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戦国フットボール   作者: 習志野ボンベ
桶狭間の戦い
3/15

桶狭間の戦い~前半、その三

山「今川家は先制点を得たものの、先ほどの織田家の反撃によりゴールをおびやかされました。カウンターを警戒してか、以降の今川家はできるだけ自陣深くでパスを回します。一方、織田家は確実に守備ブロックを作り上げ対処――前からボールを奪いにいかず、敵にボールを回させるようです」


上「ふむ。そうですね。しかし、今川家は攻めに及び腰のようです。これは悪循環にはまったかもしれませんね」


山「悪循環……ですか?」


上「ええ。守備陣にとって、なにより怖いのは攻められること。ゴールに向かってこない敵など恐ろしくはないのです。今川家の消極的姿勢が、織田家守備陣に落ち着きを取り戻させてしまった」


山「たしかに。ゴールキーパーの森可成、センターバック林通貞、池田恒興、右サイドバック河尻秀隆、左サイドバック木下藤吉郎の織田家守備陣――最初の一点は不運でしたが、それ以降は統率がとれています。さらにボランチ二名もしっかり防御陣形の構築に参加し、守備は強固ですね」


上「ええ。一方、ボールを持っているはずの今川家のほうは意志の統一がとれていません。攻める側にとっては、これがなにより恐ろしい……そろそろ狙われますよ」


山「意志の統一? 狙われる? どういうことでしょう、上泉さん?」


上「すぐにわかります。――あ、ほら、今川家のパスに乱れが生じました!」


山「はい。下がってパスを受けようとした朝比奈選手と守備陣の裏へパスした飯尾選手の間でパスミスが生まれました。そこへ柴田選手、またも鋭い出足で一気にプレスをかける! そして体をぶつけて奪う! 朝比奈選手倒れましたが……ファールはありません! 将軍家より送られてきた三淵主審が立ちあがるよう、朝比奈選手に示します!」


上「これですよ。攻めにいこうとする選手とボールを回そうとする選手――どこかで、すれ違いが生まれ、パスにずれが出てきてしまうのです。特にこういった悪条件のピッチでは受け手と出し手の意識のずれは致命的なパスミスにつながります」


山「なるほど。たしかに織田家はそこを狙っていたようです。そして柴田選手が奪った勢いそのまま猛然と突進! パスを受けに下がってきたフォワード・当主である織田信長選手に渡します! 織田選手は受けたボールをあっさりはたいて……切れ込んできた左サイドのミッドフィールダー、佐々成政選手へ送る!」


上「ほう。織田選手がフォワードに入ったと聞き、最初は首をかしげましていましたが、なるほど――こうやって下がってボールを受け、空けたスペースを佐々選手に使わせる意図があったのですね。悪条件の芝状況ではこういう大胆な動きが功を奏することが多いですから」


山「ええ。もともと織田家は佐々選手と滝川選手のツートップだったようですね。おっと! 佐々選手はフォワードらしい攻撃性を見せ、そのまま突撃――一人かわしてシュート!」


上「体重の乗ったすばらしいシュートです。ただ惜しむらくは真正面。正直すぎましたね」


山「はい、そのようですが――ん? しかし今川家のゴールキーパー井伊直盛、強烈なシュートを取り切れずこぼした! そこへ走りこんでいたのは神出鬼没のストライカー滝川一益! こぼれ球に軽くミートして……ボールをネットに突き刺し、ゴォーーーーーーール!」


上「おお! ここにいたるまで完全に気配を消していましたね。それでいて肝心のポイントで出てきて、点を取る。こぼれ球の行く先も嗅ぎつけて……まさしくストライカーですよ」


山「ええ。そしてゴールを決めた滝川選手、歓喜を爆発させています! 仲間に囲まれ、祝福されて実にうれしそう。一方、チャンスを演出した織田選手は……ベンチの梁田政綱スカウトへ駆け寄り、喜びを分かち合っています。なんでもこの梁田スカウト、今川家との一戦にあたり情報収集を担当したそうです。その結果が出たということでしょうか?」


