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魔物相手なら

「えっ……?」

 アレストには、なにが起きたのかわからかった。

 一瞬、頭の中を空白が支配する。あるいは理解を拒絶したのか。アレストは自分の身体が魔物の足元で倒れたことすら、全く自覚出来なかった。

 その中で彼女が見たのは……おぼつかない足取りでどうにか立ち上がって逃げ出そうとする、ブレンダの背中だった。

 オオオオォォォォ――!!

 飛び出てきた獲物に、魔物たちが雄叫びを上げる。

 アレストは未だ、事態を把握出来ないまま。魔物が自分に向けて棍棒を振り上げたこともわからない。

 ただ、逃げ出すブレンダの背中が小さくなっていくのを、妙にゆっくりとした光景として映していた。それは涙のせいでもあったかもしれない。不自然に歪んだ世界が、そのまま彼女自身の心境であったのか。

 彼女に迫り来るのは無情な死だった。凶悪な魔物の棍棒が、喪心の獲物の頭を叩き潰そうとして振り上げられる。

 アレストはなにも理解出来ない。空っぽの頭で、思考すらままならない。

 そして、その空虚が永遠のものにされようとするのも察知出来ず、魔物の腕が振り下ろされる――

 しかしその直前。魔物にそれを躊躇させたのは、爆発だった。

 アレストが見つめていた男の眼前。そこが唐突に破裂し、炎を巻き上げた。爆風が自分と魔物を激しく煽り、黒煙を立ちのぼらせる。

 そして次の瞬間には――

 その煙を切り裂いて、人影が飛翔した。

 影は稲妻のようにアレストの間近に落ちる。それと同時に、棍棒を振り上げていた魔物が青白い炎に包まれた。

 魔物たちが一斉に標的を変え、稲妻の影に視線を向ける。アレストを庇うように立ちはだかったのは、いかにも単なる旅人然とした土色の衣服に、不釣合いなほど強い意志の篭る黒い双眸を湛えた男。

 勇者、ヘイル・ブレイブ。

「あなたは……」

「ここは俺たちがやる。お前たちは安全な場所へ逃げろ。――アデル!」

「わかっている! 魔物が相手なら怖くなどない!」

 煙の中から声だけで応じた少女が、恐らくはなにかの魔法を解き放ったのだろう。遠方に見えていた魔物たちの群れが、凶悪な爆発によって吹き飛ばされる。

 そしてアレストを取り込んだ魔物も――ヘイルが翻す白光の刃を受け、瞬く間に両断され、炎となって消滅していった。

 アレストは、再び事態が上手く理解出来ないまま、ただ彼らを見つめていた。

 魔物はなおも数を増し、恐ろしい力で露店や民家を破壊しながら押し寄せてくるようだったが、ヘイルたちはなんの苦もなく、それらを次々と一蹴していく。

 そうして瞬く間に、最後の一体となった魔物も勇者の剣に切り裂かれ、掻き消えて……

 町はとうとう、静寂を取り戻した。

「今、ヘイルが倒した分で最後か。魔物の出現も止まったようだ」

「そうらしいな。北にいた分も、あれきり出てきていない」

 それらを確認すると、ヘイルが静かに剣を納める。

 穏やかな月明かりが照らす中。アレストはただ呆然と、その姿を見上げていた。

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