7話 転生先は
ちょっと長くて読みづらいかもしれません!申し訳ありません!
「まだ起きてないんですか…?」
「ああ、だが大丈夫だろう」
誰かの話し声で目が覚めた。
見た事のある天井と見た事のあるベッド。
ただ、自分の部屋のものでは無い。
「店のか……」
「お?起きたな」
「よかった…!」
声の方を見ると、正利と凛がいた。
正利がいるのは分かる。
何故なら、正利は喫茶店を開いているからだ。
ここはその喫茶店にある、正利の休憩室のようなところだろう。
だが、凛がいるのが分からない。
過去の世界だというなら、もう既に凛は死んでいる筈なのだから。
「大丈夫?」
「まったく、朝早く出掛けたと思ったらずぶ濡れで帰ってきて……」
凛が生きている事に、驚きが隠せずにぼーっとしてしまう。
俺が最後に見た凛よりも、どこか大人っぽくなっていた。
「ちょっと、何じっと見てるの?」
「あ、すまん……」
「目を覚ましたと思ったら女の子しか見ないのか?ほら、起きれるなら起きてくれ。帰るぞ」
体を起こすと、いつの間にやら着ていた服が変わっていた。
恐らく、意識を失っている間に服を着替えさせらたのだろう。
「な、なぁ凛」
「なに?」
「げ、元気か?」
「…ちょっと、どうしたの? 本当に大丈夫? 」
「冗談だ」
「変なの」
ベッドから降りて、靴を履く。
すかさず、凛が優しく手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
「……」
礼を言うと、何故か驚いたような表情を浮かべる凛。
「熱でもあるの?」
「なんでだよ」
「普段なら、お礼なんか言わないで払い除けるでしょ……? 」
「え……」
待て、やはり何かがおかしい。
過去の世界だとはもう思わない。
考えられるとしたら、俺と同じ世界と似た世界の過去に戻っているという事くらいだろうか。
「す、すまん……」
なんとなく、その手をそっと離す俺。
そこへ、正利が荷物を持ってやってきた。
「リンちゃん、帰ろう。ほら、澄も」
「はい」
「……」
車の中は静寂に包まれていた。
凛はあれ以降、なんにも声を掛けてこないし、正利は元々車の運転をする時は無口な方だったからだ。
そこで俺は、スマホを取り出した。
まず、自分が感じた違和感を一つずつ潰していこうと思ったからだ。
まず、カフェに違和感を感じた。
あの神社からはかなりの距離があったはずだし、場所も反対方向だ。
そこで、マップアプリを開いてみる。
すると……。
(なんだこれは……)
俺が高校卒業まで過ごした地域と同じ名前であるものの、地図は全てまったく別物であった。
ただ、共通点もあった。
街の中のお店は全て、向こうの世界と同じ名前のものだったのだ。
つまり、街の建物などの配置が全て変わっていた。
そして、街の中心部にはあの神社がある。
(これでもう、同じ世界の可能性はなくなったな……)
俺が更に調べようとした時、どうやら家の近くに来たようで、
「もうすぐ着くぞ」
と、正利がそう呟いた。
「ありがとうございました」
「はいよ、お疲れ様。また頼むよ」
「はい、お疲れ様です。おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみ……」
家に着くと、凛は正利にそう挨拶をして頭を下げ、向かいの家に帰っていく。
街の建物の配置が変わっても、家は向かいなんだな……。
「さて、家に入ろう」
「……」
正利と共に家に入ると、すかさずリビングからいずみが走って出迎えに来る。
「おかえりなさい!……あら、澄も一緒だったのね」
「ただいま。うん、職場に連れ込まれてね」
「何かやったの?まったく、お父さんに迷惑かけちゃダメでしょ?」
「え……」
なんとなく、目の前の母親を見てしまう。
どことなく、向こうの世界のいずみよりも目が鋭いというか……。
性格が悪そうな雰囲気を出している。
「いずみさん……、澄だってそんな悪意は無かったんだし、今回は悪い事じゃなかったんだからそんな言い方はしないで」
「この子の肩を持つの?」
「いや、今回は本当に何もしてないんだ。お店に連れてこられたと思ったら、いきなりその場で意識を失って……」
「そんな筈ないでしょ?朝いつも通り家を飛び出したんだから!」
いきなり、そこで口喧嘩が始まってしまった。
こんな風景は見たことが無かったので、俺は何も言えずにただ目の前で起こっている事に驚きを隠せずに黙ってしまった。
「あなたも何か言ったらどうなの?」
「え……」
「こら、いずみさん」
怒りの矛先をこちらに向けてきたいずみに対して、軽く怒る正利。
「ごめん……2人とも」
俺は何も頭に浮かばず、ただそれだけを言ってその場から逃げるように自分の部屋に入っていった。
「あの子が……謝った……」
