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微かな道標

久しぶりの投稿です。

実は、前に使っていたパソコンが壊れちゃいまして。それなりに使ってたので直すよりも買いかえたほうがいいと言われて買っちゃいました。


それとプロットと一部内容を変えたため、次の話の出来によって変える部分が出るかもしれません。

「母ちゃん、ただいま」


 勢いよくドアを開けると、シルヴィアは家の中へと飛び込んでいった。


「シッ‼ 聖女、様。急にどうなさったのですか」


 家のキッチンで、グツグツと食欲をそそる匂いと音を奏でる鍋をかきまぜていた女性が、シルヴィアの唐突な登場に驚きの声を上げる。

 彼女の名前はホリー・グレイス。シルヴィアの母親だ。


 青いズボンと長袖の服の上からエプロンをかけ、シルヴィアと同じ赤毛の髪をアップにまとめた妙齢の女性だ。胸が大きく、スラリと背も高い。とても一児の母とは思えないプロポーションを維持している。


「う……、うん。お客さんを連れて来たんだ。フェアねぇの友達なんだけど、泊まるとこないらしいから泊めてやってくんないかな」

「はい、聖女様の仰せとあれば」

「…………」


 ホリーと話すほどにシルヴィアから元気が抜けていく。表面上の表情や態度にそれほど変化はないが、明らかに元気が目減りしている。


 ――なんか、シルヴィアの話と印象違うな……。


 二人の会話をきいていたエノクはホリーのどこかよそよそしい態度に、はてと首をかしげた。


「そんじゃ、おれ、もういくから……」


 ホリーとの話を終えると、シルヴィアはそそくさと家を後にした。

 彼女が横を通り過ぎるとき、さきほどまでと同じ表情のはずなのに泣いているようにみえたのは、エノクの気のせいだろうか?


「……いったか」


 シルヴィアが出ていき、エノクと二人だけになると、ホリーはホッと息を吐く。


「っで、フェア様の友達だって? このへんじゃみたことない顔だけど、あんたどっからきたんだい?」

「えっ? あ、その、旅の者なんだけど、この村でフェアに会って友達になったんだ」


 唐突に話し方の変わったホリーに一瞬戸惑ったエノクだったが、こちらの話し方のほうがシルヴィアからきいていたイメージに近かったので、すぐに落ちついて返答することが出来た。


「ふ~ん。まあ、あの御方は誰にでもお優しいからね」

 ホリーはエノクの答えに納得したのか、一つ頷くと鍋に視線を戻す。

「アタシはホリー、好きに呼びな。で、あんたの名前は」

「俺はエノク」

「分かった。じゃ坊や、そこに座って待ってな。もうすぐメシができるよ」



 この家は玄関を入ったところにキッチンと食事をするためのテーブルと椅子、二階に続く階段があり、二階には寝室が二部屋ある。


「おいしい」

「だろっ! このアタシ自慢のシチューだからね」


 ニカッと笑い、ホリーは料理の自慢をする。その笑顔はどこかシルヴィアと似ており、確かな血の繋がりをエノクに感じさせた。


「しっかし、なんでまたこんな村に来たんだい? なにか名物が有る訳でもないし。それどころか、今は悪魔どものせいで危険極まりないってのに」

「いや、その……。特に目的とかはなくて、なんとなく流れて来たというか」

「なるほどね、旅人っていうより流れ者かい」


 村にやって来た理由をきかれ、エノクは苦し紛れの答えを口にする。幸いホリーは疑わなかったようだが、これはエノクの嘘が上手かったと言うよりは、フェアの友人だから。つまりはフェアの信頼によるものだろう。


「じゃあ、はやく村を離れた方が良いよ。さっきも言ったけど、この村は今悪魔どもに襲われてて危ないからね」

「それは……分かってる。実はもう悪魔に襲われてるんだ。そんときにフェアに会って」

「そんで助けられて友達になったと。あんた、運が良いね。普通ならそこで死んでるよ?」


 エノクの話をきいて豪快に笑うホリー。その姿からは先程実の娘と話していた時のようなよそよそしさはどこにもない。


「………あの、ちょっといいか」

「うん? なんだい」


 そのことに違和感を感じたエノクは、思い切ってホリーに尋ねてみることにした。


「シルヴィアにはなんであんな話し方だったんだ? 娘なんだろう」

「………そのことかい」


 エノクが話をふると、ホリーは明るかった顔色を曇らせた。


「それが、決まりだからさ」

「決まり?」

「そう、聖女様はこの村にとって大切な方々だからね。決まりごとも多いのさ。これもその一つ。あの方が聖女様になられた時点で、もう親でもなければ子でもない。シル……聖女様も承知なさっているはずさ」


