9話 この世界の片山 澄 後編
長いかも知れません
「行ってきます」
翌日、俺が前の世界で通っていた登校時間に家を出て高校へと向かう。
高校に近づくにつれ、チラホラと他の生徒達の登校姿が見られてきた。
(この中にもし縁結びの神の憑依主が居たとした……)
そう考えると、誰も彼も疑わしくなる。
昨日の夜、インターネットやSNSを使ってこの地域の事を再び調べたのだが、特にめぼしいものは見つからなかった。
やはり、知名度が低いのだろうか?
そうやって暫く考え事をしていると、
「おはよ」
「え?あ、おはよう?」
いきなり見知らぬ人物が挨拶をしてきた。
どうやら、俺の通ってる生徒なのだろうが、俺には分からない。
なんとなく、誰かに似ている気がする。
「……、なんだかいつも通りではない?」
その人物は何やらボソボソと呟いていた。
じっとその顔を見る。
なんとなく、陽に似ている。
「あ、佐籐生徒会長おはようございます」
そこに、別の生徒がすれ違いざまに挨拶をしていく。
生徒会長!?
ん?佐東?
そこで陽が頭の中で浮かび上がる。
「澄?」
「え?あ、ああ、すいません」
陽の名字は佐東だったはずだ。
そこで、今1度その顔を見ると、やはり陽そっくりだった。
学年ごとによって、うちの学校は制服の一部の刺繍に付いている学校のマークの色が違う。
なので、目の前の陽のそっくりさんの制服のマークをじっと見る。
「赤色……、一つ上の先輩か」
この世界に来てから、この世界の陽に1度も会ってなかったと思ったら、年上だったのか……。
「一週間に1度しか登校しない澄が来るなんて珍しいね」
「え?」
一週間に1度だけしか登校してなかったの、俺…。
段々と分かってきた気がする。
この世界の片山澄について。
「たまにはいいだろ、陽」
「呼び捨て……だと……!?」
名前で呼ぶと、更に驚かれていた。
なにやら俺を訝しむように見つめる陽。
「ま、まぁいい……。とりあえず、心を入れ替えて学校に来るようになったならそれはそれでいい」
だが、そう言って一人で納得していた。
結局、そのまま陽と一緒に登校した。
学校に着いて、陽と別れて一人で教室へと向かう。
廊下で他の生徒とすれ違うと、何か小声でコソコソと話をしていた。
気にせずそのまま歩き、俺が教室に入ると一教室内の場が白けた。
「え……、今日来んのかよ」
「まじか、この前あんな事されたのによwww」
「強がってるフリをして、あんなボロクソにやられてたのになwww」
ところどころから何かと色々聞こえてくる。
一体何をやらかしていたんだ、俺は…。
すると、男子生徒数人が俺の席を取り囲んできた。
「よぉ、クソ雑魚野郎」
「お前は……山田」
目の前の奴の顔を見て、元の世界のことを思い出す。
確か、学年の中で一番喧嘩っ早い人物だったはずだ。
高校三年の時に暴走族と関わったかなにかで、自主退学していたはず。
しかし、なんでそんな奴がこの俺に用があるんだ?
「お前、この前俺がぼこぼこにしてやったのによく来れるなあ」
「あー……」
なるほど、そういうわけか。
こうやっていろんな人の反応や話を聞いているともう分かる。
この世界の俺は不良だったらしい。
周りの人には礼すら言えないようなクズみたいな。
「おいコラァっ!聞いてんのかァ!?」
「なんだよ……」
考え事をしていると、目の前で騒いでいる山田が俺の胸ぐらを掴んで立たせる。
「ちょ、ちょっとアレ大丈夫……?」
「私先生呼んでくるね!」
「なんだ喧嘩かぁ?」
「そんなキモいやつやっちまえ!!」
「おいお前ら、この俺の歌を聞いてくれ!」
周りのクラスメイト達が騒ぎ出す。
最後のやつはなんなんだ……。
「これは何の騒ぎだい?」
「あ、瀬川」
「無視こいてんじゃねぇよ!」
山田の取り巻きであろう人が俺に怒鳴ってくる。
この世界登校初日の朝からこんなのかぁ……、すっごいめんどくさい。
瀬川は何も言わずにこちらを見ると素早く走り出した。
「片山ァ……」
「いい加減にしてくれ」
「てめぇ、誰に口答えしてやがる!」
「お前以外に誰がいるんだ?」
「あぁあ?」
胸ぐらを掴む力が強さを増す。
朝のホームルームまであと数分。
先生が来たら間違いなくこの状況見たらを勘違いするだろう。
「クソが、この前負けた負け犬風情が!」
「なんでもいいから、静かにしてくれ。みんなに迷惑だろ」
俺はそこで、胸ぐらを掴んでくる山田の手首を掴む。
「何する気だぁ?お前に俺より力が……」
「悪いな、山田。少し痛いぞ」
「はぁ?……あたたたたっ!?」
グッと軽く力を入れて手首を捻ると、するっと胸ぐらをつかむ手が緩んだ。
まぁ、テレビでやっていた通りの事をやったまでなんだが、あっさりと手が取れたな。
「おま……なんでっ」
「いい加減しろ、みんなに迷惑だ」
「ぐっ…いてぇえええ!離せぇええ!!」
「あ、すまん、力を入れ過ぎた」
まだ吠えてくる山田に対して、つい手に力が入った。
絶叫した山田の手首を離す。
今の俺は普通の人間よりも力があるんだった。
「お、おい山田大丈夫か!?」
「てめぇ……」