小さい声で後ろからそう聞こえたのが、頭から離れなかった。
「とりあえず……、今の状況を整理しよう」
部屋に入ってスマホを取り出す。
メモのアプリを起動して、メモをし始める。
まず、向こうの世界の出来事。
あの縁結びの神様が祀られている神社の賽銭箱前での事。
1.その神社で願い事をすると、その神社の神様が人に憑依して現界する。ただし、憑依先は願い主に憑依する。
2.紫 凛は京介によって本当に殺されたのか。
3.縁結びの神は、願いを叶える為に代わりに生贄を必要とし、その際に人を殺す。だが、今回は特別に、紫 京介に憑依して現界した。
5.俺が願いにやり直しを願ったので、現界。しかし、京介(縁結びの神)の願いを叶える為でもあった。
6.転生するが、俺の世界と似た世界へと飛ばされた。しかし、あくまで似ているというだけであって、全く同じというわけではない。
ざっとこんな所だろう。
だが、整理のつかない事もまだある。
転生というのは、死んで最初からやり直すものだと思っていた。
だが、こうやって途中からのリスタートになっている。
しかし、考えても答えが出ない為、俺は整理したものをもう1度見直したあと、あの神社のことを調べ始めた。
存在する場所と名前を打って検索をかけてみるが、同じ名前の神社は存在するものの、同じ場所のものはどこにも載っていない。
「そんなはずは……」
そして、検索結果のページを数ページ進んでみると、ようやくヒットする。
それは、郷土史系のブログだった。
「えっと」
ゆかり神社は、いつから存在するのかという記事は無いものの、昔から地域にとても大切にされてきた縁結びの神社である。
どんな伝承があるかというと、ゆかり神社で恋愛祈願を行うと、必ず想い人と繋がることの出来るという。そこに訪れ、恋愛祈願をした者の恋を後押ししてきたというも。
この神社の存在する地域では、他の地域に比べ、お見合いでの結婚が昔から少ない地域らしい。
だが、最近はどんどんとその伝承は忘れ去られ、この神社へ訪れる者はこの伝承を知る極一部の人達だけらしい。
「そうなのか……」
あの神社にそんな伝承があった事を初めて知った。
確かにこの記事の通り、伝承が忘れ去られているというのは間違いが無いだろう。
と、その記事に続きがある事に気づいてつづきを読む。
前回、ゆかり神社についての記事を書いたが、調べていくと更に様々な事が分かった。
ただ、ゆかり神社のイメージに関わる物もあるとし、ここには記載しない。
気になるという方は、是非ともこのゆかり神社のある地域に足を運び、地域の郷土資料などを読んでみて欲しい。しかし、一つ挙げられるとすれば、この神社に祀られている神様は、元は縁結びの神様では無かったかもしれないという事だ。
確証は無いので、なんとも言えない。だが、
「……あれ?」
しかし、そこで記事は終わっていた。
明らかに異常な終わり方をしている記事に、不気味なものを感じてすぐにページを閉じる。
「……元々は縁結びの神様じゃない、か」
だが、それはなんとなく本当のような気がする。
何故なら、縁結びの神様が、願いを叶える為に生贄を欲しがるなんて聞いた事がないからだ。
「あー……ここら辺にしておこう」
そこまで考えて、頭がいっぱいいっぱいになりそうだったので俺は状況の整理と調べ物を終了する。
時計を見ると、時刻は夜の八時を回っていた。
「腹が減ったな……」
リビングに行こうにも、先程の光景が頭に浮かんで来てしまい、どうも部屋から出れなかった。
と、その時。
部屋の扉がノックされる。
「あの、澄」
どうやら、いずみが部屋の前にいるようだ。
俺は恐る恐る部屋の扉を開ける。
「さっきはごめんなさい」
部屋の扉を開けると同時に、いずみに頭を下げて謝られた。
「あんな見苦しい所を見せちゃってごめんね」
「いや、大丈夫」
すると、いずみが手に持っていたお盆を俺に渡してくる。
そこには、おにぎりが数個と味噌汁があった。
「体調悪いなら、食べられるだけでいいから食べて?」
「あ、ありがとう……」
その行動に、向こうの世界のいずみに通じるものを感じて素直に感謝を述べる。
すると……。
「いま、ありがとうって……」
そう言って、いきなり涙を浮かべるいずみ。
俺はいきなりの事に訳が分からず、いずみを見つめていた。
「ど、どうした?」
「だって……、今までそんな言葉、あなたから聞いた事無かったから……」
「……そんな」
この世界の俺はよっぽど無愛想だったのだろうのうか?
いずみはそのままリビングへと行ってしまった。
俺は呆然とそれを立ち尽くして見たあと、我に帰って部屋に入り、おにぎりを食べる。
「……うま」
この世界の俺の好きなものは同じらしい。
おにぎりの中身は、マヨネーズと唐揚げが入っていた。
高カロリー過ぎでしょ……。
まぁ、自分も好きですが!