンターといった出で立ちだ。
「農業者ギルドから納屋にでる幽霊の除霊を依頼されたアンデッコと申します……これお近づきの印です」(ボソボソ)
「こっこれは!?」
「大葉です……」(ボソッ)
俺は差し出された手のひらサイズの植木鉢に驚愕した。
なぜ知っているのか?
いや、この街の誰にも話した覚えがない。
「なんで大葉なんだ?」
「美味しいからですが……」(ボソボソ)
「おぉ……!」
納屋が爆発した日、その日の晩ごはんの仕込に使ったあるものが焼失した。
それは料理において重要な役割を果たすもの。
そうハーブ&スパイスである。
俺は香草・香辛料オタクなのだ。
こいつは同志であると心が叫んでいた。
◇
「おっ茶柱だ」
俺はフンフン鼻歌を歌いながらアンデッコに出すお茶を淹れていた。
【牛若丸】に払い下げられてしまったパワースコップのスキルポイントではあるが、俺はそれを使って【生活魔法】を取得していた。
これが思いのほか便利で、今日のように急な来客があったときなど迅速かつスマートな対応ができるのだ。
「粗茶ですが!」(ササッ!)
「これはこれは」(ボソボソ)
クロノスとエンチョは警戒しているのか、部屋の隅でふたり固まっている。
「アンデッコさん、除霊の依頼で来たって言ってたけど聖職者なの?」
「いえ。わたしは農業者です。その大葉もうちの農場で採れたものです」(ボソボソ)
ほー! 大葉農家とはやりますな。
「あっアムルくん! 騙されちゃ駄目だ。ただの人間がそんな得体の知れないオーラを出すはずがないんだよ! 君は一体何者なんだ!?」
「ブヒブヒ!」
こらこら君たち、俺のハーブ友達、略してハブ友さんに失礼じゃないか。
ここはガツンと、そうガツンと言ってやろう。
「無理もありません。皆さんが感じている不快感はわたしの職業クラスが原因でしょう」(ボソボソ)
「ふっふっふ。間抜けなアムルくんはコロッと騙されたがぼくはだまされないぞ。君はさっき自分のことを農業者だと言ったね? 何を隠そうぼくこそが農耕神クロノスだ。そして君からはぼくの祝福が感じられない。君は嘘を付いているね!?」
「ブヒブヒ!(そうだそうだ!)」
というかサラッと俺のこと馬鹿にしたな。
「そうですか、どうりで……」(ボソボソ)
「さあ言い訳を聞こうじゃないか! さあさあ!」
「ブヒブヒ!(聞こうじゃないか!)」
ふたりは凄いドヤ顔である。
さっきまで部屋の隅でブルブル震えていたのが嘘のようだ。
「わたしのクラスは死霊農家といいます」(ボソボソ)
死霊農家?
仕事内容がいっさい分からないのだけど……
「ふん。ぼくがそんなクラスを与える訳が……あ」
「こいつ今、あって言ったな」
「言いましたね」(ボソボソ)
「ブヒ!」
おっエンチョが寝返ったぞ。
「……アンデッコくんだったね! 今日はうちでご飯食べていきなよ! 歓迎するよ!」
「わたしこのクラスになってから聖職系の人に嫌悪感を与えるらしく、何度も要らぬ疑いを掛けられ……」(ボソボソ)
「アムルくん! 一番高いお酒持ってきて!」




