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「そのスカートのところに行きたい」

作者: 梅榎木

これは1月27日に実際に起きた事案を元に作成しております。詳しく知りたい方はネットなどで調べて見てください。

少女「あっちです。」

西の方角を指差した。

男「西か…。」

そうとだけ言うと、男は向きを変え歩き出した。

全身黒のジャージにリュックを背負い、

まちゆく人に話を聞いては、

野宿をしながら歩き続ける毎日だった。

すっかり日も落ち、

時刻はすでに午後10時30分を回ろうとしていた。

男は寒さに我慢できず、

両手をズボンの中へと突っ込んだ。

今日は1月27日。

まだまだ寒さが堪える季節だ。

男「これじゃあ不審者と間違えられても文句は言えないかな。」

男は自分の今の姿を見て笑った。

年はまだ40近く。

今が人生で1番忙しい時期のハズだが、

行くあてもなく、歩き続けていた。

家族はなく

仕事はこの旅に出るときやめてしまっていた。

なけなしの金と、

己の夢だけをリュックに詰め、

住んでいたアパートにお別れをした次第だ。

男「(これで探しても無理だったら、この町ともお別れか。)」

さっきの少女の情報はかなり有力だったが、

必ずしも本当の情報であるとは限らない。

この町の住人にできるだけ話を聞いて回ったが、

さっきの少女を除いては、誰1人としてわたしの求めているものの情報を知っている人はいなかった。

今夜も野宿。

かれこれ3時間は歩いた。

近くにある公園が目にとまり、

いつものように公園で大人1人寝転がれるような遊具を探した。

男「子供の頃、よく両親と喧嘩したとき、こんな感じの公園に家出しに来てたな…。」

男は両親のことを思い出すと、

無性にそわそわした。

男「そもそもなんだって私はこんなことを、しているんだ。両親に恥ずかしくはないのか!……いや、しかしここで終わらせては、それこそ恥だ。」

男はぶつぶつと独り言を言いながら明日の計画を練っていた。

男「(明日は朝早く出よう。もし西へ向かってなにもなかったら、今度は、今度は少し違うことをしてみようか…。もしかしたら、動物ならわかるかもしれない。のら猫や鳥なんかだったら、少しは人に聞くよりもマシな答えが返ってくるかもしれん。」

寝ようと目を瞑ると、まぶたの向こうから、

光が漏れていることに気がついた。

男「ん…、何だ。朝になるにはまだ早いぞ…。」

目を開けると、西の向こうの少しばかり盛り上がった丘に、あかりが灯っているのに気がついた。

あたりは真っ暗で、

周りの家の電気は全て消えていたが、

その丘だけは、灯台のように男を照らし続けていた。

男は走った。

全力で走ったって体力がもつわけじゃないのに、

不思議と足が止まることはなかった。

靴は脱げ、足の裏にコンクリートの冷たさと、

小石たちの突っつきとが、

男の行く手を阻もうとした。

だがそれは、すでに遅い。

可能性を目の前にした子供に、そんなものはきかない。

“熱中”とは、誰もが一度は経験したことがある、

だが、

いずれもう大人なのだからと忘れてしまったもの。

男は丘の頂上へとたどり着いた。

丘の頂上には大したものなど見当たらない。

だが、男にとって、それは十分すぎるほどに価値のあるものだった。

そして、そばに近寄り、手で探るようにして、思いっきり泣いた。

家族はおらず、仕事を無くし、全てをこのためだけに注いで来た男の心は、時を忘れ、流した涙と共にスッと軽くなった。

えずく自分をどうにか抑え、声を振り絞る。

男「ただいま。」

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少女「今日ね、不思議な人に会ったよ。私に『このスカートのところに行きたい』とか何とかって言って来たの。」

少女母「え!それってもしかして変質者って奴じゃないの?どこで会ったのよ。」

少女「いや、塾の帰り道。」

少女母「で、なんて言ったのよ。あんた。」

少女「いや、訳わかんないから西の方指差して『あっちです』って。」

少女母「明日すぐにでも警察に行きましょ。ねっ。」

少女「うーん、でもおじさんなんか悲しそうだったっていうか。寂しそうな感じだったよ?」

少女父「ただいまー。」

少女母「あら、お帰りなさい。そうそう、聞いてくださいよー。この子がね、さっき変な人に会ったって言うのよ。」

少女父「なに?どんな感じだったんだ。」

少女「それがー、(カクカクシカジカ)。」

少女母「ね、気持ち悪いでしょ?娘に『そのスカートのところに行きたい』だなんて。」

少女父「…深いな。」

少女母「はっ?」

少女父「どこか哲学的な雰囲気を持ちながら、それでいて味わい深い。なんとも言えないが、そのおじさんはきっと只者ではないよ。うん。」

少女母「なに言ってるの⁉︎あなた、どこかで頭でも打っちゃったんじゃないの?そんなのおかしいに決まってるじゃない。そうよねぇ、少女?」

少女「深い……か…。やっぱり私もなんか変だとは思ってたけど…。」

少女「深いね。」

少女父「深いな。」

少女母「…………」

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真実は誰にもわからない。分かりたくもない。

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