 そこまで話すとホリーはシチューに口をつける。どうやらこれ以上話す気はないようだ。


「そうですか……」


 エノクもそれ以上きこうとはしない。家族というものに懐疑的な彼には、母親とはこんなものかという感想しか浮かばない。


「……」


 しかし、シルヴィアのことは少々可愛そうに思う。まだ小さいあの子の瞳には、母親への尽きぬ愛情が輝いていたから。



「ふー」


 食事を終えてホリーにあてがわれた部屋に引っ込んだエノクは、そこでようやく一息つくことができた。この時代に飛ばされてきてからの疲れが、一人になったことで一気に噴出したかたちだ。


「んっ……」


 力を抜いて身を投げ出したベッドの脇に、エノクが現代から持ち込んだ荷物が落ちる。教科書とノートの入ったバックだ。

 落ちたひょうしにバックの口が開き、中身が床に広がってしまう。


「………」


 なんとはなしに、広がった荷物の中から教科書を拾い上げ、そのページをめくる。


「ん?」


 パラパラとめくっていたページの中に気になる記述を見つけ、エノクは手を止めた。

 それは天使と悪魔との戦いについて。つまり、今この時について書かれたページ。


「あれ、ここなにか違うような?」


 傷ついた三人の天使が戦いを挑む挿絵が書かれたページをながめ、エノクは首をひねる。何となく違和感を感じるのだが、その理由が分からない。


「……ま、気のせいだろう。ふぅあぁ~あっ、ねみぃ」


 最終的にエノクは自身の感じた違和感をそう結論づけた。それが重要なことだとも思えなかったし、なによりも眠い。たまった疲労感が眠気に転化していた。

 エノクは教科書をふくめた荷物をバックに突っ込みなおすと、部屋の明かりとして使われてるランプの火をおとし、早々にベットへと潜り込む。


「……すー……すー……」


 幾らもしないうちに静かな寝息が部屋に響きだし、エノクの運命の一日は終わりを告げたのだった。




 エノクを目覚めさせたのは、すさまじい爆音と振動だった。


「な、なんだっ」


 爽やかとは程遠い朝の目覚めに、エノクは文字通りベッドから飛び出した。着替えるのも忘れ、現代から持ち込んだバックだけを持って転がるように階段を下りる、


「ホリーさん、一体何がっ……。って、いないし」


 一階におりたエノクだったが、そこにホリーの姿はない。どこにいったのかと思っていると、再び轟音と振動がエノクを襲う。


「こりゃ地震とかじゃなさそうだな。外か」


 地震とは明らかに違う、空気を伝わる震え。エノクは家の外で何かが起こっているのだ考え、玄関ら外に飛び出す。


「………おいおい、嘘だろ」


 外に出たエノクが見たもの。それは呆然と空を見上げるホリーの背中と、村へと攻めてくる悪魔たちの群れだった。

 エノクが感じた爆音と振動は、悪魔たちが村へと無差別に吐き出す攻撃によるもので、村のあちこちから黒い煙が昇っている。

 悪魔達との距離はまだ離れているが、蝙蝠に似た羽を広げ、空を飛んでくる奴らは幾らもしないうちにこの場所まで到達することだろう。


「母ちゃんっ‼ エノクにぃ‼ 何してんだ、早く逃げないとっ」


 あまりに非現実的な光景に、状況も忘れて呆然としていたエノクとホリーの意識を強い意志を秘めた声が現実に引き戻した。


「はっ! シ、シルヴィア」


 声のした方に視線を向けたエノクは、自身の暮らす教会から二人のもとに駆けて来る小さな少女の姿を見つける。

 シルヴィアはその可憐な顔にはにつかわしくない険しい表情で二人のもとまで辿り着くと、悪魔達が来るのとは反対側に二人を追いたて、自分は逆に悪魔達の向き直った。


「何やってんだよシルヴィアっ! お前も早く逃げないと」


 シルヴィアの様子に気づいたエノクは走り出そうとしていた足をとめて振り返り、シルヴィアを急かす。


「おれは逃げない」

「何言ってっ――」

「忘れたのか、エノクにぃ」


 怒鳴りつけるようにして叫んだエノクの言葉を遮り、シルヴィアが振り返る。その顔は昨日何度か見たのと同じ笑顔なのに、エノクは何故かそこから強い決意のようなものを感じて息をのむ。


