第12話 友好契約
「……話は分かった。つまり進化したワイルドボアの力が想像以上だったということだな」
俺たちはカルデロさんに、事のあらましを説明した。
クロノスが農耕神であることも、名前を受けたエンチョが炎猪に進化したことも粗方説明した。
「事故という事なら、この件の責任を追及するつもりもない。これからはくれぐれも気を付けてくれ」
やけにあっさりと信じてくれたものだが、元々一流冒険者だったカルデロさんはこのような話に慣れているようだ。
聞くと物好きな神様というものは割とその辺で生活しているようでカルデロさんは何人ものそういった人物を見知っているらしい。魔物の進化についても然りだ。
「しかし、火属性のB級魔法を扱える魔物を野放しにしているのは街の防衛という観点から見ると著しく問題がある」
「カルデロ! エンチョくんは、ぼくのゴッドパワーを得て聖獣になったんだよ。そんなエンチョくんが危険なはずないじゃないか!」
クロノスはエンチョを守るように腕を広げてカルデロとの間に立った。
「俺もお前さんたちを疑っている訳じゃない。問題はこのことを知ったグラッセルの住人がどう思うのかということだ。まず間違いなく討伐しろという声があがるだろうな」
「ブヒッ!?」
それを聞いたエンチョが震えながら後ずさった。
どうやら魔物が街付近で暮らすには従属契約が必要となるらしい。
万が一にも魔物が暴走したときに抑えるためだ。
「俺が現役だったら、対等関係である友好契約でもよかったんだが、B級魔法を使う魔物だろ? 身元引受人になるやつは最低でも現役のAクラス冒険者じゃなきゃ、ギルドも街のお偉いさん方も納得しないんだ」
そうは言っても、強制的にエンチョを従わせるのはさすがに忍びない。しかし、従属契約をしなければエンチョはここで暮らせないと。うーん困った。
「お父ちゃん、お父ちゃん。これを見るでやんす」
「なんだ?」
そう言うと地獄丸は胸元からゴールドに輝くギルドカードを取り出した。
「オイラ、王都でAクラス冒険者になったでやんす」
「な!?」
Aランク冒険者といえば超一流の冒険者だ。
俺たちより幼い少女が普通になれるようなものではない。
「オイラなら猪くんと友好契約を結べるでやんす」
「ううむ……確かにAランクだ……」
「猪くん。これをあげるからオイラと契約するでやんす」
そう言うと地獄丸は胸元からこんがり焼けた大きな骨付き肉を取り出した。
というか、こんなデカいやつどこに仕舞ってたんだ?
「ドラゴンの肉でやんす。おいしいでやんすよ」
「ブヒ!(わかった!)」
「良かったでやんす。それじゃ契約を始めるでやんすよ」
すると地獄丸とエンチョを中心に光り輝く魔法陣が現れ、契約は宣誓と両者の血をもって完了した。
「よし炎猪くん、さっそくバトルレックスを狩りにいくでやんすよ。すたこらさっさー」
「おい待て地獄丸……」
契約が終わった途端、エンチョを脇に抱えて風のように駆け出した地獄丸にカルデロさんの制止は届かず、その後ろ姿は瞬く間に見えなくなった。
「バトルレックスとは何のことだ?」
そしてカルデロさんは俺たちの説明を聞くなり、血相を変えて走っていったのだった。
◇
「ただいまでやんすよー」
日も暮れようとしたころ、エンチョを小脇に抱えた地獄丸と幾分ゲッソリしたカルデロさんが森から戻ってきた。
地獄丸はドン引きするほど全身血まみれで、まさに地獄丸という風体だった。
「報酬の200万ゴールドは坊ちゃんに渡せばいいでやんすか?」
「おっおう」
「それじゃあギルドカードを出すでやんす」
どうやらギルドカードはお金のやり取りも出来るそうで、なかに入っているお金は各地のギルドで引き出したり、預けたり出来るらしい。
「よし完了でやんす」
支払いが済むとギルドカードには払われた金額が表示されていた。
200万だ。グヘヘ。グヘヘ。
「今日はオイラも儲かったでやんすから、このまま街で戦勝会をやるでやんすよ! 全部オイラの奢りでやんす!」
「「「いいの!?(ブヒ!?)」」」
「勿論でやんす! さぁいくでやんすよー!」
「「「おー!(ブヒー!)」」」
この日、血まみれのいで立ちで夜の街を歩く少女が目撃され、Aランク冒険者、地獄丸の名前がグラッセルで広く知られることとなった。




