プロローグ
登場人物
夜見蔵 創士<よみくら そうし>
薙祇< なぎ >
異世界。その言葉に人は何を連想するだろう。
アニメや漫画、ゲームに小説。
それらは異世界に対する人の期待そのものではないのだろうか。
人はそれを見聞きし憧れ、行きたい願う。
しかしそれは願いでしかない。あるはずがないのだから。
そうやって否定すれば現在まで伝えられている神話や伝承は信じられなくなる。
無論、俺は信じていない。
そんなものは誰かが都合よく作り上げたものであり神、悪魔、天使、仏なんてものは実際には存在しない。
人間の想像力、妄想力は時に世界を変える。世界を超える。
人間の可能性というのはすごいものだ。
時に自分の可能性というものを知りたい衝動にかられるが誰も教えてくれるはずなくその欲求はそこで断ち切られる。
実際、17年生きてきた中で自分の可能性を垣間見る機会なんてもの訪れる気配さえなかった。
生まれてくる世界間違えたかな。なんて思いながら俺は読んでいたファンタジー小説を閉じた。
「なぁ兄よ。私は新世界の神になりたいのだが。」
「宿題終わらないからって何わけのわからないことを言っているんだ。」
「だって多いんだもんんああぁぁ消えて無くなれぇぇぇぇ!!!」
夏休みももう終わりに差し掛かったころ。俺、夜見蔵創士は自宅自室で妹、薙祇の手を付けていなかった宿題を見てやっていた。
「なれるもんならなって欲しいもんだよ。ついでにこの本みたいな世界にしてくれ。」
なんていいながらさっき読んでいた本を妹に渡した。
「私にはそんなことできないよ。どうよ面白かったでしょ?」
「ああ。この前読まされた神々誕生の秘話ってのは最悪だったけどな。」
日本の神がイラスト付きで解説されているいわば幼児辞典のようなものを先日、妹に見せられた。幼児辞典なのだがイラストは大したものだったので説明欄は読まず絵を楽しんだ。こう言うのはただの理想論であって妄想論でしかない。
「最悪言うなーー!!あの本は数少ない真実を書いた本なんだよ。それがなんだって最悪なのさ!言ってみやがれくそ兄貴!!」
目に入りそうな近さに話にあった本を出されたので俺は少し後ずさった。そして、その本を手に取り最初のほうのページを開く。
「なんでイザナギが女なんだよ!!相場は男ってことになってるだろ。」
「それは相場が間違ってるんだよ。」
「そんな日本語兄は信じない。」
「私の日本語は全部正しいんだよぅ。」
なんてわけのわからんことを言う妹なのだが国語科のテストは今まで一つのマイナスもつけられたことがない。ちなみに俺は真っ赤に染まっている。できる妹をもってしまった兄の気持ちは同胞にしかわからない。
「それよりこの小説の続きお前の部屋か?」
「そだよ。取ってきてげる。」
と立ち上がろうとする妹の頭の上に手を置き重力の力を借り体重をかける。
「うおお重いぃ。なにすんだよお兄ちゃん。」
「お前は宿題やってろ。自分でとってくる。」
「うぇー。ダメだよ今部屋ちゃんとしてないから。」
知るか。下着なんかが落ちてたら俺の餌食だ。ま、そんなことあるわけないか。
「別に兄弟なんだからいいだろ。」
「別にいいけどさ。それじゃ頑張ってね。期待してるよ~。」
「俺は何を頑張って、何を期待されてるんだよ。」
にっこり笑って手を振る妹を背に俺は自室を出て向かいにある妹の部屋の前に立った。
妹の部屋のドアには無数のお札が張られている。妹いわく、向かいの妖怪を鎮めるための術式らしい。兄の扱いひどすぎるだろ。
「ま、効果なしってことで。いや、でも気味悪いな。」
ドアノブに張られた札をはがしノブを握る。そこで悪寒が走った。廊下には誰もいないし気配も感じない。
「気のせい、、、か。」
1つ深呼吸をしもう一度妹の部屋と面向かう。
「兄ちゃんみつかった?わかんないとこあんだけど。」
「はい!!!?」
ドシ!!
