一話 亜鶴と恋
秋から冬へと変わり行く季節。
ここは、奥多摩にある、とあるアパートの一室。
亜鶴と恋の二人は、向かい合うようにして炬燵で暖をとっている。
木枯らしの吹き荒ぶ窓の外は、些か天候が悪いらしい。
今にも雨粒が散りばめられそうな暗い雲が、空を覆い尽くしている。
……今日は一日屋内で過ごすか。
外界に視線を向けていた恋は、心の中でそんな判断を下し、向かいに座りミカンを頬張るチャラ男へと視線を戻した。
目の前のチャラ男――亜鶴はニートである。
そして、このニートは居候である。
一度沖縄に移住すると言って東京を離れてから僅か二ヶ月で、恋の住むこのアパートへと転がり込んできた。
高等専門学校にストレートで合格し、更にその後、東京にある有名な大学にストレートで進んだ程の頭脳を持っている男なのだが。
大学卒業後、何故か沖縄の珊瑚を護りたいと言って移住して行ったのだ。
対する恋は、同じ高等専門学校に通いながらも進む道は違えた。
元々、彼は高台から望む夜景が好きだった。
高専卒業後に夜景鑑賞士の資格を取り、現在は夜景観光プランニングの仕事をしている。
「……」
「……」
会話もなく、黙々とミカンを食べ進める二人。
しかし、その沈黙は恋によって破られることとなる。
「……なァ、お前さ」
「ん?」
声を掛ければ直ぐに顔を上げて視線を合わせる亜鶴。口角が緩やかに上がった。
クエスチョンマークを頭上に浮かべ、興味と疑問の入り雑じる表情が、チャラ男の癖に可愛い。恋は、そう思う。
しかし、口をつくのは、そんな気持ちとは程遠い問い掛け。
「お前さ、いつまでフリーターでやっていくつもりなんだ?」
『フリーター』。
その言葉に、亜鶴の表情に影が射し、唇が尖る。
「俺ニートだから」
何故だろうか。フリーターと言われることに、妙な嫌悪を示す。
勿論、それをわかった上での問い掛けなのだが。
そんな恋のからかいにも似た本意に気付かぬまま、亜鶴は不貞腐れたように言葉を続ける。
「一緒にすんなよ。俺は、あんなフラフラしてないから」
はて、どういう意味なのか。
込み上げる笑いを堪えながら、言葉を返してみる。
「フリーターはフラフラしてないと思うぞ」
「してるだろ。まともに定職にも就かなくてさ。一緒にすんなよ」
……それを、お前が言うのか。
そんなツッコミを心の内でしていると、ついに笑いが込み上げた。
「ふっ」
一度洩れた笑みは、そのまま蛇口を捻った水道のように口から溢れ出る。
「ふはっ、ははっ……お前、面白過ぎるっ……」
「……何笑ってんだよ。変なヤツ」
「はははっ、いっ……」
笑っているとミカンを投げられ、顔面直撃。
しかし、そんな事で怒りはしない。
拳ではなくミカンを飛ばしてくる辺り、やはり可愛いなコイツは。と、恋は改めて思うのだった。