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生きることは、選択の連続だ。

 長い人生の中、僕たちはいくつの選択をしなければいけないのだろう。

 大きな選択から、小さな選択まで。

 その分岐点に立たされるたび、僕はとても悩んでしまうんだ。



 桜の花は舞い散り、若葉が茂りだした頃。僕はようやく学級委員という自覚が芽生え始めて来ていた。クラスメイトとも打ち解け合えたし、みんなと仲良くやっていける。少なくとも僕はそう感じていた。でも、今だに宮野くんだけは、周りから孤立していつでも独りで行動していた。そんな宮野くんをみて、僕はどうしても放っておけない。そんな気持ちになっていた。

 お節介。そう言われたらそれまでかもしれない。だけど、僕はそれでもよかった。周りがいくら宮野くんのことを「問題児」だの「物騒」だの言おうとも、僕自身が宮野くんから何かされない限りは、そういう判断はしたくないという決意を、今も変わらずに抱いていた。


 宮野くんは、そんな僕を避けるようになっていた。


 キーンコーンカーンコーン……。


 今日も、帰りのショートホームルームが終わった。加河先生がガラガラっと教室の前側の扉を横にあけて外へ出て、廊下に出ると扉を閉める。出て行ったところで、みんなが一斉にざわつきだして、席から立ちあがった。僕たちは今、部活をどこに決めようかと悩んでいる最中だった。

 この鈴蓮中学では、帰宅部は一応認められていなかった。「一応」というのは、幽霊部員というものは存在しているらしくて、それは事実上の帰宅部と言えるからだ。ただ、誰もが一応は何かしらの部に名前を残している。当然、僕も何かしらの部に入らなければいけない。でも、何部にしようか未だに決めあぐんでいた。


「誠也。部活、決めたか?」

「あ、敬くん。ううん、僕はまだ決められなくて……」

「今日は何部を見に行くんだ?」

「うーん、どうしようかなぁ」


 仮入部をすでに決めているクラスメイトも何人かいた。いや、ほとんどの生徒が決めている頃合いだった。僕はみんなから、やっぱり遅れを取ってしまっている。

 小学生の頃は、五年生と六年生の間だけ「クラブ」に入らなければいけなかった。でも、中学生になったら「部活」へと名前が変わる。「児童」と「生徒」の変化のようで、見た目は同じように感じられるけど、中身がより深いものに変わったような気にさせられる。小学生のときは、気軽にクラブを選んでいたけれども、「部活」と言われると身構えてしまって、なかなか「これ!」というものを決めきれずにいた。

 いくつかの部を、見学には行っていた。どの部もみんな一生懸命で、クラブ活動のゆるい雰囲気とは違うのを見せつけられて、身構えてしまったところもあると思う。先輩方の気迫は、本当に圧倒されるものがある。体育会系だけではなく、吹奏楽などでも地区大会、県大会があり、もっと上を目指すなら全国大会まで道が拓ける世界だ。小学校の仲良しクラブ活動とは雰囲気が違って、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。


「敬くんは、もう決めたんだった?」

「俺は、どこでもいいんだけどな」

「え! そうなの?」

「どうせ、幽霊部員になるだけだから」


 紺色の眼鏡の中心部分をくいっと中指で上げながら、敬くんはさらりと答えた。その答えに、僕は目を丸くした。つい、ぽかんと口が開いてしまう。


「幽霊部員確定なの?」

「前に言っただろ? 塾に力を入れたいって。部活に励んでいたら、勉強が疎かになるからな」

「敬くんは、もう受験のことだけを考えているんだね?」

「そういうこと。まぁ、幽霊部員になって心配なのは、内申書だけかな」

「はぁ……敬くんはすごいなぁ」


 僕の頭の中の世界では考えられないことを、敬くんはいつも進んでいる。同じ小学校を出て、ずっと一緒に遊んできた友達だと思っていたのに、いつから僕は敬くんの背中しか見ることが出来なくなっていたのだろう。

 学級委員長になろうと決めたことだって、敬くんのようになりたかったからだ。その背中を捉えたと思ったのに、僕の手は空を切るばかり。何も掴めずに空振りして、敬くんは更に先へ進んでいく。