山田の取り巻きの一人が山田を心配して声をかけ、もう一人が俺に対して睨みつけてくる。
「いい加減にしろよ?」
「……っ」
流石にしつこくてイラッと来たので、低い声でそう脅すとその睨みつけてきた取り巻きは目を逸らす。
「ふっざけんなぁ!」
と、そこでいきなり山田が立ち上がって殴りかかってきた。
「あっ、おいやめろ山田!」
心配して声をかけていた取り巻きのひとりが、止めようとするが遅かった。
山田が俺に対して拳を振るう。
だが、俺はそれを避けなかった。
クラスのあちこちで悲鳴が起こる。
「てめ……」
「痛くもないな」
「なんなんだよ……」
俺はあえてそれをよけずに、そのままあたりに行った。
多少衝撃が顔面を襲ったが、痛みは感じなかった。
山田はそんな俺を見て愕然とした表情で呆けていた。
「はいそこまで」
「あっ」
と、そこへ先生がやってきた。
というか、途中から廊下でこちらの様子を眺めいた。
「おいお前ら、流石に3対1は卑怯だろ」
そう言ってこちらに近寄ってくる。
山田がそこで我に返って悔しそうに俺を睨んでくる。
「折山、上杉、山田、お前ら着いてこい。片山は別にいいからな」
「はい」
「ちっ……」
「おい山田、手首大丈夫かよ……」
「……タイミングわっる」
「お前ら呑気だなぁ」
3人とも大人しくその先生と一緒に教室を出ていった。
静まり返った教室や廊下。
俺はため息をついて席に座ると、次第にみんなザワザワといつも通りざわめき始めた。
「初日からこれかぁ……」
骨が折れるなぁ……。
昼休み。
弁当を食べて、図書室へと足を運ぶ。
なぜかと言うと、この地域の昔話などの本があるかもと思ったからだ。
「あの、すいません」
「お、珍しいね片山くん」
図書委員に声をかけようと思ったが、何故か逃げられてしまったので司書の先生に声をかける。
「この地域の伝承とかをまとめた本ってありますか?」
「あるにはあるけど、ここには置いてないね」
「そうなんですか?」
「ああ、そういうのは今オカルト研の部室にあるよ」
「オカルト研に?なんでですか?」
「活動に必要なんだそうだ。もしそういった本が必要ならオカルト研に足を運ぶといいと思うよ」
「分かりました、ありがとうございます」
礼を言ってとりあえず、教室に戻ることにする。
しかし、オカルト研の活動に必要?
何に必要なのだろうか……。
「おい、アレって」
「やめろよ、絡まれるぞ」
「ほっとけよそんなどうでもいいこと」
生徒とすれ違うとやはりそんな話が耳に入ってくる。
少し憂鬱になりながら教室に戻り、スマホを取り出して調べ物をする。
この学校のオカルト研についてだ。
もし、表だってなにかしているのであればなにかヒットするだろうと思ったからだ。
だが、前の世界ではオカルト研がなにか活動している事すら話題にもならなかった。
「なんか最近、街中が物騒よね」
「本当だよね。わざわざテレビ局がこの地域まで取材に来たりしてるらしいよ」
「あ、見た見た。昨日の夕方のニュース番組であの薬局の前のところ出てた」
近くでご飯を食べている女子グループの会話が聞こえてくる。
何かあったのだろうか?
この地域がニュースに出ていると言うことで気になって耳を傾ける。
「まぁ人が襲われたりとかしていたら流石にね……」
「5人だっけ?」
「この1ヶ月で5人はやばいよね」
「それで今日の午後は全校集会があるの?」
「多分ねー」
そんな事があったのか……。
人が襲われていると言うのを聞いて、俺が目を覚ました時の事を思い出す。
もしかしたら、俺は襲われていて倒れていたのだろうか?
可能性はゼロとは言えない。
「片山くん」
「あ、瀬川」
ぼーっと考え事をしていると、瀬川がいつの間にか真横に来ていた。
「朝はごめんね」
「いや、大丈夫だよ」
「すぐに先生を呼ぼうとしたら、誰かが先に呼びに行っていてくれていたみたいですぐ来てくれたよ」
それで途中からずっと廊下にいたのか。
と、そこで俺はある事をおもいだして瀬川に尋ねる。
「オカルト研の部室って知ってる?」
放課後。
凛から一緒に帰る?というLINKが来ていたが、丁重に断っておいた。
「ここかぁ……」
オカルト研の部室の前に俺はいた。
外の見た目は普通の部室って感じだ。
とりあえずノックをして中に入る。
「すいません、ちょっと調べ物をしたくて来たんですけど……」
「片山が……?」
「お……」
中には普通に整理されていた。
もっと不気味な感じのする所なのかと思ったのだが、そうでもなかった。
中にいたのは、クラスメイトの飯田だった。
目のあたりまで前髪が伸びきっていて、誰が見ても根暗そうだというイメージを持つだろう。
「とりあえず、この地域の伝承をまとめた本を読んでもいいか?」
そう言うと、座っていた飯田がいきなり立ち上がる。
「君もこの地域の伝承を調べているのか!?」
だが、立ち上がった衝撃で飯田が飲んでいたペットボトルが倒れて中身が溢れ出る。
キャップくらいしておけよと思いながらも、片付けを手伝う。
飯田 暮人との出会いはこんな感じだった。
陽出ましたねー。