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人は、すぐには変われない。

 ママが恋しい。

 中学生になったって、その気持ちは変わらなかった。


 児童から生徒へ。

 目立たないただの児童だった僕が、学級委員長になった。


 それなのに、僕の中身は変わっていない。


 人は、すぐには変われない……よね。



「そろそろ帰らないと。僕、七海を保育園に迎えに行くんだ」

「あぁ、そんな時間? 大変だな」

「大変じゃないよ。いつものことだもん」


 宮野くんは、ふっと笑みを浮かべた。軽く右手を上げると、それが「またな」の合図だったらしい。ブランコから立ち上がって、家の方に向かって歩き出した。僕は、その背中に向けて声を掛ける。


「宮野くん、また明日ね!」


 返事はなかった。背を向けたまま、さっさと歩いていってしまった。僕も保育園に行こうと、公園を後にした。


(パパに早く話したいなぁ)


 宮野くんと久しぶりに話せたことは、嬉しかった。ほくほくした気持ちのまま、すずらん保育園に程なくして着いた。赤ちゃんの泣き声や、小さな子の笑い声で溢れかえっている。先生たちはすごいなぁと、いつも思う瞬間だ。


「あぁ、誠也くん。こんにちは」

「こんにちは、南先生」

「ちょっと待っててね。七海くーん、お兄ちゃんのお迎えですよー」

「にぃにぃ!」


 積み木で遊んでいたらしい七海は、手に積み木をひとつ握ったまま、下駄箱まで走って来た。僕がしゃがんで、七海の目線に合わせると、嬉しそうに笑ってくれる。にぱぁと笑った顔は、本当に天使だと思う。


「七海、おかえり。でも、積み木はお片付けしておいで?」

「う?」

「おかたづけ。ね? 置いて来て?」

「あい!」

(本当に分かったのかな?)


 ちょっと疑問に思ったけど、七海はとてとてとふらつきながらも、また教室の中へ戻って行った。次に下駄箱に来たときには、積み木を持っていなかったから、きっと片付けて来てくれたんだと思う。そう信じることにした。


「さぁ、帰ろう? 今日はパパ、早いって言ってたよ。もうすぐ帰って来るかも」

「パパ!」

「うん。帰ろうね」


 七海の右手を握って、ゆっくり歩きだす。よちよち歩くから、あまり早くは歩けない。七海が転ばないように、歩幅を合わせて隣を歩く。

 桜はもう、葉桜。あっという間に花は散ってしまったから、七海が撮った奇跡の一枚も含めて、ママに花の写真を見せに病院へ行けたことは嬉しかった。でも、なんだかまた痩せたように見えたから、それが気がかりだった。パパは、「ママは大丈夫」って言ってくれているけど、ママとの面会回数は日に日に減っている。


 つい、表情が暗くなってしまう。

 そんな僕を見上げて、七海が首を傾げた。


「にぃにぃ」

「あ、うん。ごめんね、大丈夫だよね」

「あい!」


 なんのことだか、絶対分かっていない七海に、僕は励まされたような気がした。くすっと笑って、七海の大きな瞳を見つめ、七海の柔らかい茶色っぽい髪を撫でた。

 家に着くと、駐車場には既に車が止まっていた。白色の普通車。パパの通勤用の車だった。


「あ! パパ、もう帰ってる!」

「パパ!」


 門の扉を開けて庭に入り、玄関ドアの前で立ち止まる。カバンに仕舞っている鍵を取り出して、ガチャリと左に回して鍵を開ける。ドアノブを下げて手前に引くと、ドアが開いた。


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