「おれは聖女……。フェアねぇ達と同じ、天使なんだぜ」


 シルヴィアはその手にロザリオを握っていた。


『魔を滅する聖火の如く、強く雄々しく燃え上がれ』


 それはフェアの再現。違いは言葉と、ロザリオから発する光の色が黄色ではなく赤であったこと。


『ミカエル』


 光が収まったとき、シルヴィアは炎を固めたようなオレンジの鎧を身にまとってそこに立っていた。

 下地とロザリオから伸びるラインの色は赤。白い火を灯す盾と片手剣を持ち、火花を散らす火輪を頭上に頂き、純白の翼を広げる。


「母ちゃんとエノクにぃは村の人たちと一緒に逃げろよ。危ないから追いかけてくんなよ」

「お、おいシルヴィア。いくら何でもあの数と戦うのは」

「……いってらっしゃいませ、聖女様」


 翼をはためかせ、ふわりと浮き上がったシルヴィアにエノクは慌てて声をかけ、ホリーは深々と頭を下げた。


「………いってきます」

「おいっ!」


 そしてシルヴィアはエノクの制止の声も聞かずに、悪魔達を目指して飛び立っていく。


「くそっ」


 エノクは即座にシルヴィアを追いかけて駆け出そうとする。


「待ちな坊や、あんたも悪魔に襲われたことがあんならわかってんだろう? シッ……聖女様を追いかけても死ぬだけだ」


 そのエノクに、ホリーが待ったをかける。


「ああ、わかってるよそんなことは」

「だったら」

「だからって、あんな子供にばっか戦わせてられっかよ!」

「っ!」


 シルヴィアが昨日のフェアと同じなら、戦う力があることは間違いないだろう。

 しかし、いくら戦えても彼女は十歳の女の子。エノクは自分が無力なことを差し引いても、シルヴィアだけに戦わせて逃げるということが出来なかった。


「だから俺はいくぜ」


 エノクは走り出す。その背中に、ホリーからの静止の言葉がかかることはなかった。



「エノクくん! どうしてこんなところに」

「ノエルさん」


 逃げてくる人々の流れに逆らって進んでいたエノクは、その途中でノエルに出会った。どうやら彼女は避難者達の誘導にあたっていたらしい。


「ダメじゃないですかこんなところにいちゃ。エノクくんもはやく逃げてください」

「シルヴィアが悪魔と戦いにいったんだ。あんな子供が戦ってんのに逃げ出せるかよ」

「エノクくんは悪魔と戦えるんですか? 戦えもしないのにここにいても邪魔になるだけなんですよ」

「たしかに俺は戦えないけど、だからって何の役にも立たないってことはないはずだ」


 逃げようとしないエノクにノエルが厳しい調子で注意すると、エノクも負けじと強い口調で言い返す。


「エノクくん……」


 思った以上に強い決意を感じさせるエノクの言葉と瞳に、ノエルはその目を大きく見開くと、考え込むように口元に手をあてがう。


「……わかりました。では、エノクくんはわたくしの代わりに皆さんの誘導をお願いします。そうすればわたくしも二人の援護にいけますから」


 視線を上空に向けたノエルにつられ、エノクも空を見る。そこでは多くの悪魔達を相手にフェアとシルヴィア。二人の祈りの天使が、村人を守るために戦っている。


「援護って……。そうか、ノエルさんも」

「はい。ですからエノクくんにここをお願いしたいのです。それに、村の皆さんの避難が終われば広範にわたる攻撃で悪魔達を一掃することもできます」

「わかった。そういうことならまかせてくれ」


 エノクは一つ頷くと、自らの胸を叩いてノエルの提案を受け入れる。


「お願いします。このまま道なりに真っ直ぐ進むように誘導してもらえれば大丈夫ですから」


 エノクの様子に満足し、避難先を手で示すと、ノエルは早速ロザリオを取り出して祈りはじめた。


『湧き出でる泉の如く、果てなく清らに流れゆけ』


 すると、先の二人と同様にノエルのロザリオも輝きだす。その光は青。


『ガブリエル』


 光が収まったときノエルがまとっていたのは、フェアやシルヴィアのものに比べると幾分動き易そうな水色の軽装鎧で、武器に弓矢を持ち、頭上に頂くのは顔を覆う薄いベールと一体になった流水の輪。