自室から聞こえてきた妹の声にビビッて妹の部屋のドアに背をぶつけた。その衝撃で何枚かの札がヒラヒラと落ちる。
「ええ!?すごい音したけど大丈夫!?」
「も、もうすぐ行くから待ってろ。」
逃げるように俺は妹の部屋に入った。
クーラーがついているようで真夏の癖に寒気がした。
「なんだよ。あいつクーラーつけっぱなしじゃん。」
さっきの寒気の原因はこいつかと思いながら俺は目当ての本を探す。本棚にあるはずなのだが。
「あっれ。ねえぞ?」
もしかして机かと思いみたら案の定教科書と一緒に積まれていた。本を手に取ろうとしたその時俺は気づく。おかしい。部屋なら普通はあるはずでなくてはならないはずのものがこの空間、妹の部屋から消失している。そんなものあるわけがないだろうと嘲笑うかのように。
「部屋の壁から放たれる圧迫感がない...。」
何より先に自分が入ってきたドアを確認しようと後ろを振り向く。
そして四方の壁を見る。そこには白の壁紙で統一された綺麗な壁があった。
「んだよ。あんじゃん。全部気のせいか。」
安心して目当ての小説を手に取り、妹の部屋を後にする。後に、、
「??はぁ!?」
ドアを開くとそこにはだだっ広く先が見えない世界が広がっていた。
おかしい。こんなことがあるはずがない。パニックになりながらもここには誰も居ないと悟り、俺はその場に座り込んだ。
「な、なんだってこんなことに。」
ここに来た理由。俺はただ小説を取りに来ただけだ。それ以外には何も考えなかった。
ここに来たあと。圧迫感がないことを疑問に思った。でもそれは勘違い。
ここに来る前。薙祇の宿題を見ながら小説読んで、他愛のない会話を交わした。
何か。何か俺は重大な罪を犯してしまったのか。
ゴト。と後ろで鈍い音がなる。途端俺は振り向くが何もなかった。違う何かが起きた。家具やらなんやら部屋にあったものが全て無くなった。手元に置いていた小説もいつの間に無くなっていた。
「んだよこれ。隕石でも落ちて俺は死んだのか?ここは天国かよ。」
天国にしては酷い待遇だななんて思い一人で誰も居なくなった、何もないこの世界で俺は笑った。気のすむまで笑おう。どうせ何もないんだ。俺は座った体制から腹を抱えて前に倒れこむようにして額を地面といううよりは白いタイルに似た何かに押し付けて大声で笑った。
「あははははっははひぃひぃ。くそ!!何なんだよ!!ぐぅううぐ。ああああああ!!」
「人間の極限状態っていうのなかなか気持ち悪いもんだよね。」
「んぐぃ!??」
突如頭上から声が聞こえてきたものだから俺は何も考えず上を向く。
そこには見慣れた少女が見慣れない格好をして立っていた。
「お兄ちゃん。キモイ。」
「な、薙祇ぃぃぃ!!!。」
どうやらこの極限状態のなか俺は考えるということができなかったようでお兄ちゃんと少女の口から飛び出したとき反射的に妹の胸に顔を埋め華奢な体に抱き着いていた。
「いや、マジでキモイんだけど。ん。まあでもしょうがないか。私が仕向けたことだしね。」
「お前が何言ってるかわかんねえけどよがっだあああああ。」
「うわ。ちょ。鼻水。と、取りあえず落ち着いてお兄ちゃん。」
薙祇は親が子供を要領で大丈夫だからといいきかせながら俺の頭を撫で始めるものだから恥ずかしさで感情がいっぱいになる前に薙祇から離れた。
「も、もう大丈夫だ。それよりお前が仕向けたってどいう意味だ。」
「そのままだよ。お兄ちゃんに新しい世界を作ってもらおうと思って。」
「日本語でどうぞ。」
「立派な日本語だよ!私はそんなことできないって言ったでしょ?土台なら作れるからあとは任せたって意味だよ。」
「まだわからんぞ。できの悪い兄にわかるように説明してくれ。」
できの良い妹はどうにかこうにかできの悪い兄にわかるような説明を考えているのか、少し難しい顔をしている。
実は話の筋も薙祇が言いたいこともわかっていた。「私にはそんなことできない。」「真実を書いた本なんだよ。」「私の日本語は全部正しいんだよ。」「部屋ちゃんとしてないから。」「頑張ってね。期待してる。」この五つのキーワード。そしてこの状況。大体の察しはつくがこんなもの信じろというほうが無理だ。後は目の前に立っている何か思いついたような顔をした「神様」に話を聞こう。
「私ことイザナギと一緒に世界を創造してくれちゃってください!」
現世界の創造神は重大な役割をピンポン玉のように軽く俺に投げ出しやがった。
全く。これだから神なんて信じられないんだ。
~続~
誤字脱字には気をつけているのですがあれば教えてください。
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