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戦国フットボール   作者: 習志野ボンベ
桶狭間の戦い
4/15

ハーフタイム

山「さあハーフタイムです。ここまでの状況をふりかえっておきましょう。試合はまず今川家が先制。前評判どおりの実力を見せたように思えました」


上「そうですね。特に今川選手の見せた糸を引くような華麗なパス。そしてそれに対応した松平元康選手の走りも見事でした」


山「さらに織田家は開始早々の失点にくわえ、選手を一人ケガで欠いてしまいます。ここまでは今川家完全優位に思えたのですが……試合は一人の選手の投入によって大きく流れを変えることになります」


上「ええ。木下藤吉郎選手ですね。彼の果敢な攻め上がりと疲れを知らぬ上下動はチームに勢いを与え、活性化しました。序盤は浮足立っていた織田家選手陣も息を吹き返し、今川家からボールを奪ってはゴール前に攻め込む光景を何度も見せてくれましたね」


山「その後、攻め手を欠いた今川家に対し、織田家は堅い守備からのカウンターで対抗します。そして今川家のパスワークが乱れたところで、織田家の柴田選手がボールを奪い、織田どのを経由して左サイドの佐々選手へ。佐々選手はドリブルから強烈なシュートにまで持ちこみ、キーパーが処理し損ねたこぼれ球を神出鬼没のフォワード滝川選手が押し込み同点。織田家は試合を振り出しにもどします」


上「シンプルですが力強い、いいカウンター攻撃でしたね。各人が持ち味を発揮した織田家らしい連携です」


山「しかし、番狂わせに思えたゴールから一転、試合は硬直します。その後はパスを回し続ける今川家に対し、織田家はひたすら守備ブロックを作って守るだけの試合運びに終始します」


上「そうですね。見ている側としては退屈な試合でした。ゴールを目指さないパス回しも、積極的に攻めに出ないチームも――どちらもフットボールをつまらなくする最大の原因ですからね。ただ、攻めきれない焦りが見て取れた今川家とはちがい、織田家の選手には目に光がありました。あるいは……なにかの策で猫をかぶっているのかもしれませんね」


山「なるほど。ここまで前半戦の総括でした。さて、この試合は堺納屋衆の提供でお送りしています。鉄砲から南蛮渡りの戦装束(ユニフォーム)まで、なんでもござれの品ぞろえを誇る堺納屋衆――みなさまもどうか、ご愛顧のほどを」


上「よろしくおねがいします」


山「では旦那衆(スポンサー)へギャラ分の義理もはたしたところで……上泉さん、後半戦の展望をよろしくお願いします」


上「はい。まずは織田家ですね。前半何度か今川家のゴールを脅かしましたが、それはすべて守備を固めた上でのカウンター攻撃。受け身の体勢だけでは好機の数も限られます。そこをどう修正してくるのか――それとも手を打てないまま今川家にパスを回され続けるのか……といったところでしょう。もっとも、織田選手の落ち着きはらった態度を見るかぎり、なにかしかけてきそうです」


山「ふむふむ。では対する今川家のほうは?」


上「はい。気になるのは当主にして中心選手である今川義元どの。疲労の色が濃い。休憩でどれだけ回復できるかでしょう。彼に代わる攻撃の柱が不在なので、もしこのまま疲れが抜けきらないようだと、今川家の攻撃は決め手を欠いたまま、織田家の強固な守りを破れないでしょう」


山「たしかに今川義元選手の体調は気になるところです。ご子息の氏真(うじざね)さんも技巧あふれる選手だそうですが、今回は今川家の本国・駿河で留守ですからね。この試合では代役は不在ということになります」


上「ええ、たいへん蹴鞠(リフティング)の上手な選手だと聞いています。ただ技巧に溺れるところもあるようですね。大局観を父上ほどお持ちでないとなると――少々、今川家の将来が心配ではあります」


山「ははあ。なるほど。将来まで見据えたお話ですね……ん? おや? 織田家のベンチでなにか騒ぎが発生しているようです」


上「どうしたのでしょうね? 先ほどまで信長どのは記録員(スコアラー)である太田牛一さん、スカウトの梁田さんとなにやら熱心に話しこんでいたようでしたが……」


山「え~、どうやら織田選手の前で土下座している人物がいるようですが……あれは木下選手ですね。隣の練習生は、ああ顔をあげました。あれは…………前田利家選手のようです」


上「前田選手? たしか槍の又三(またざ)と呼ばれた突破力のある若手選手だったと記憶していますが、なぜ練習生にまで降格しているのでしょうか?」


山「はい。たしかに前田選手は将来を期待されていた若手です。しかし関係者の話によりますと、織田どののお気に入りの用具係とケンカになって大ケガを負わせてしまい、チームを追放となったそうです」


上「なんと……そのようなことがあったのですか?」


山「ええ。先ほどの関係者の話によれば、その後なんとか頭を下げて練習生待遇で再雇用されたものの、周りからは腫物あつかいされていたそうです。前田どのも元エリートということで、なかなか周囲に溶けこめずにいた。そこへ木下選手が天性の明るさで気軽に声をかけ……以降、昵懇の仲になったそうです」


上「ほう……木下選手の人柄がうかがえる裏話ですね。そして今も友人のために土下座ですか。前田選手も感激して涙を流しているようですね」


山「おっと! たった今、入ってきた情報によればどうやら前田選手と佐々成政選手と替えるよう織田どのに直訴しているそうです! 佐々選手は当然ながら激怒。柴田選手、丹羽選手があわてて後ろから止めに入りました。しかし織田どのと言えばワンマンで知られた当主、こんなことをしてだいじょうぶなのでしょうか?」


上「いえ……これはありえる采配ですよ」


山「といいますと? 佐々選手は同点の場面にも絡むなど活躍していましたが」


上「ええ。あの場面は見事でした。しかし、その後はポジションにこだわり過ぎ、ずっとサイドに張って木下選手の攻め上がりのふたになっていましたからね。FWである彼がサイドで起用されたのは内側に入りこんでいく動きがもとめられたからだというのに」


山「ほほう。では前田選手はその点で変化をつけられるのでしょうか?」


上「わかりません。その点は未知数ですが、しかし、なにか勝算があるようです。二人の不敵な表情がなにかやってやるという大胆な意欲を示していますね」


山「おっと! なんと、この提案に織田どのがうなずきました! 抗議する佐々成政選手を無視して左サイドに前田選手を投入するもようです。これで織田家の左サイドは練習生二人によって構成されることになりました。名門・今川家相手にいまだかつてきいたことのない事態です!」


上「ええ、後半の展開が気になるところですよ、これは……」


山「はい。さあ世紀の一戦、後半のキックオフが近づいてまいりました!」




                                       ~つづく~ 

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