上「なるほど。今川家の弱点を調べ上げたうえで立てた戦術だったのでしょう。織田選手の裏方に配慮を怠らない姿はすばらしいものですね」


山「はい。美しい光景です。一方、歓喜を爆発させる織田家に対して、失点した今川家は呆然。選手たちは信じられないといった表情を浮かべています」


上「前評判を考えれば、織田家をなめてかかっていてもしかたのないことでしょう。しかし、それだけにこの心理的な衝撃は大きいですね。これは後を引くかもしれません」


山「そのようですね。当主、今川義元選手が励まそうとしていますが、選手たちは浮き足立ったまま、キックオフで試合再開しますが……どうもパスに乱れが目立ちます。今川選手が駆け回ってパスを受け、ようやくパスワークが落ち着きだしました」


上「う~む。今川家、さらにまずいですね。これは……」


山「上泉さん、どういうことでしょう? 今川選手の動きでチームの調子はもどりましたが?」


上「いえ。それはいいのですが、今川義元選手は、ただでさえお年を召していますからね。この芝の状態で走り回ればすぐ息が切れます。そうなれば視野も狭くなり、パスもどんどん精度を欠いていく。」


山「おっと! 今川選手、ボールを受け、そこからスルーパスを出そうとして……できない! くっ、ガッツが足りないようです! 今川選手、足を滑らせて転び、ボールはこぼれてしまう! あわてて飯尾選手がひろい事なきをえます」


上「……こうなるのも必然でしょう。濡れた芝を走り回って方向転換を繰り返したことで、完全に足に来ていますね。当主としては落ちこんでいるチームを放っておけなかったのでしょうが……」


山「なるほど。先ほどの反撃とゴールが思わぬところに作用していたわけですね?」 


上「はい。ここから先、今川家は苦しい戦いを強いられるでしょう。このチームのパスワークは今川義元選手中心で動いていますからね。(かなめ)である彼の動きがにぶると、できることが極端に少なくなります」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



山「前半もそろそろ終盤にさしかかりました。あの失点以降、今川家はさらに消極的なパス回しに終始しています。しかし織田家も無理にボールを追わず、結果として試合はこう着状態ですね」


上「はい。しかし意外ですね。今川義元選手が弱ったところで織田家がかさにかかって反撃に出るかと思いきや、不気味なまでの沈黙を保ったまま。ひたすら守備を固めています。おかげで今川家は自由に球を回していますが、もっともこちらも攻めに決め手を欠いているのでただパスしているだけ。織田どのは革新的な戦術家と聞いていたのですが……いったいどういうつもりなのでしょうね?」


山「ええ。おっと……ここで三淵主審が競技場わきに設置された時計を見ました。南蛮より送られた自鳴鐘はそろそろ前半の終了を告げようとしています……そして今、鐘が鳴りました。同時に法螺貝が吹き鳴らされ前半終了です」


上「そうですね。前半早々、怪我人が出ましたのでもう少し時間を取るかと思ったのですが、あっさりと終わらせましたね」


山「今川家の選手たちがベンチへ引き返していきますが、濡れた芝がこたえたのでしょうか? どの顔も疲労の色が浮かびます。足取りも重い。不満足な結果に表情にもよゆうが感じられません。一方、織田家の選手たちは一仕事終えたような満足した顔で引き揚げていきます」


上「そのようです。この精神状態の違いは後半の戦況に大きくかかわってくるかもしれません」


山「はい。さて休憩時間ですが、選手交代も含め、両軍、ここでどのような修正をほどこしてくるのでしょうか?」


上「ええ、今川家はいつものパスで攻める戦術が通じないこと――この点をどう修正してくるか。一方、織田家は前評判をくつがえした前半の勢いをどう後半につなげてくるかでしょう」


山「なるほど。注目の後半戦はしばしの休憩のあとに再開です」



                                    ~つづく~

   

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