1.創造と想像
そんなこんなでわけのわからん場所に連れてこられた俺はひとまずあたりを散策しようと立ち上がった。
「どこ行くんだい、お兄ちゃん。ここには何もないぜ!」
親指を立てながらドヤ顔で仁王立ちしているのは俺の妹もとい、俺の生きる世界を創造した張本人。創造神イザナギである。
「だろうな。何なんだここは一面真っ白じゃねえか。銀世界って感じだな。」
この場所から見る限りここには何もない。どこを見ても白。空までもが白だ。そもそも水平線が存在しない。
「ここは世界の土台だよ。ここから世界ってのは創造されるんだよ。」
神様いわく、異世界が都合よく存在すると思うな。とのことだ。
「世界を創造するっていうのはすーごく大変なんだよ!この前メインの他にサブ作ったんだけどさ、メインの方がすごいことになっちゃったんだよね。ほら、世界大戦とか恐慌とか。」
「お前が原因だったのかよ!で、そのサブはどうしたんだよ。」
「メインの世界の対応に明け暮れちゃっていつの間にか生命体がいなくなっちゃったからデリートした。」
大丈夫なのかこの神様は。
「つかそんなの別の神様に任せればよかったんじゃないのか?」
俺の前に突っ立っている神は、何言ってんだよこいつ。といった目をしてとんでもないことを言いやがった。
「神が二人もいるならあの世界はもっと安全だよ。神は私一人だよ。」
「なら神生み出せば良かったじゃないか。世界創れるんだから神ぐらいどうってことないだろ。」
「作ったことあるんだよ?えーとね、名前なんだったかな。お兄ちゃんも聞いたことあると思うよ。えーと。ああ。天神くん。」
「ああ。菅原道真にそんな名称があったな。」
「そんなんだよ。地球を任せてたら、俺は下界に行く。なんて言い出してさ。島流しにあった末落雷で人間焼き殺しちゃってさ。私頭に来ちゃってデリートしちゃった。」
天神ってそんな規模でかい神だったのか。それにしてもとんだひどい奴だなこいつは。創造神って何でもありか。
「で、神さんよ。世界を創造するっつっても俺は何をすればいいんだ。」
「なによ今更。薙祇とかお前でいいよ。何年一緒にいると思ってんの。」
「たったの17年だよ。お前は何年生きてんだよ。」
「女の子に年を聞くとか男として最低だねお兄ちゃん。」
「神のお前に性別とかあんのか。それより話がずれてる。」
「おお!そうだった。そうだったね。なんの話だっけ。」
こいつに神なんて勤まるのか。いや勤まらなかったからあんな世界になっちまったのか。
「俺はこれから何をすればいいんだって話だよ。」
「世界創るんだよ、私と一緒にね。」
「詳細を。」
「んま、やってみるが一番だよ。百聞は一見に如かずってね。とりあえず、私はお兄ちゃんが世界を作る手助けをするだけ。私はメインに戻ってちゃんと監視しないといけないから。」
「てことはやるだけやったらお前なしで世界創らないといかんのか。」
一般人に対する見解をこいつは間違っている。俺は何の変哲もない普通の高校生なんだぞ。
「大丈夫だよお兄ちゃん。やり方を何から何までまとめて本にしたから。それにこの世界に来た時点でおお兄ちゃんはちゃんとこの世界に対する神権もってるんだよ。よほどのことがない限りお兄ちゃんの思うがままにできるんだから。」
なんていいながら妹はとんでもなく分厚い本を俺に投げつけた。とんでもねえ。何ページあんだよこの本。
「応用編もあるけどこっちもいる?」
「いらねえよ!基本もこの量じゃ読めねえ。つか、まだお前が本当に神なのか信じていないのだが。何か神らしいことをしてくれよ。」
「神らしいことねえ。それじゃあ世界を創るに関しての願い事なら五つまで聞いたげる。」
「神のくせに制限するとは呆れるぜ。」
「神が神に願い事するってのもなかなか笑えるけどね。」
「う、うるせえ。」
願い事。世界を創造するにあっての願い事。楽に世界を創ることができるように...
