5話 神社
やりたいこといっぱいあり過ぎてもう…
陽は結局泊まる事になったようだった。
先程の話のせいか、少し元気が無い。
まぁ、それも仕方がない。
誰だって再会を待ちわびていた相手が亡くなってたら、言葉に出来ないほどのショックを受けるだろう。
話すタイミングを間違えたな……。
「陽」
「なに?」
リビングでテレビを見ている陽を手招きして、自分の部屋へと連れていく。
「……」
「……」
そして、そのまま無言で時間が過ぎていく。
ちらりと横目で陽を見ると、窓の外をまた眺めていた。
「ごめんな」
「えっ? 」
つい、反射的に謝ってしまうと、キョトンとこちらを見る陽。
「なんで謝るの? 」
「いや、話すタイミング間違えたかなって」
「ううん、結局はどこかで聞いてたよ。大事な幼馴染の事だし」
「そうだな……」
項垂れる俺を見て、陽は少しだけ笑みを浮かべる。
「辛い話言わせてごめんね」
「……」
何も言えずに無言でいると、陽が立ち上がった。
「今日はお風呂入って寝るよ」
「おう…」
「おやすみ、澄」
俺はそれに頷いて返事をする。
そのまま、窓から見える外の風景を眺めていた。
ふと気がつくと、いつの間にか寝ていたようで、時刻は朝の5時だった。
外を見ると、雨が降っている。
と、そこでありえないものを目にしてしまった。
「え?」
凛の家の玄関から、誰かが出てきたのだ。
その人物は、そのまま歩き出したのだが、一瞬だけこちらを見た。
「え……?」
その一瞬だけ見えた顔に、俺は戸惑いを隠せなかった。
「何であいつが生きてるんだよ……! 」
慌てて家を飛び出す。
何を考えるよりも体が先に動いていた。
その人物が行った方向へと走る。
「この方向は……」
昨日の夜に足を運んだ方向だった。
まさかと思い、ただひたすらにその方向へ向かう。
すると、そこで。
「あれは…!」
凛の家から出てきた人物と同じ格好をした人が、神社へと入っていく姿が見えた。
まるで、それはこちらが来るのを待っていたようなそんな雰囲気も出している。
そして、あのお賽銭箱の前でそいつは立ち止まった。
「……」
静かに俺はそいつの後ろに立ち止まった。
「久しぶりだな」
すると、そいうは振り返りながら俺に声をかけてくる。
「やっぱり……!」
振り返ったそいつは……、やはり、凛の兄だった。
紫 京介。
凛の4歳上の兄であり、凛を殺した張本人。
最後に見た数年前と変わらない姿でそこにいた。
「なんでお前がここにいるんだ!?死んだはずじゃなかったのか!? 」
そう、死んだはすの人間がそこにいるのである。
凛の死体と共に、凛の部屋から死んだ状態で運び出された人物。
「それには少しワケがあるんだ」
「黙れ!! お前は凛を殺した癖に…!」
俺は喚き散らしながら、そこで京介の胸ぐらを掴みあげる。
「なんでお前がいきてるんだよ! 」
「少しは……」
「お前のせいで凛が……! 」
「少しは黙れ」
「うがっ?」
すると、その掴んでいた手を一気に外し、更にそのままひねり上げながら俺をうつ伏せに倒した。
「これから話をするから、黙っててくれ」
「なにを……っ!?」
何を言っているんだ!と言おうとすると、鼻先数ミリ前に何かが突き刺さった。
それを目の前から上へとたどるように見ていく。
「刀…?」
今現代とは遠くかけ離れた武器が目の前に刺さっていた。
視線を俺を抑え込んでいる京介の顔へと向ける。
「なぁ、お前昨日の夜にここでお賽銭をした後、願い事をしなかったか?」
「し……た」
抑え込まれているので、まともに息が吸えずに途絶え途絶えに返事をする。
「それが原因だ。ここの神様がなんの神様か知っているか?」
「…知ら…ない」
「ここにいるのは縁結びの神様だ」
そこで、昨日の瀬川の冗談を思い出した。
道理であんな冗談を言ったんだな。
「ここで一つ、何故生きているのかの答えだが、お前がここで願った事によって俺は呼び出された」
「どういうことだ…!」
「なにせ俺は、ここの神社の神様だからな」
「はぁ……?」
いきなり、厨二病臭い事を言い始めた。
にわかには信じられないが……、こいつが生きている事自体がおかしいので、他に理由のつけようがなかった。
「俺は縁結びの神なんだよ」
「本気で言ってるのか……?」
「こんな状況で嘘をついてどうする」
だがしかし、分からない。
それなら何故、こいつは人間のフリをしている?
