2話 おかえり
ギャルゲー未プレイ主人公。
てかそんなもの持って女の子迎えに行っちゃうのね…。
隣を歩く少女の横顔を盗み見る。
パッと見はどこにでもいるような、普通の女の子だ。
どう見ても普通。
だが、何故か彼女の事が気になって仕方なかった。
「佐東さんは、今何歳?」
「16歳です。今年で17歳になります」
「俺の2つ下なのね」
無言で歩いているのも気まずいので、なにか話をしなきゃと思い、声をかける。
普段あまり女子と話をしてこなかったので、ちょっと変になってしまうが、なんとか平静を装って話をする。
「今日は家に用があるの?なにか届け物があるって聞いたけど」
そう言って、彼女の手からぶら下げている紙袋を見る。
「聞いてないんですか?」
「うん」
「ふーん…。ここら辺に公園ってありますよね? 変な形の滑り台の公園」
だが、俺の返事になにか微妙な表情を浮かべ、その紙袋について話さずに別の話題を出してくる。
何か聞いてはいけないものを聞いてしまったのだろうかと思い、彼女の質問に頷く。
「変な形の滑り台のある公園、確かにあるよ」
「じゃあ、そこに連れて行ってもらってもいいですか?」
「何か用があるの?」
「まぁ、少しだけ」
それだけ答えて、彼女は歩き出した。
慌ててその横に並ぶ。
また何か声をかけようと思ったが、どこか不機嫌そうな表情を浮かべているので、結局公園まで声をかけずに歩いていた。
「あそこが目的の公園だよ」
視界に入ってきた公園を指差し、俺は彼女を見る。
すると、さっきまでの不機嫌な表情はどこへやら、とても嬉しそうな表情になっていた。
「わぁ……」
「あそこってそんなに有名な場所なの?」
何故そんなにあの公園でテンションが上がっているのか理解出来ずに、そうたずねる。
だが、彼女は首を横に振った。
「あそこは、思い出の場所なんです」
「思い出の?」
という事はつまり、ここに昔住んでいたのだろうか。
「昔ここに住んでたってこと?」
そう問いかけると、少しまたどこかムッとした表情を浮かべる彼女。
「まだ分からないんですか?」
「え?」
「りんちゃんと澄さんと私でよく遊びましたよね。あそこの公園で」
「りんちゃん…?りんってまさか…」
「そうですよ。紫 凛さんです」
紫 凛とは、昔よく遊んでいた幼馴染みだ。
それを知っているという事は、つまり、目の前にいる少女とは昔に会ったことのあるという事なのかもしれない。
陽という名前の幼馴染みは確かにいた。
だが、目の前の少女とその幼馴染みの陽との印象とか全然別人だ。
「でも、陽なんて名前の友達は確かにいたけど、佐東なんて苗字じゃなかったぞ?」
「そうですね…、家庭の事情で苗字は変わりました」
「それにあいつ、男だったはず」
「……へ?」
そう、記憶の中では男だった。
服装とか仕草とか、態度とか。
覚えている限り、どれも男の子としか思えない印象しかない。
「はぁ~……」
俺の返事を聞いて、深い溜め息をこぼす彼女。
「松本 陽っていう名前だったからさ」
「…まぁそうですけど」
ふくれっ面の彼女……佐東 陽を今1度じっと見る。
言われてみれば、確かに似ているような気もするが、何せ小さい頃の……小学校2年生の頃までの記憶なのでハッキリとは覚えてない。
ただ、あの頃とは別人と言ってもいいレベルで性格も何もかもが変わっていた。
「女の子っぽくなったなぁ」
「そんなに私、小さい頃女の子っぽくなかったの…」
俺の呟きが聞こえた陽はガクっと肩を落とす。
そんなやり取りをしていると公園に着いた。
「なつかしい…」
公園の入口に立って、中を見渡す陽。
すると、手に持ってた紙袋をこちらに向ける。
「ちょっと持ってて貰ってもいいですか?」
「どうした?」
「いいから!」
「お、おう……」
陽から紙袋を受け取り、何をする気なのかと陽を見る。
すると、陽が何回か跳ねたと思ったら、一目散に滑り台へと走り出した。
「コケるなよー」
「こ、転びませんよ!」
一応注意すると、ちゃんと返事をする陽。
そして、滑り台を一気に駆け上がり(※よいこはマネしないでね!)、こちらをビシッと指さす。
「ただいま!澄!」
「あ……」
その風景が、小さい頃の記憶を呼び起こした。
そう、あの日。
陽が引っ越すという事で、最後に遊んだ日の事だ。
『凛!澄!』
今みたいにこうして滑り台の上に立ち、急に何事かと思い陽の方を見ている俺たちに向かって指さして陽は、こう言っていた。
『いつかまた帰ってくるから!ちゃんと待ってて!ちゃんとオレの事覚えてて!』
顔を涙でくしゃくしゃにさせながらも、陽はそう言っていた。
「おかえり、陽」
今目の前にいる陽をしっかりと見ながら、俺は心からそう言った。
二人の顔はあの頃と違って笑顔に染まっていた。
次回 澄、ギャルゲーをプレイする。