表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国フットボール   作者: 習志野ボンベ
長篠の戦い
14/15

長篠の戦い~後半、その三

快「さあ。織田家、新たに入った森選手の活躍で追加点をあげました。大一番でのゴールに歓喜を爆発させる若武者ルーキーへチームメイトたちが祝福の声をかけます」


永「驚異のジャンプ力、さらに高い打点からゴールに突き刺す、すばらしいヘッドでした。その前の明智選手の精度の高いクロスも見応え十分のいいプレイでしたね」


快「はい。驚くほどの高さでした。この注目の新人選手は織田家のユース出身。まだまだ技術的に未熟なところはあるものの高い身体能力を買われて抜擢されたということです」


永「ほう。思い切った抜擢です。しかし森選手もその待遇に応える結果を出しました。荒削りな人材でも登用し生かし切るあたり、あいかわらず織田家の強みは人材登用ですね」


快「ええ。そしてこれで織田家に二点のリードが生まれました。この点についてはどうお考えでしょうか?」


永「そうですね。引いて守った武田家に対し、織田家はきっちり対応して見せたということです。陳腐なやりかたですが、高精度のクロスと高さのある選手の組み合わせはそれだけで点が取れる飛道具ですからね」


快「ああ、たしかに。引いて守る相手には高さを使った攻めが特に有効です」


永「ええ。そもそも武田家守備陣は高さが足りません。先の徳川家との練習試合でもセットプレーから失点していますから。織田家はその点も考慮に入れた可能性があります」


快「なるほど。しかし先代の信玄公が守備陣の中央――いわゆるリベロのポジションをつとめているときには問題にならなかったように思うのですが?」


永「当時は高い位置からのプレスが機能していましたので、自陣深い位置まで攻め込まれることがなかった。しかし、引いて守る今の守備ではどうしても粗が見えてくるのですよ」


快「あ、なるほど」


永「くわえて言えば、リベロの武田信玄どのを亡きあと、弟の武田信廉(たけだのぶかど)どのが影武者バックアップをつとめていますが……正直、守備陣の統率において力不足ということでしょう。あそこはリベロの信廉どのが支持を出し、明智選手にしっかりマークをつけさせる局面でした」


快「う~む、なるほど。これは武田家かなりきびしいことになってきましたね」



◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「さて、後半も残り時間のほうが少なくなってまいりました。織田家は二点のリードを生かし、時間をかせぐためにボールを回しつつも攻撃のチャンスをうかがいます」


永「ええ、一方の武田家はちぐはぐですね。早くボールを奪いにいこうとする選手と、きっちり引いて守ろうとする選手がいて、足並みに乱れがみられます」


快「そのようですね。しかしチームが混乱する中、当主の武田勝頼選手はどうして具体的な指示を出さないのでしょうか?」


永「たぶん彼自身の中で迷いがあるのでしょう。高い位置からボールを奪いに行かなくてはならないと知りつつ、自分が一番輝けるロングカウンター戦術を捨てたくないのだと思われます」


快「う~む。それはちょっとエゴのようにも聞こえるのですが」


永「はい。今後、勝頼どのが当主としてチームのために自分を捨てられるか、そこに勝敗を決する鍵がありそうですね。しかし、とにかく敵をひきずりこんで逆襲を狙う釣野伏戦術(ロングカウンター)を続けるにせよ。風林火山戦術(ハイプレスとカウンター)に切り替えるにせよ、当主勝頼選手の指導力と決断力が求められる局面でしょう」


快「なるほど。では二点リードの織田家のほうはどうでしょう? リードを守るべく守備に入るのか、それともさらに追加点を求めていくのか――今後、どう試合を展開していくつもりなのでしょうか?」


永「そうですね。基本的にはボールを回して時間をかせぎつつ、要所要所で前線ワントップの森選手に向け長いボールを蹴りこんでいます」


快「ええ。特に中盤の底――織田選手、右サイドに流れた明智選手、センターバックの位置からロングフィードを狙う池田選手からのパスの精度がすばらしいです」


永「はい。パスの出所が三か所あるので武田家も奪いどころが絞れない――次々にパスの出し手が切り替る『三段撃ち』ともいうべき攻めですね。さらに、この攻める姿勢のせいで武田家は常に背後(ゴールまえ)を気にしなければならなくなり、思い切った全面攻撃に出られません」