 ラインと下地は青色でスカート部分が長く、全体的なシルエットはウエディングドレスを想起させる。


「皆さん。わたくしはこれから二人の援護に向かいますので、これから先はこの人の指示に従って避難するようにしてください。……大丈夫、皆さんのことは必ずわたくし達が守ってみせます」


 そこだけは三人に共通している純白の翼で宙に舞うと、ノエルは非難さ全員に声が届くよう叫び、滑るように戦場となっている上空へと上っていった。


「……よっし! 皆さん、列を乱さないで落ち着いて移動してください」


 その様子を見届けると、エノクはノエルに任された避難誘導の仕事に集中する。少しでも空で戦う少女達の力になれるように、と。



「聖水の矢」


 フェアが攻撃を防ぎ、シルヴィアが隙のできた悪魔を斬る。それがこれまで上空で戦っていた二人の戦術だった。そこに、下方から矢が飛来して悪魔の一匹を撃ち抜く。


「ノノちゃん!」

「ノノねぇ!」


 聖水を矢として放ち、遠方の悪魔を浄化する。

 今まで幾度も見てきたその技に、フェアとシルヴィアの顔が喜色に彩られる。頼りになる援軍が到着したのだ。


「遅くなりました。ここからはわたくしも援護に加わります」


 ノエルは次の敵に狙いを定め、弓を構える。

 だがそこには肝心の矢がない。それなのに彼女は気に留めたふうもなく弦を引き絞る。するとその掌から清らな水が溢れ、二発目の矢を形作った。


「聖水の矢」


 ノエルの第二射は、彼女に襲いかかろうとしていた悪魔の腹を撃ち抜き、その体を清めて霧散させる。


「フェアさんは、わたくしとシルヴィアさんの防御を。シルヴィアさんは攻撃を。わたくしは二人の援護と、村人を襲おうとする悪魔の殲滅を担当します」

「はい!」

「おっしゃあ!」


 フェア達の動きが格段によくなる。ノエルという頭脳が加わったことで、二人は本来の実力を発揮しはじめた。


「いっくぜぇー―っ! 聖炎斬」

『グガッ』

『ギッシャアア』


 まずシルヴィアが敵のど真ん中へと突っ込み、勢いを増して輝く白い炎の剣で群がる悪魔達を次々に斬り飛ばす。斬られた悪魔は切り口から焼かれ、浄化されて消滅していく。

 その間合いは広い。炎が剣のリーチを延長しているのだ。


「それそれそれっ」


 縦横無尽に振り回される聖炎の剣。シルヴィアは自身の防御などちっとも考えていない。いくら三人の中でも重厚で防御力の高い鎧を身にまとっているといっても、攻撃的に過ぎる。せっかく盾を持っているのに、それすら打撃武器として活用している始末だ。


「光衣」


 その攻撃特化の姿勢をとるシルヴィアを守るのは、フェアから離れた水晶玉だ。


「光花」


 水晶玉は敵の攻撃を光の盾で受け止めた直後、すかさず反撃の光線を放つ。この攻撃は威力が低く、悪魔を倒すには至らなかったが、光線に焼かれた悪魔は痛みに怯んで隙ができる。


「せいっ」

『グギャアアアッ‼』


 その隙を見逃さず。シルヴィアの剣が悪魔を浄化した。

 フェアはこうして四つの水晶玉を操り、シルヴィアとノエルの中間の位置に陣取って防御と中距離からの支援攻撃に徹している。

 これがフェア本来の戦闘スタイル。エノクと出合ったときのような単独での戦闘は、彼女には不向き。その能力は仲間がいてこそ真価を発揮する。


「ふっ」

『ギエッ!』


 ノエルがシルヴィアの剣の間合いから逃れた悪魔を撃った。


「シルヴィアさん、左前方に攻撃を集中。フェアさんはもっと積極的に攻撃に回っても大丈夫です」

「おうっ」

「はい」


 彼女は二人から離れた位置でフェアとシルヴィアの邪魔になる悪魔から優先的に弓矢で狙撃し、随時指示を出す。

 頭がよく、なおかつ離れた位置から戦場を俯瞰することができるノエルの指示は完璧で、数で大きく勝るはずの悪魔達はたった三人の天使を突破することができない。


『ググググッ』

『ギジジジ』

『クオォォォォオオ』


 村人という獲物を前にして、業を煮やした悪魔が群れから飛び出した。犬に似た悪魔と、蛇・トカゲに似た悪魔の三匹だ。


「フェアさん」

「はいっ」


 ノエルはフェアに攻撃の指示を出すと、自身も弓に矢をつがえながら悪魔達の前へと回り込むように移動する。こうすれば挟み込むことができるし、悪魔達と村人達との間に入ることで村人達を守る意味もある。


