2.永遠に美しい過去にはもう戻れない
1話目はリスナの視点でしたが、今回はユーシアの視点となっています。
俺はある日、突然、リスナという少女に召喚された。
俺にとって初めての主人は、まだ8歳だった。
たったの8歳で俺を召喚できたのだから、たいした奴だ、と思った。
しかし、契約内容について考えたり、一緒に過ごしていると、こいつ馬鹿か、と何度も思った。
本当に悪魔とか主人とか分かってるのか?、と何度心の中で尋ねたことか。
だけど、リスナと過ごす日々は穏やかで楽しかった。
「ユーシア」
リスナから名前を呼ばれることに、慣れる前は驚いていたけど、不快ではなかった。
むしろ、名前を呼ばれることが嬉しかった。
何度だって呼ばれたい、と思った。
リスナとは毎日のように一緒に過ごした。
俺は幸せだった。
生まれて初めて。
こんな日々が永遠に続いて欲しい、と悪魔のくせに願っていた。
だけど、そんな俺の願いは叶わなかった。
幸せは長くは続かない。
あれは、リスナが10歳のとき。
俺は珍しく一人で、家の近くで見つけた二人だけの秘密基地の小屋にいた。
そこに、リスナが息を切らして駆け込んできて、わけの分からないことを言った。
そして、リスナは願った。
主人の願いは叶えなくてはならない。
俺は、叶える、と笑顔で言った。
確かに・・・・・・笑っていたはずだ。
それがたとえ、寂しげで痛みに耐えるような顔だったとしても。
これがきっとあの幸福な日々が終わった瞬間だったのだろう。
ある日の夜、俺はリスナが成長するまで、ずっと考えていた通りにリスナの両親を殺した。
もともと、あいつらはリスナを愛してる、とは言いがたかったし、これがリスナの願いを叶える第一歩だと思った。
リスナが喜ぶと思っていた。
喜んで欲しかった。
しかし、変わり果てた両親の姿を見たリスナは、怯えたような顔で俺を見た。
どうして、そんな顔をするのか分からなかった。
怒るリスナの言葉に答えると、リスナは確かに微笑んだ。
俺はそれを見て嬉しくなった。
もっと見たかった。
俺がリスナを笑顔にしたい、と思った。
だけど、それからリスナはおかしくなった。
権力を得るために平気で人を陥れた。
しかも、全くリスナは幸せそうじゃなかった。
笑わなくなり、俺と目を合わせなくなり、名前も呼んでくれなくなった。
俺はリスナの笑顔を取り戻すために、リスナの言葉に従った。
リスナを愛していた。
しかし、結局、こんなことになってしまった。
燃えている屋敷から逃げ出そうとしたリスナに、洋服棚が落ちてくる。
俺はリスナをかばおうとするが、間に合わなかった。
そして、正気を失って叫ぶリスナの顔を、両手で固定して無理やり目を合わせる。
正気に戻って!昔のあの頃のリスナに戻って!
俺の必死の願いが通じたのか、リスナの正気が戻った。
そして、
「ユーシア・・・」
と、久しぶりに俺の名前を呼んでくれる。
それだけで、嬉しくて涙が出そうになる。
これで、死んでもいい。
だけど、リスナには死んで欲しくない。
リスナには生きていて欲しい。
「契約を破棄して」
そう言われて、それだけで、死ぬかと思った。
必死で、そんなことをしないように説得しても、リスナの決意は変わらない。
もう一度、
「命令よ。契約を破棄して」
と、言われて俺は絶望で、目の前が真っ暗になる。
たとえ、契約を破棄してもこの気持ちは変わらない。
ずっと、好きだった。
リスナが、俺のことをなんとも思っていなくても、俺は、
リスカが好きだ好きだ好きだす・・・
そして、俺の意識は真っ白になった。
ナニモカンジナイ
目の前にいるこの女は誰だろう?
まぁ、どうでもいいや、と思いながら燃え盛る屋敷から外へ出る。
久しぶりの自由な世界。
木の緑が、空の青が、クリアに目に映る。
美しき世界。
だけど、何かが足りない。
何かが・・・・
頭の中を、どこだか思い出せない景色が横切る。
耳に、俺の名前を呼ぶ声が付きまとう。
目の前に、さっきの女の顔がちらつく。
頬を冷たい『何か』が伝った。




