第1話 始まりの街
ここは始まりの街グラッセル。
冒険者がその一歩を踏み出す始まりの街だ。
「うおー、やっと着いた」
馬車に揺られること一週間。
俺は窮屈な馬車から解放される爽快感と、新しい日常に踏み出す期待で舞い上がっていた。
この街はすべての冒険者の聖地と呼ばれている。
なぜそのように呼ばれているかというと、冒険者はここのギルド支部によってクラスを与えられるためだ。
クラスとは職能のことである。
戦士や魔術師などがその代表例だろう。
「わわわ! これが都会か!?」
目に飛び込んでくるすべてが故郷にはなかったものだ。
しかし、舞い上がってばかりではいられない。
これからこの街で暮らしていくのだ。
その為にも一度冷静になろう。
何事も最初が肝心なのである。
とりあえずは冒険者ギルドを探そうかな。
「あの、すいません」
俺は勇気を出してちょうど目の前にいた冒険者風の男に声を掛けた。
人でも待っているのか、手持ち無沙汰のように見えたのだ。
「アアン?」
強面のおじさんだが人は見た目ではないという話だ。
「冒険者ギルドを探してるんですけど」
「おうおう。まさか冒険者になろうなんて考えてるんじゃねえだろうな? てめえみたいなヒョロいのに何が出来るってんだ。帰ってお母さんの膝の上でおねんねしてな」
「……」
辛い……帰ろうかな……
「もしかして、新規入会の方ですか?」
おじさんに心を折られ、沈んでいるとひとりの女性が話しかけてきた。
その人はとても綺麗な人だった。
「もしよければ私が案内しましょうか?」
「え? 本当ですか?」
「もちろん」
偶然にもその人はギルド職員だったらしい。
だけど何故かその人の目が一瞬、怪しく輝いたように見えた。
◇
俺はお姉さんに連れられて、グラッセルの中心街を歩いていた。
この案内をしてくれているお姉さんはエレナさんという名前らしい。
「ほんとにありがとうございます。今日ここに到着して右も左も分からなくて」
「いえいえ、気にしないでください。これも仕事ですから」
エレナさんはとても親切な人だった。
そしてしばらく歩くとそれまでに通過したどのお店などよりも大きい建物があった。
そこには『冒険者ギルド』という看板がでかでかと掲げられていて、武器を携帯した冒険者っぽい人たちが沢山出入りしていた。
しかし、何故かエレナさんはそこを素通りして、ボロ……いや、幾分質素な建物の前で歩みを止める。
「着きました。ここが農業者ギルドのグラッセル支部です」
「農業者? 冒険者じゃなくて?」
「はい! 農業者ギルドです。さ、どうぞ」
おかしい。何かが噛み合っていない気がする。
「すいません。俺、冒険者ギルドを探してたんですけど……」
するとエレナさんの動きが一瞬止まって、バツが悪そうに目をそらした。
「……冒険者ギルドはもうありませんよ」
「え?」
「本当ですよ。だからもうあなたは農業者ギルドに入るしかありません」
「あれは?」
俺はさっき通過した冒険者ギルドっぽい建物を指さした。
「ちっ違います! あれはその……偽物の冒険者ギルドです!」
「無理があるのでは?」
すると観念したようにエレナさんはシクシクと泣き始めた。
「だって酷いじゃないですか。農業者ギルドの職員を捕まえて、ギルドを探してるって言ったら、普通こっちだと思いますよ。シクシク……」
え、俺が悪いのか?
「ただでさえ、ここ何年も若い農業従事者が減り続けて、依頼がパンクしそうになってるのに、そこに新規参入したいっていう人が現れたときの嬉しさがわかりますか?えーんえーん」
確かにちゃんと冒険者ギルドに行きたいと言わなかったは俺だ。
ん? 言ってなかったけ?
おかしい。自分に自信が持てない。
「わっ、分かりました。話だけでも聞いてくので泣き止んでくださいよ」
「駄目です。ギルドに加入してくれるまで泣き止みません。えーんえーん」
すると騒ぎを聞きつけた通行人がいっぱい集まってきた。「どうした?」「なんか女の子を泣かせてるみたいだぞ」「人でなしだ」
くっ、周囲の目線が痛い。
「分かりましたよ。加入しますから、ほら泣き止んで」
「ほんとに!? やったー! じゃあ、行きましょう!」
あれ? 元気じゃん?
こうして幾分質素な建物に引きずり込まれた俺は半ば強引に農業者ギルドに加入させられることとなったのだ。
困ったことに憧れの街グラッセルでの生活は思い描いていたものとは全く違うものになりそうだ。
これから頑張って書いていこうと思います。宜しくお願いします。