「そんじゃ、一つ目。手に触れた文章のかかれた紙やら本やらの内容を自分の頭に叩き込める能力をくれ。」
「うっわ、お兄ちゃんらしい最低な願い事だね。」
最低とは何だ。という兄の言葉に耳も傾けず薙祇は俺の頭に手を当て、目を閉じた。触れられた部分に熱がこもったように感じる。
「終わったよ。試しにその本で確認したら?」
言われるまでもなく俺は先ほど渡された本を手に取る。
「おお!すげえ!なにこれ新感覚!」
頭に何かが流れ込んでくるような感覚に見舞われ、終わった後は膨大な知識量から自分がまるで別人のように感じた。
「あほくさ。で?次は何するの?」
「んなもん決まってんだろ?現実世界に戻してくれ。」
んなことするかと殴られた。俺の満点街道が一瞬にして消えた。
「それじゃメインの俺の扱いはどうなんの?」
「強盗が家に来て死んだってことにしといた。」
「仕事が早いな。それじゃ、二つ目。メインとこことのネットワークをつないでくれ。」
「なるほどね。はい。」
薙祇はポケットから携帯端末を出し俺に投げる。さながら青い狸のポケットのようだ。
「機能はスマホなんかと同じだよ。私に連絡できるようにしといた。それから情報とかはちゃんとリンクされてる。」
俺はそれをポケットに突っ込み次の願い事を考える。大体の事はわかったしできたらいいと思っていたことは本にできると書いてあった。もう願うことは何もない。こいつが神なのかということは一番最初の願いで確信にまで至った。
「それじゃお兄ちゃん。この世界の理想図を教えてもらおうじゃないか。」
理想図ねえ。うん。それじゃ。
「ケモ耳っ子がいっぱひぃぃぃぃぃ。」
まだ詳細を語ってもいないのにどこからともなく出現した一太刀の剣により俺の理想図は真っ二つに切り裂かれた。
「なにすんだ!あぶねえじゃねえか!!」
「真面目に考えないとあなたの妹は神殺しをしなくてはいけない。そんなこと私にさせないで?」
おっかねえと思いつつ次はまじめに考える。本によると俺が想像したとおりに世界は創造されるらしい。
俺は手始めにメイン世界の宇宙を想像した。すると一面真っ白だった世界が急に暗くなり夜空のように星がきらめき始めた。
「うおすっげ。超綺麗じゃん。」
「これ私の考えたのとほぼ同じじゃない。著作権侵害だあ!」
「想像に著作権なんてないだろうが。」
それにしても予想以上の力だ。何もない場所から広大な宇宙が一瞬にして出現した。
それから元素なんかはメインから応用した。もちろん星の位置やら大気の濃度も同じにした。
「生命体がいないと創る甲斐がないよな。」
「私もそれ思った。んで何も知らなかった私はのちに微生物と名の付くものから創造した。」
「だよな。でもそこから行くとなるとめんどくさいな。」
もし地球を中心に考えて環境はメインと同じなのだから微生物から創造するとなると相当の時間がかかる。そんなめんどくさい作業はごめんだ。かくなる上は...
「薙祇。三つ目の願いだ。」
「もういいて言ったじゃん~。ま、いいけど。」
「地球をファンタジーの世界にしようと思う。ファンタジーを現実にする。というわけでその土台となるもんを作ってくれ。」
「はあ。言うと思ったよ。前に私が考えたけど実行にまではいかなかった設定を反映させるよ。」
俺達は地球の大きそうな都市があるところの上空に転移した。文明はだいぶ発達している。
「種族はあの小説と同じだから。ちゃんとモンスターもいるよ。ポップも何から何まで自動でなるようになる。というかお兄ちゃん全然仕事してないよね。」
言われてみればそうだが仕方ないじゃないか。知識はあっても初めてなんだから何をすればいいのかわからない。しかし何もしないってのは何か物足りない。
「んじゃ、この世界で俺自身が生活するってのはどうだ。」
その言葉を聞いた薙祇の顔が急に暗くなった。
「お兄ちゃん。別にそれは禁止事項じゃない。でも気を付けて、転生すると生まれてから死ぬまで神権の半分以上が使えなくなる。それに降り立てるのは一回きりだからよく考えて。監視していないときの世界の動きにはくれぐれも注意すること。それじゃ私はメインの世界の監視に戻るから何かあったら連絡ちょうだい。」
薙祇はそう言い残しこの世界から消えた。転生するのは世界が安定してからにしようと俺は心に誓い、雲の上に不可視の部屋を作りそこから世界を監視することにした。
「んじゃ。いっちょやりますか。」
俺は誰も居ない部屋で伸びをし世界のあちこちを映す数十台のモニターの前に立った。
めんどくさいくらい規模のでかい俺の神様生活が始まる瞬間は何の変哲もない日常が始まるのとなんら変わらなかった。
~続~
いつだって始まりというものはあっけないものである。