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民衆と仲間

 平和を取り戻した町――大通り、とりわけ町の入り口に近い南北は魔物に踏み荒らされ、あるいは恐るべき力によって壁に大穴が空くような酷い破壊を受けていたが、それでも昨夜の地獄めいた戦況から考えれば平和と言える。

 清涼とした朝の空気の中で、人々は町の中心地に集まっていた。

 昨夜、狂気の男が哄笑を上げ、魔物を呼び出していた場所。男は今もそこにいた。ただし厳重に拘束された姿で。

 彼は共に捕縛され、静寂に全てを受け入れるアレストとは反対に、未だ反抗的な瞳で地面を見つめている。

「魔物を呼び寄せ、町を荒らし、地位を築こうとしていたとは……まして、しまいには仲間を見捨てて逃げようとするなど」

 そう言って、町長は自責するようにかぶりを振った。

「こんな偽者に騙されていたとは、お恥ずかしい限りです。勇者様にも申し訳が立ちません」

 言葉をかける先にいるのは無論、ヘイル。

 「自分のことは構わないが」と謙遜する彼の後ろでは、ようやく真の勇者だと認められたことに歓喜し、誇らしげにするアデルがいた。

「やはり正しきは認められるべきだ。私が認めた勇者はヘイル一人なのだからな」

「いつの間にそんな偉そうになったんだよ」

 未だに人間を恐れ、姿を見られぬようにと隠れているのだが。

 しかし――そんな安堵の雰囲気漂う、一種和やかな空気の中で。どろりと這い出すように、怨嗟の声が染み出てくる。

「なにが勇者だ……」

 その発生源はすぐに知れた。勇者への謝辞に集った住民が、ざわめきを発しながらそちらを見やる。

 ブレンダ――彼は果てない疲弊の中に憎しみを燃え上がらせながら、自分へ非難の視線を送る民たちに向かって叫んだ。

「お前ら、俺のおかげでどれだけ安心して暮らしていられたと思ってやがる! 今までお前らは、それで満足してたんだろうが!」

 ざわめきが、動揺と狼狽に変わる。

「所詮お前らはそんなもんだ。都合よく恩義を忘れて、簡単に手のひらを返す!」

「やめて、ブレンダ! もういいでしょ!」

 横から止めに入るアレストの声にも耳を貸さず、彼は叫び続けた。目を背ける住民のひとりひとりに憎悪を向けて、

「なにが仲間だ。自分の命を優先して、なにが悪い! 自分がいなけりゃ仲間なんてなんの意味もない! 自分の命を守るのは当たり前だろうが!」

 もはや町の住民たちは、なんの声も発することが出来なくなっていた。

 そうして、偽りの勇者が最後にはヘイルに対し心火を燃やし、己の悪意の全てを吐きかける。

「いいか、ヘイル! お前だって同じだ。いつか化けの皮が剥がれる。いつか自分と仲間を天秤にかける時が来る!」

「え、ええい! 早くそいつを連れて行け!」

 遂に堪えきれず、命じたのは町長だった。住民たちは隠し切れず動揺しながらも、拘束された二人の偽勇者を連行していく。

 ブレンダはその間も、ずっと哄笑を続けていた。ヤケクソか、あるいは自らの理念を確信した嘲りか。

 いずれにせよ――遠ざかる彼の姿を、ヘイルはなにも言わず見つめ続けていた。

 アデルもまた、どうするべきかわからず困惑に黙する。

 やがて……偽りの勇者たちが見えなくなる頃、ヘイルは静かに踵を返した。

「行くぞ、アデル。次の町へ」

「えっ? あ、ああ……」

 そう言って歩き始める彼の横顔には、深刻そうな影が落ちているように見えた。

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