「石光弾」

「聖水の矢」


 フェアとノエル。それぞれの攻撃が悪魔へと放たれ、その姿を確かに捉える。


『グギャアアアアアアアアア』


 三匹は断末魔の声をあげ、浄化されて消えていく。

 だが、


『ギシャアアッ』


 一匹だけ、蛇に似た悪魔が攻撃に耐えて踏み止まった。


『グル、ルアアアア』


 悪魔は、手負いの獣の獰猛さでノエルを睨みつける。


「しまった!」


 三匹の悪魔に放たれた攻撃は全部で三つ。その内の一つはノエルの聖水の矢で、残りの二つはフェアの石光弾。

 蛇に似た悪魔は石光弾の一つが標的としていたのだが、蛇に似た悪魔の体が柔らかく柔軟性に富んでいたために捉えきれなかった。これには対象の悪魔が小さかったことも影響している。

 悪魔の方もかわしきれずに大きなダメージを負ったようだが、致命傷は免れていた。


『グ~~~ッ』


 蛇に似た悪魔が大きく息を吸う。


「くっ、まにあって! 光花」


 攻撃の兆候を見、フェアが先に悪魔に向けて放った二つの水晶玉を使って攻撃する。ノエルも矢をつがえてこの悪魔を狙うが、相手が小さくて素早いために狙いが定まらない。

 光花による間断ない連続攻撃。しかし、蛇に似た悪魔はこれを吸い込んだ息で膨らんだ状態にありながら器用にかわし、


『グボバッ』


 黒い炎の塊を吐き出した。


『ピギャァァァア』


 直後、動きの止まったところに光線が殺到し、蛇に似た悪魔は浄化される。しかし、放たれてしまった黒い炎はノエルに向かって直進する。


「このくらい」


 ノエルは炎の動きをしっかりと目で捉え、ギリギリのところで体を横に滑らせる。幸い村人の避難は粗方終っており、ノエルが避けたところでこの攻撃に巻き込まれる村人はいない。炎は危なげなく彼女の右翼そばを通過していった。


 直後、爆発。


「きゃぁあっ!」


 黒い炎の固まりは、ノエルが触れていないにも関わらず何もない中空で爆発した。ノエルはギリギリで回避していたため、この爆発に巻き込まれる。


「うっ………」


 爆発の衝撃を間近で浴び、ノエルは意識を失う。その体は重力に引かれ、地面に向けて加速した。


「ノノちゃんっ!」


 フェアが急いで後を追うが、少し距離が開いていたせいもあってとても追いつかない。このままいけばノエルは地面に叩きつけらてしまうだろう。軽装とはいえ祈りの天使をまとっているので、死ぬことは無いかもしれない。しかし大怪我を免れることもできない。