快「……ふむ。攻撃は最大の防御ということでしょうか?」


永「ええ。そうです。武田家、このままではじり貧ですねえ」


快「う~む。武田家不利の展開が続きます」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「後半も残すところあと十五分と少し――2対0の試合展開は続いています。しかし、微妙に試合に動きが出てきました」


永「はい。そうですね。先ほどのファインゴール以来、ロングボールを集められている森選手ですが、やはり技術不足のせいか……なかなかゴールにつながりません。しかし再三再四チャレンジをくりかえすうち、じょじょにゴールに迫っているように思えますね」


快「ええ。試合の中で成長しているようにも思えるのですが、これはわたしの錯覚でしょうか?」


永「いえ。正しいと思いますよ。緊張が抜け、確実に場馴れしつつあります。そして失敗からすぐに訂正し、短い間に驚くほど技術を高めている。これが『若い』ということでしょう」


快「しかし、何度もミスをしている森選手にも、織田家はどんどんボールを集めていきますね」


永「失敗を恐れては若者は育ちません。ミスが致命的にならないよう年長者がきっちりフォローしつつ、貴重な経験を積ませているあたり、さすが天下を狙う大名家だけのことはありますね」


快「なるほど。そして一方、織田家の連続攻撃をはじいているものの、武田家守備陣の顏にはどんどんよゆうが消えています」


永「森選手は試合中、ポジションどり、敵守備陣との駆け引きや体の当て方について、どんどん実地で習得していってますからね。危険なゴールのにおいを一番近くでかがされている守備陣にすれば、焦りはつのるでしょう。まして、あと一点奪われれば点差は三点。残り時間を考えれば逆転はほぼ不可能ですから、その恐れもあります」


快「ええ。そんな武田家の恐怖とは裏腹に織田家は悠々とパスを回しつつ、ロングボールを送るタイミングをはかっています。いったいいつ仕掛けてくるのでしょうか?」


永「う~む。断言はできませんが……先ほどから織田選手と森選手の息が合ってきています。となれば、仕掛ける確率が一番高いのは……」


快「つまり当主である織田どのがボールを持ったときということでしょうか? ――おっと! そんな話をする間にその織田どのにパスが渡ったぞ! 中盤の底でボールを受けると顔を上げ、ちらりと前線を確認する織田選手――その視線の先では手を上げた森選手がゴール前に走りこんでいる!」


永「お! これは……!」


快「森選手にマークが二人ついていますが、織田選手、かまわずやや角度をつけたロングボールを前線へ蹴りこむ!」


永「む、タイミング、速さ、角度――すべてが完璧なボールですね!」


快「ええ! そしてボールの落下点に先に入った森選手、高々と宙に舞った!」


永「おお! 守備陣の前にうまく体を入れましたね!」

 

快「そのようです。そして――高い! まるで宙に止まっているような滞空時間だ! バランスを崩した守備陣があとから飛びますが……間に合わない! そして森選手が先に頭でボールに触れ……体をひねって強引にねじ込みに行くヘディングシュート!」


永「なんとッ! あそこからひねりますか!?」


快「――森選手が頭で角度を変えたボールはきれいな弧をえがきます! 武田家キーパー小山田選手――力いっぱい飛んで全力で手を伸ばすが……とどかない! ボールはサイドネットに吸い込まれました! ここでゴーーーーーーーーーーーールッ! ついに織田家三点目を強引にもぎとりました! 若武者・森選手は今日2点目のゴールです!」


永「いや、すばらしい! 森選手の身体能力と織田選手の精度の高いロングパス――二つがかみあい、最高の結果をもたらしましたね!」 


快「はい! そして森選手――再び歓喜を爆発させ、チームメイトたちと喜びをわかちあいます!」


永「う~ん。いいプレイでした! 一点目は武田家の警戒が薄かったという幸運もありましたが、二点目は完全に実力でもぎとりましたね! これはうれしいでしょう」


快「ええ。若武者の思わぬ手柄に織田家はベンチメンバーまで含めて盛り上がっています。……しかし、一方、武田家は完全に意気消沈ですね。チームの皆がうつむいてしまっています」


永「おや……そしてどうやら、もめごとが発生しているようですよ。ベテランの山県選手、内藤選手、馬場選手が集まり、当主勝頼選手になにごとか相談したようですが……勝頼選手は声を荒げて三人を叱責しています」


快「――あ、そのようですね。……むぅ、内紛ですか。これはよくない。試合終盤、武田家にさらなる危機がおとずれているもようです!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