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勇者の生まれた国

 巨大な城の眼下に栄える都市。それは国の中心都市であると共に、国そのものだと言えた。

 周囲は堅牢な外壁で守られ、内部は大小様々な通りで構成されている。そのため小さな子供などは、道標を見失い迷ってしまうことすらある。

 そうならないようにと、ヘイルは子守のようにアデルの手を引き、通りのひとつを歩いていた。

 しかしそうした不安を抱える金髪の青年とは対照的に、少女は実にのんきだった。きょろきょろと物珍しそうに周囲を見回しながら、感心した様子で呟く。

「ここが、ヘイルの生まれた国なのか」

 イントリーグ国――

 今まで旅をしていたスィール国から見れば、北方に位置する隣国。

 そこは魔王アデライードを討伐した勇者、ヘイルが生まれ、育った国だった。実際の魔王は討伐などせず弟子にしたのだが、それはさておくとして。

 ヘイルはその弟子の言葉に「一応な」と頷いてから、しかし注釈のように付け加えた。

「実際に俺が生まれたのは、もっと北の外れにある小さな村だけどな」

「そうなのか? しかしこのように豊かな国の出身であることは確かだ」

 なぜだか知らないが、アデルは妙にうきうきした様子だった。越境し、自身の故郷がある国へ向かうと話した時からずっとこの調子だ。

 あるいは今が最高潮であるように、彼女は見るもの全てに目を輝かせ、次々と指をさしては尋ねてくる。

「ヘイル、あれはなんだっ? なんだかカンカンうるさい店だが」

「対魔王用の武具製造所だな。この国にはいくつも存在している」

「じゃあ……その隣の店はなんだ? 妙に筋骨隆々なハゲオヤジが立っているぞ」

「対魔王用の武具販売所だな。この国にはいくつも存在している」

「その後ろは……」

「対魔王用の武具の輸出を」

 そこまで聞いて、アデルはなぜかへこたれるように項垂れた。

「なんだか物騒な国だな……」

「お前がそういう場所しか指差さないのが悪い」

 しかしそう言いながらも、実際にそうした面が多いのはヘイルも認めざるを得なかった――そも、イントリーグ国の主要な事業は、まさしく武具の製造販売にあるのだから。かつては鉄工の国だったらしく、それらはうってつけの事業だとも言える。

 さらに魔王との戦い――実際のところ魔王は引きこもっていたため、魔物との戦いだが――が進むに連れて、この国は様々な分野へ手を広げていったらしい。

 ヘイルが知る中では、魔物の襲来による被害を受けた他国への支援が、その最たるものだった。主に鉄工技術を活かした資材の供給、技術者の派遣、建造物の修復、そして無論のこと武具の配備などだ。

 最も最初に魔王討伐を報告したスィール国が魔王と戦う剣ならば、イントリーグ国は盾と言えるかもしれない。

 そうした話をするうちに入り組んだ道を抜け、広場のような都市の中央に行き着いた。

 初代国王の像が建てられたこの広大な空間からは蜘蛛の巣のように道が伸び、複雑ながらも都市の全土を網羅している。そのため、必然的に人々が最も密集する場所ともなっていた。

 そしてそうなればアデルも必然的に、相変わらず人間を恐れてヘイルの背中へ隠れることになる。

 旅人然としたヘイルの衣服を掴みながら、こそこそとついてくる黒いローブで全身を覆った少女というのは実に怪しいのだが……人の多さが幸いしてか、特別に注目されることはなかったようだ。

 その安堵のせいだろうか。アデルはふと、思い出したように言ってきた。眼前に迫るイントリーグの城を見上げながら。

「……この国には、未だヘイルの話が入ってきていないのだろうか? もう少し人々から賞賛されるなり、騒がれるなり、飴をくれるなりしてもよさそうなものだが」

 彼女の言葉は無視して、ヘイルはさっさと城の方へ進んでいった。

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