第11話 地獄丸
「……はぁ」
冒険者ギルド、グラッセル支部専属冒険者カルデロは一枚の手紙を読んでため息をついた。
手紙は王都に暮らす彼の娘から届いたものだ。
そこには王都での生活を終え、グラッセルの街に戻ってくると書かれていた。
彼女はカルデロの一人娘だ。
そんな彼女が戻ってくるのは嬉しい。
嬉しいは嬉しいのだが、恐らく面倒なことになる。
その懸念がカルデロの頭を占めたのだ。
父親であるカルデロは娘のことをよく理解していた。
娘は頭のネジが何本か抜けているのだ。
「カルデロさん! 大変です!」
そんな折、憂鬱に沈むカルデロの元にギルド職員が駆けつけてきた。
「グラッセル西門近くでB級魔法相当の火柱が確認されました。至急調査をお願いします!」
「何だって!?」
魔法にはS級からF級までの階級があり、B級には小さな村がひとつ消滅するほどの威力があるとされる。
そんな魔法を街の近くで放つなんて頭がおかしいとしか思えない。
そもそもここは駆け出しが集まる街だ。
B級なんて上級魔法を扱えるやつは、うちのパーティーの魔導士と諸侯軍の魔道部隊長ぐらいしかいない。
そしてその二人は街の近くでデカい魔法をぶっ放さない程度にはわきまえている。
「まさかな……」
カルデロの脳裏に娘の姿がよぎった。
◇
「こんのバカチンがぁあ! どうすんだこれ? どうすんだよ? 納屋に農具に荷物全部燃え尽きちゃったんですけど!? おいおいおいおい、全部燃え尽きちゃったんですけど!?!?」
「だ、だけどわざとじゃないんだよ!」
「ブヒ!(そ、そうだよ!)」
「わざとじゃないで許されたら警備隊はいらないんですけどっ!?」
俺は跡形もなくなった納屋の前で錯乱していた。
それもそのはずだ。
身につけていたもの以外全部燃えたのだ。
これで正気を保っているほうがおかしい。
「まあまあ、落ち着くでやんす」
「うぎゃ! 誰だあんた?」
クロノスとエンチョを怒っていた俺は、突然後ろから話しかけられてめちゃくちゃビックリした。
見ると俺、クロノスより少し幼いぐらいの少女が立っていた。
「オイラは地獄丸でやんす。冒険者でやんす」
「地獄丸って、それは……」
「本名でやんす」
……本名、嘘だろ?
「オイラ、さっきの魔法を拝見したでやんす。見た限り、そちらのお嬢か、猪くんの仕業でやんすね? どっちがやったでやんすか?」
そう聞かれたふたりは目をそらしながら、お互いを指さした。
……ふたりとも相手に擦り付けてやがる。
「おっと、別に責める為に聞いた訳じゃないでやんす。さっきの見事な魔法の持ち主に仕事を手伝って貰いたかったんでやんす」
仕事?
「ここに来るまでの森の中にバトルレックスがいたでやんす。街に行って応援を要請しようと思っていたでやんすけど、どうやらお金にお困りの様子でやんしょ? 手伝ってくれたら200万ゴールド払うでやんす」
「よし、お前ら行ってこい」
「!?」
「ブヒ!?」
何を迷う必要がある?
200万ゴールドあれば、納屋を建て替えて農具を買うことが出来るのだ。
「お前ら人が借りてたもの爆破しといて、まさか断らないよな?」
「で、でもバトルレックスって相当強いんじゃないかな?」
「ブヒ!(そうだそうだ)」
「安心するでやんす。これを……」
『地獄丸!!』
「……お父ちゃん!!」
地獄丸が胸元から何かを取り出そうとしたとき、叫び声が辺りに響いた。
そこにいたのは、良い人でお馴染みのカルデロさんであった。
カルデロは納屋の燃えカスに目を向けた後、肩を落とした。
「やっぱりお前だったか? 街の近くで大きい魔法を使うなと何回言えばわかるんだ?」
「ちがうでやんす。お父ちゃん勘違いしてるでやんすよ~」
「おう。坊主に嬢ちゃん。また会ったな。ちょっと待っててくれ。俺は娘に常識を教えなければいけない。そもそもだな、森で火属性魔法を使っちゃいけないなんて言われなくてもわかるだろ。山火事になったらどうするつもりだったんだ。大勢の命が失われるんだぞ」
あっ、クロノスとエンチョが崩れ落ちた。
「今回はたまたま燃え移らなかっただけで、こんなことを続けていればいずれは……」
「お父ちゃん、魔法を撃ったのはその人たちなんでやんすよ~」
「え?」
「「すみませんでした!(ブヒブヒブヒ!)」」
綺麗な土下座であった。