すると、そんな俺を見てニヤリと笑う京介。
「俺はな、人に憑依して現界するんだ」
「……」
話が現実からドンドンと遠ざかっていく。
押さえつけられていても、抵抗する気が段々となくなっていった。
「だったらなんで、凛に酷い事を……」
「まぁまぁ、そんな焦るなって」
だが、急にそこで京介の表情が無くなった。
唐突にそんな表情になったので、得体の知れない恐怖を感じる。
「お前は色々と見落としている。本当に紫 京介が妹に酷い事をしていたのか?」
「え……」
「本当に紫 京介は妹を」
殺したのか?
「は……?」
「お前は人の言う事をほいほいと信じ過ぎなんだよ」
ちょっと待て、どういう事だ。
京介が殺したんじゃないのか?
だとしたら一体誰が。
「さて、そろそろ時間だ」
「?」
「俺は神様なんだが、一つ不便な所があってだな」
そこで、京介が刀の切っ先を俺に向ける。
「な、何をする気だ」
「願い事を叶える為には、何かを犠牲にしないといけない。そうだろう?」
そして、刀を上に持ち上げる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
「生贄が必要ってわけだ」
「ちょっと待て、まさか…!」
「ああ、そのまさかだ」
瞬間、体に刀が突き刺さった。
今まで経験したことの無い激痛が体を襲う。
「ぁぁぁぁっうぁぁあうあ」
「俺は本来なら、願い主に憑依して、願い主に生贄を殺させるんだ。中には殺さない奴もいるから、そういう時は何も叶わないがな。つまりは、殺すも殺さないもそいつの意志ってわけだ」
地面にどんどんと自分を中心に血が広がっていく。
ただ、それでも俺は京介の言葉を聞いていた。
「よく聞け、お前にチャンスをやる」
「ぐぅ…っ…ど、どういう」
「やり直しのチャンスだ」
やり直し。
それは、俺が昨日願った事。
「本当なら、俺がお前に憑依して何かを殺させたんだけどな。お前は絶対にやらない」
「当たり前だろ…っ!」
どんどん体から抜けていく何かのせいで、感覚がおかしくなっていく。
「正直言うとな、俺ももう散々なんだよ。人が目の前で死んでいくのも」
「……え? 」
いきなり、予想外の言葉が京介から発せられて驚いた。
「だから、お前で最後にして、お前を過去に飛ばす。そして、お前にはやり直しをしてもらう代わりに、過去の俺を止めてもらう」
「ど、どういう……」
体が段々と動かなくなっていく。
ずっと降っている雨が体を冷やしていく。
朦朧とする意識の中、京介の言葉だけが耳に響いた。
「こんなまどろっこしいやり方は好きじゃないんだが、他の手段が見つからなかった。大丈夫、向こうに行って、まず最初に会うやつが俺が憑依しているやつだ。だから、そいつを止めろ」
その時、稲光が空を白く染め上げた。
その光に京介の悲しそうな表情を照らしあげた。
俺はもう、言葉すら出せる余裕が無かった。
ハッキリと見えていたのは、悲しそうな表情の京介。
もう、後は何が見えているのかも分からなかった。
「頼んだぞ、澄」
俺は死んだ。
~完~(終わるとは言っていない)