「すげぇなぁ……」


 避難民の誘導をする傍ら、エノクは上空で繰り広げられる戦いに目を奪われそうになっていた。

 純白の翼を羽ばたかせながら少女達が空に舞い、異形の悪魔達と戦いを繰り広げる。今、エノクの目の前で神話から抜け出してきたかのような光景が広がっている。


「こりゃ、避難よりも先に戦いが終っちまいそうだな」


 その戦いは少女達が優勢で、悪魔達はすでに当初の半分以下までその数を減らしていた。このままいけば少女達の勝利は確実なように思われる。


「私達が最後ですっ」

「わかった。このまま慌てずに避難してくれ」


 だが相手は悪魔。何が起こるかわからない。エノクは最後の一匹が倒されるまで気を抜かないよう気持ちを引き締め直し、最後の一組を誘導していた。


『きゃぁあっ!』

「っ!」


 爆発音と悲鳴が聞こえたのはそんなときのことだった。

 慌てて視線を走らせると、黒い煙の中から落ちてくる青い鎧の少女とそれに追いつこう

と手を伸ばすフェアの姿が見えた。


「ノエルさんっ」


 エノクは落ちてくる少女が誰なのか気づく。同時にフェアが間に合わないことも。


「くっ」


 考えている時間はなかった。だからそれは殆ど条件反射のような行動。

 ノエルが落ちてくるだろう地点目掛けて全力で走り。その勢いのまま、タックルするように彼女に飛びつく。


「ぐぅううううっ」


 何か策があったわけでも、勝機があったわけでもない。

だけれど、運気だけはあったようで、僅かに横方向への力が加わった二人の体はむき出しの硬い地面からそれ。積上げられた干草を巻き込み、土煙を上げて民家の納屋に突っ込む。その衝撃でバックのひもが切れ、中身が周囲に散乱した。


「う、ぁあ」


 衝撃に息が詰まり苦しみながらも、エノクは鎧越しに確かに伝わる心臓の鼓動にノエルの無事を感じて群れを撫で下ろす。


 二人が助かったのはいくつかの偶然が重なったためだ。

 まず第一に、ノエルが高度を下げていたこと。これは悪魔の攻撃から村人を守るためだったわけだが、おかげでエノクは彼女の落下軌道をずらすことができた。でなければ、落下の勢いに負けて二人とも硬い地面に激突していたことだろう。

 その次にノエルの鎧が軽装であったことと、干草を巻き込んだこと。このいずれもが落下の衝撃を小さくしてくれていた。



「ノノちゃん……」

「ノノねぇ!」


 土煙に覆われた一帯に目を凝らし、フェアとシルヴィアはノエルの姿を探していた。

 二人とも悪魔達のせいでノエルのもとにいくことができず、焦りと焦燥感ばかりがつのる。特に、まだ幼いといってもいい年齢のシルヴィアは心配でついには堪えきれなくなってしまう。


「うぅ~、もうお前ら邪魔だっ! 聖炎十字斬‼」

「シルヴィーちゃんっ」


 シルヴィアの持つ剣が中空をはしり、十字を描いた白い炎が一気に広がって残りの悪魔たちを焼き払う。

 地上まで達するその攻撃範囲に、村人が巻き込まれやしないかとフェアは焦る。だが幸いなことにノエルとエノクによる誘導が功をそうしたか、巻き込まれた村人は一人も見当たらない。


「……ふぅ~」


 攻撃に巻き込まれた村人、悪魔の残党。それらがいないことを確認してフェアは大きく息をつくと、弾丸のような速さでノエルの落ちた場所に突っ込んでいったシルヴィアの後を追う。



「いっつつ」


 木片と砂利を払いながらエノクは痛む体を起こす。


「う……、エノク、さん?」


 腕に抱いたノエルがもぞりと動く。さいしょ、エノクを見る瞳はふらふらと揺れて焦点があっていなかったが、それも次第に収まり。やがて彼女本来の理知的な瞳の輝きがエノクの姿をとらえた。


「っ! す、すみません。大丈夫ですかエノクさん」


 意識がはっきりしたノエルは周りを見渡して素早く状況を理解すると、自らを抱きしめるエノクを心配して声を荒げる。


「だ、大丈夫……。ほんと、思ったよりも大丈夫みたいだから」


 ノエルを腕の中から解放しつつ自分の体を確かめ、エノク本人も安堵する。


「そうですか。良かった」


  自分の目でもエノクの無事を確かめ、ノエルもほっと息を吐く。


「ノノねぇ――」


 そこに上空からシルヴィアの声が落ちてくる。

 見上げると、上での戦いは終わったようで、フェアとシルヴィアの二人が純白の翼をはためかせて降りてくる。


 こうして、悪魔たちの突然の襲撃から始まった戦いは人的被害を殆ど出さず。フェアたち三人が互いの無事を喜び合う笑顔の中で終わりを迎えたのだった。


買いかえるお金がたまるまでの数か月、ゲーム機でほかの作家さんがなろうに投稿している小説を読んでたんですが(とっというか今も読んでるんですが)。

いや、皆さんさすがに上手いですね。とても面白くてすっかりハマっちゃいました。

元来書くより読むほうが好きなもので、なかなか自分の作品の筆が進みません。

でも、間違いなく完結させるのでそれだけは安心してください。


なお、だいたいラノベの単行本一冊ぶんくらいの内容になる予定です。

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