 僕は学級委員になった話を、パパにした。

 パパは、「頑張ったな」とすごく褒めてくれた。

 それと、「誠也は誠也だ。誠也のペースで歩めばいい」と言ってくれた。



 だけど、僕のペースで歩んでいると、気づいたときには誰も、何も、いなくなっているんじゃないか。そんな不安が最近よぎるようになったんだ。



「誠也?」

「あ、ううん。なんでもない。敬くんはすごいなぁ……と思ったら、ついぼーっとしちゃって」


 僕は平静を装うと、両手をパタパタ仰いで笑った。それを見て、敬くんはちょっと変な顔をしてみせたけど、それ以上踏み込んではこなかった。


「で、今日は何部を見に行くんだ?」

「どうしようかなぁ。僕、体育会系も気になるし、囲碁とか将棋も珍しくて気になるんだ」

「囲碁に将棋……俺はパスだけど、誠也には向いているかもしれないな」

「敬くんは、運動も出来るし頭もいいし。なんでも出来そうだよね」

「いいや、俺はどれもどっちつかずだから、実際のところは何も向いてないんだよ」

「そういうものかな?」

「うん」


 しっかりと頷いた。敬くんから、貫禄を感じてしまう。しかし、本当にどうしたものか。今まで、テニス部やバスケ部など、体育会系の部活は見学してきたけど、まだ、美術部やそれこそ囲碁や将棋部は見てこなかった。今日は文科系の部活動を見学しようと、ようやく方向性を決めることが出来た。これは、敬くんのおかげだ。


「僕、今日は囲碁部を見て来るよ」

「いいんじゃない?」

「敬くんも一緒に来る?」

「いや、俺は遠慮する」

「帰るの?」

「あぁ、仮入部はサッカーかバスケにしようって決めてたんだ」

「あ、もう決めてたんだね」


 敬くんは、なんだかずる賢い軍師のような笑みをにやりと浮かべた。眼鏡が外からの光を受けて反射して、キラッとする。なんだか、タイミング的にも漫画みたいだ。


「新入部員の人数が多い部活の方が、抜けても目立たないだろ?」

「……わぁ、策士だぁ」


 さすがは頭脳派敬くんだと、心底僕は感心した。これは、褒めるべきところじゃないのかもしれないけど、自分の未来に向けての選択肢なのだから、誰かがとやかく言うべきことではないとも思う。敬くんが勉強に力を入れて、希望の高校に進学できるように応援するのが、本当の友達なんじゃないのかなと、僕は思っていた。

 僕のその選択が正しいかどうかは、分からない。本当は幽霊部員って駄目なものなんだと思うから。はじめから幽霊部員になることを宣言している敬くんを、学級委員としても止めるべきだったのかもしれない。そういう選択肢もあるのかもしれない。それでも僕は、まだ、学級委員長としての役割をどこまで全うすればいいのか分からないし、小学生から中学生に上がったばかりで、いきなりいろんなことの決断を強いられても、分からないというのが本音だ。委員会、係からはじまって、部活動の選択。委員会はまだ、一年生前期までの役割らしいから、結果的にそこまで重苦しいものではなかったのだけれども、部活動は途中で変えることは出来ないそうだ。これは、今後の中学校生活を大きく左右する選択のひとつだと言えるから、つい慎重になってしまう。



 僕は、怖いんだと思う。

 変な選択をして、新しい環境を変に壊したくない。


 だからといって、何の選択もしないで進むことなんて無理だ。

 それに、中途半端な選択をしても、きっと僕は後悔する。


 だったら、敬くんみたいに振り切った選択をすることが大切なんじゃないか……。

 時には、恐れず前を進むことも必要なんだ。



 みんなが各々カバンを片付けて、仮入部や部活見学へと出かけていく中、廊下側に座っていた宮野くんは、珍しくまだカバンもそのままで、席に座っていた。その光景が気になって、僕は窓際から宮野くんの方へ歩み寄った。


「宮野くん。どうしたの?」

「……片瀬か」

「……?」


 いつもどおり不機嫌そうな声。でも、なんだかいつもとは様子が違う。いや、同じといえば同じなんだけど、何か違和感がある。鈍い僕だけど、そんな僕にでも分かるくらいの違和感が、今の宮野くんにはあった。


「どうしたの? 何かあった?」

「……なんでもねぇよ」

「…………あの、さ」



 僕は、決断した。

 選択肢は、きっとひとつじゃない。

 正解も、ひとつじゃない。


長らく放置していましたこの作品ですが、ようやく新作投稿となりました。

読んでくださった方、待っていてくださった方。

ありがとうございました。


今後も、誠也たちのストーリーも続けていきますので、よろしくお願いいたします。

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