1話 出会い
ちょっと、やりたかったからやってみた。
反省はしている、後悔はしていない。
卒業式。
高校3年間は本当に何も無かった。
仲のいい友達と過ごした日々は本当にかけがえの無いと思うものばかりだったが、やはり、なにかが物足りないと思ってしまった。
「もう再来週から仕事なんだよな……」
考えるだけで気分が落ち込む。
同時に、未経験の事なので心はどこかワクワクしていた。
「おいおい! そんな顔してんなよ !」
「写真撮ろうぜー! 」
「お! 俺も入れて! 」
そんなに乗り気じゃなかったが、クラスメイトに引っ張られるままみんなで写真を撮る。
片山 澄 の高校生活は、こうして幕を閉じた。
「ただいまー」
卒業式に参加してくれていた父親と共に家に帰る。
すると、リビングから、おかえりー、と声が帰ってきて、母親がやってくる。
「どうだった? 」
「卒業式をどうだった? って聞かれてもな」
「いずみ、澄は立派に卒業したよ」
「まさとしさん、そうなの? ふふ、よかったわ〜」
「この後、出かけるから」
「えー……、夕飯には帰ってきてね? 」
「はいはい」
うちの両親はとても仲がいい。
何年経ってもお互いの名前を呼んでいる。
他の家にお邪魔すると、お互いに呼び合う事が無いか、あだ名のような呼び方でお互いに呼びあっていた。
うちの親は軽い感じも無く、かと言って冷たい訳ではない。
それをとても羨ましく思った。
そんな両親を視界の端に捉えながら自分の部屋と入っていった。
「はぁ……」
恋愛をしてみたいと、何度も思った。
この人いいなー、この人と付き合いたいなー、というのは何度もあった。
だが、それと同時に怖くもあった。
告白をして、怖がられないか、とか。
「……チキン野郎」
鏡の前に立って、自分を見ながら自分にいう。
鏡の中の自分は、どこか少しだけ悲しそうな顔をしていた。
「いってくる」
家を出る前に、リビングにいる2人に声をかける。
すると、父・正利が手招きをする。
「一つ、頼み事があるんだが」
「なに?」
リビングに足を踏み入れて、話を聞く。
「俺といずみの同級生の夫婦の娘さんが、今、駅前にいるらしいんだ」
「で?」
「うちに届け物をしてくれるそうなんだが、迎えに行ってくれないか?」
「別にいいけど……。特徴は? 」
「見れば分かる」
見れば分かる、って……。
それを聞いてため息をつきつつ、名前を尋ねる。
「名前はなんていうんだ?」
「佐東 陽ちゃんだ。頼んだぞー」
「はいはい」
手をひらひらとさせている父親に肩をすくめながら、家を出た。
母・泉が静かだと思ったら、ソファで寝ていた。
「つっても、特に用がないんだよな……」
当ても無く、ブラブラと歩く。
免許はあるが、免許がしっかりと効力を発揮するのは4月の1日かららしいので、それまではあまり乗らない。
「ゲームでも見に行くか」
暇潰しに近くのゲームショップに足を運ぶ。
歩いて20分程で、ゲームショップにつく。
店内を散策していると、何故かあるゲームの棚で足が止まった。
恋愛アドベンチャーゲーム。
よく友達に勧められていたが、どうにも気が乗らなくて手を伸ばせなかった。
アニメやマンガは見るものの、実際にこういうものに手を出そうとなると、何故か尻込みをしてしまう。
「これ、気になるな……」
手に取ったのは、パッケージに大きくひとりの少女が描かれていて、他のゲームよりも色合いが派手じゃないものだ。
内容は、高校2年にの春、主人公は何気ない日常の中で、ある少女と関わる。それがきっかけで主人公の青春が動き出す、という物だった。
「現実じゃ、ありえないけどな。やってみるか」
他にもなにかあるか、と思って漫画や他のゲーム等も見て回ったが、特に何もなくそれだけを購入し、店を出る。
「そろそろ駅の方に行くか」
そんなに時間は経ってないはずだから、大丈夫だろうと駅に向かって歩き出した。
「って言っても、初対面の人を見て分かるか、って分かんないだろ……」
向こうが自分の事を知っていれば、話は分かるのだが。
そういう説明も無かったので、それと思わしき人物に手当り次第に声をかけて行くしかない。
そう思ってしばらく歩いていると、駅が見えてきた。
「どれだ? 」
まだこの距離では誰がそうなのか分からず、駅の前の信号で止まる。
右の端から、左の端へと見ていく中、思わず目を止めてしまう存在がいた。
見た目は普通の女子だ。恐らく、同年代だろう。
何かが突出している訳でもない。
だが、何故だろうか。
その少女から目を話せなかった。
まだ話すらした事もないのに、お互いの事を知らないのに。
彼女の事が気になってしまった。
だから、自然と足がその少女の元へと向かっていた。
少女はこちらに気づいていないのか、手に持っているスマホをいじっている。
だが、少女の表情は少し、困ったような顔をしていた。
そして、その少女の前に立つと、その少女が顔を上げた。
整ってはいるが、綺麗!とか可愛い!とか騒がれる方ではない顔立ち。
「あの、すいません」
「……はい?」
知らない人に声をかけられて、訝しむようにこちらを見る少女。
「佐東 陽さんですか?」
「え? そ、そうですけど……あなたは?」
この時の事を俺は忘れない。
「片山 澄です。父に言われて、佐東さんを迎えに」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
そう言って笑った彼女の最初の笑顔を。