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生き続けよう

 あの時から過ぎ去っていった一年という月日は、その影響を考えれば長いとも短いとも言えた。

 それだけの時間で、世界は確実に変化していく。

 ――『魔王』はあの時、勇者の剣と共に消滅した。魔物のように炎として燃え上がらなかったのは、せめてもの救いだったと言えるかもしれない。剣は『魔王』を討ち果たすことで役目を終えたように白光に包まれ、『魔王』を道連れに消えていった。

 確実な『魔王』の死を前にして、少なくとも人々は歓喜に沸き、そうした新たな、そして確固たる魔王討伐の報せは再び大陸中に伝えられることになった。

 そのため各国がそれまで以上に士気を高め、残存する魔物をその勢いでもって着実に討伐しているという話が、それこそどの国においても聞こえてくる。

 一方でイントリーグ国がどうなっているのかは――少なくともアデルは、さほど興味を持っていなかった。

 あれきり破壊工作員と遭遇することはなく、かの国で姿なき魔物の襲撃を受けたという話が聞こえてくることもない。もっとも、アデルはそれらも含めて極力耳に入れないようにしていたが。

 理由は紛れもなく、己の器量の小ささにあるのだろう。アデルはそう自虐した。

 未だ自分の中で整理が付けられていない。許すも許さないもわからない。あるいは既に、そういった次元の話ではないのかもしれない。どうあれ今は、そのことを考えたくはなかった。

 かといって、人々を恨むことはしなかった。それがヘイルの望みでないことは明白だったから。

 だからこそアデルは――今もまだ彼と同じように旅を続けていた。

 同じように人々を助け、平和な世界の理想を追い求める旅。

 『勇者アデル』として名が轟いてからも、変わらずに続ける旅。

 剣を持たぬ小さき勇者は、人々から大いに歓迎されていた――

「ありがとうございます、ありがとうございます! 本当に助かりました」

「いや、それよりも子供が無事でなによりだ」

 村で起きた火災を鎮火し、子供を救出すると、その母親らしい人物は感激しながら何度も頭を下げてきた。

 住民たちもこぞって集まり、賞賛の声を投げかけてくる。

 そうするうちに村の長がやって来る。そしてどの町や村においても、彼らはたいていの場合、こういったことを言ってくるのだ。

「こんな小さな村までお救いくださるとは、やはりアデル様こそ真の勇者様です!」

 それを聞くたびアデルは、もはや隠すことのなくなった素顔に憂いの表情を浮かべた。そして小さく、首を横に振る。

「私は勇者と呼ばれるべき存在ではない。こうして旅をしていると、それを痛感させられる」

 アデルは村の人々に別れを告げると、次の町か、村を目指して歩き始めた。

 空を見上げる。澄み切った青い空。そこに見える陽光は、感傷的な物思いに耽ることを許さない、強引な力強さを感じさせる。

 だが、それでよかった。

 今の自分はまだ、そうでなければ押し潰されてしまいそうになる。前を歩く背中も、隣に並ぶ横顔も見ることが出来ない、一人きりの旅。

「私は――勇者の弟子のままだ」

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


次作は来年投稿予定です。

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