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魔王死す

「そうだ、死んでしまおう」

 ――その日、魔王は閃いた。

 おどろおどろしい悪魔じみた城の中、その玉座に座りながら。

「どうせもうすぐ勇者が来て、私はまた封印されてしまう。そんなことになるくらいなら……」

 絶望と失意と断念と諦観と……とにかく負の感情を詰められるだけ詰めた声でぼそぼそと呟いて、ヤケクソに笑う。

「そんなことになるならいっそ、この場で死んでしまえばいいんだ!」

 虚空を見上げるその瞳は、やはり単なる自暴自棄だった。

 魔王は靴を脱ぐと玉座の前に揃えて置き、ついでに自らの翼と角も取り外し、同じように並べていく。

「嗚呼、これでようやく解放される……」

 そんな時。

「ついに追い詰めたぞ、魔王アデライード!」

 どばんっ、と広間の扉が蹴破られ、現れたのは勇者だったが――

「って、なにやってんだお前はー!」

 彼は自分の喉元にナイフをあてがう少女を見つけ、慌ててそれを止めに入った。


---


「で、なんだってこんなことしてたんだ?」

「うぅぅ、だってぇ……」

 勇者は取り上げたナイフを危険そうに見やってから、涙声でうめく魔王を見下ろした。

 魔王――らしい。どうやら。

 しかし揉み合いの末に玉座から転がり落ちて勇者の足元にうずくまる彼女は、一見すれば単なる――心なしか、やつれている感はあるが――少女だった。

 それでもよくよく観察すると、多少は違う雰囲気を感じられる。

 炎を思わせる、焦げた赤色の長髪。それと同じ色をした、凶悪かつ残忍に吊り上がった双眸……今は泣くのに熱心で垂れ下がっている。かといって目が赤いのはそのせいではなく、生まれつきのようだ。

 纏うのは、黒のドレスに艶やかな漆黒の鎧を融合させたような、勇ましくも恐ろしい威圧的な衣。

 広がったロングスカートの裾は剣を模り、現実に殺傷能力を持っているのではとさえ感じてしまう。……ただし今はへたり込んでいるため、どれもが多少その権威を失っているように思えたが。

 そんな魔王が、しばし泣きじゃくってから涙をこすり、ようやく答えてくる。

「お願いだ、勇者! 死なせてくれ!」

「願われても」

 すがりつかれるが、どうしようもなく頬をかく。

 困窮するうち、彼女はまたずるべたと地面に崩れ落ちていった。そのまま、涙で魔王城の床を濡らす。

「だって、どうせ私が死ねば全部解決するんだ……全部私のせいなんだ。不景気とか大雨とか宗教のいざこざとか、私が生きてるから起きるんだってみんな思ってるんだ……」

「変な拗ね方するなよ」

「♪わたしは~、死んじゃえば~、いいんだ~」

「歌うな」

 急に顔を上げると、泣き腫らした顔を無理矢理に微笑ませて歌い出す。もはやヤケクソを通り越して本気の様相だったが、それがなおさら痛々しい。

 とりあえず勇者は、涙に喉が詰まり音程も定まらない魔王をなだめるため、ぱたぱたと手を振って見せた。

「落ち着けって。そう悲観しなくても、誰もそこまでは思ってないぞ」

「もう私は死ぬんだい、ナイフ返せよぅ」

「ナイフで出来るようなもんなのか?」

 ふと疑問に思うが魔王は聞いてもおらず、また床に伏してすんすんと泣き始めていた。

 そんな哀れな少女を見下ろしながら――

「……そうだ」

 勇者はふと、閃いた。

 身を屈め、魔王の顎に指を当てると顔を上げさせ、告げる。

「今日からお前を、俺の弟子にする!」

毎日投稿を予定しています。次回からは少し文章が長めになるかもしれません。

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