3話 陽の引っ越した理由
ギャルゲープレイしますぞ!
「ただいま」
「お邪魔します」
家に帰ると、リビングからパタパタとスリッパで走る音が近付いて来る。
そして、母・いずみがリビングから顔を出した。
「ひかりちゃん!」
陽を見るなり満面の笑みを浮かべ、パタパタと陽の目の前にやって来て手を握る。
「お久しぶりです」
「うん……!こんなに元気になったのね……」
「?」
こんなに元気に?
どういう事なのだろうか。
二人のやり取りにそんな疑問を浮かべている俺を見向きもせず、二人は楽しそうに会話している。
「陽ちゃん、久しぶり」
リビングから父・正利もやって来てその輪に加わった。
完全に空気になってしまったので、その横を通り過ぎて自分の部屋へと向かった。
「ふー……」
自室に入るなりすぐにゲーム機を起動し、買ってきたソフトを読み込ませる。
そして、読み込みが完了したと同時にそのソフトを起動する。
《君色シンフォニー》
画面にタイトルが表示された。
「NEWGAME、と」
スタートボタンを押し、物語をStartさせた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝起きると、いつものベッドの上で目を覚ました。
『ふぁ~……』
体を起こして時計を見る。
『…ええと、8時…ん?やべぇ!遅刻しちゃう! 』
慌てて着替えて、荷物を持ってリビングに行く。
そこには、両親が二人揃って朝食を食べていた。
『遅いじゃない』
『ごめん!作ってもらったのに朝ごはん食べないで行くよ!』
『おいおい……』
とりあえず洗面所で軽く顔を洗い、うがいをして家を飛び出る。
すると、家の前には幼馴染の少女が立っていた。
と、そこで部屋の扉が開かれる。
ビクッとなりながらそちらにバッと向くと、陽が入口に立っていた。
『おはよう』
『あれ?どうしたんだ?』
『一緒に行こうと思って』
『おいおい、そんな事してたらお前まで遅刻しちゃうだろ』
そこで携帯の時計を見る。
8時12分。
『って、話し込んでる場合じゃない!走るぞ!』
『え、あっ…ちょっと!』
慌てて走り出すと、後を追うように幼馴染もついてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と、そこで部屋の扉がいきなり開いた。
「入ってもいい? 」
「あー……、うん」
このゲーム画面を横目で見ながら、頷く。
どっちにしろ、部屋の扉が開いた時点で、陽の視点はテレビに向いていた。
開き直って、部屋の中にいれる。
「久しぶりだな……」
陽は俺のベッドの端に座り、部屋の中をじーっと見回す陽。
どことなく俺は、恥ずかしいような、なんとも言えない気分になった。
「ねぇ」
テレビのディスプレイを物凄い微妙そうな顔で見ながら声をかけてくる陽。
「その、オタクなの?」
まぁ、そうなりますよねー。
「いや、友達に勧められて」
「そうなんだ」
とりあえず、そこでテレビの電源を切る。
そして、陽に向き合う。
「久しぶりに来たけど」
と、俺が向き合ったところで口を開く陽。
またもう一度グルリと部屋の中を見回す。
「やっぱ、全然違うね」
「ま、そりゃあそうだな。結構経つし」
「なんかちょっと寂しいけど、思ったよりものが少ない……?」
ジロジロと色々な所を見ながら陽はそう言った。
「そうか…?結構色々置いてあるとは思うんだが」
「うーん……、こんなもんなんかな」
そこで俺は疑問に思ったある事を聞いた。
「陽が引越しをした理由って、なんなんだ?俺は家の事情だって親に聞かされたんだけど、さっきの母さんとのやり取りを見てるとなんか違う気がしてさ」
「え?」
すると、それを聞いた陽は首を傾げる。
「聞いてないの?」
「聞いてない?」
「私が引越し理由は、確かに家の事情ではあるんだ」
「…というと?」
「その時、お父さんとお母さんが離婚してね」
「あー…なんかごめん」
しまったと思い謝ると、陽は首を横に振った。
「いや、大丈夫。でも、それだけじゃなくてね」
「?」
「私、実はあの頃病気にかかってたんだ」
「え…?」
病気?
だが、陽の言葉とは裏腹に俺の記憶の中の陽はいつも誰が見ても男の子と思うくらい、元気よく走り回っていた。
引越しの事を聞かされたのは引越しの前日だった気がする。
「だから、その病気を治療する為には外国に行かなきゃ行けなかったんだ」
「そんな大病だったとか、初知りなんだが?」
「言ってなかったからね。あの頃は凛と澄と3人で遊べるのが嬉しかったから、もし言ったら遊べなくなるような気がして」
窓の外を見つめ、目を細める陽。
「病気は治ったのか?」
「うん、もう何も無いくらいね」
「良かった。じゃあなんでこの街に戻ってきたんだ?」
「最初は死んじゃうんじゃないか、って思ってたんだけどね。治療をしていくうちに奇跡的に治って行ったんだ。それで、お医者さんに完治しましたって言われた時に一番最初に思ったのが……」
そこで、窓の外からこちらに視線をうつし、俺の目をまっすぐ見てくる。
「また、あの頃みたいに3人で遊びたいって思ったんだ。二人に会いたい、ってね」
「そうか……」
「まぁ、私の治療中にお父さんとお母さんがまた復縁したっていうのも理由かな」
「ま、マジか」
そして、また再び陽は窓の外へと視線を向ける。
「凛は?」
「え?」
「凛はどうしてるの?」
「それは…」
俺はそこで窓から見える、真向かいの家を見た。
先程から陽が見つめる視線の先、その家はもう一人の幼馴染が住んでいた家だ。
夕方を過ぎ、辺りが暗くなってきたのに灯りの一つもつかない部屋。
「あいつは……、もういないよ」
「え……? 」
どう言葉にしていいのか分からない。
そのまま事実をストレートに言おうにも言えない。
俺自身が認めたくないからだ。
何年経ってもその事実を。
「それって、引越したとかそういう?」
「いや……」
言い淀んでいる俺を見て、陽は首を傾げる。
「喧嘩でもしたの? 」
「違うんだ」
「じゃあ……なに? 」
「それは……」
言いたくはない。
だが、陽と俺と凛は小さい頃からいつも一緒だった。
隠し事は良くないと頭の中では分かっている。
「あいつなら、俺が中学生の時に死んだよ……」
まっすぐと見つめてくるのを見返せず、顔を逸らしながらそう答えた。
「…えっ?」
どれくらい時間が経ったのだろう、長い沈黙のあと、陽がようやく声をもらした。
「どういう事なの……?」
そして、俺はようやく話す決意をして口を開いた。
俺の記憶に残っている、紫 凛についての最後の記憶を。
あ、あれ?ギャルゲーは……?