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戦国フットボール   作者: 習志野ボンベ
長篠の戦い
12/15

長篠の戦い~後半、その一

 織田家VS武田家――後半開始。


快「さて、後半の始まり――主審である多聞院英俊さんが笛を口に当て、キックオフにそなえます。さあ、後半どうなっていくのでしょうか? 楽しみですねえ永田さん」


永「はい。武田家が前半の劣勢をどう修正してくるのか――気になるところですよ」


快「ええ。そうですね。ちなみにたった今、手元に入ってきました情報によりますと――武田家、どうやら戦術を修正してきそうです。ハーフタイム中の評定(ミーティング)で当主、武田勝頼選手から大声で指示が出ていたとのこと」


永「ほう。それはおもしろい情報です。勝頼どのの当主としての指導力が試されますねえ」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「後半は武田家ボールで始まります。センターサークルへ入るのは……センターフォワードの武田選手それに果敢な性格が持ち味の山県選手ですね」


永「……ふむ。まあ順当ですね」


快「そしてたった今、キックオフ! 武田選手からボールを受けた山県選手がすぐさま後ろの内藤選手にボールをもどします。さあ……後半戦、ここから開始です!」


 ~五分経過~


快「う~む。やはり織田家守備陣の壁は厚いですね。武田家右サイド――織田家にすると左サイドからの攻めは前田選手と羽柴選手の連携守備であっさり刈り取られました。奪ったボールは、すぐにボランチ織田選手へもどされます」


永「……ええ。武田家の猛プレスを警戒したのでしょうね。前に出しどころがない状況で守備に食いついてこられると、非常にやっかいですから」


快「はい。そのようですが……しかし、意外なことに後半開始から武田家はプレスをかけに行こうとしません。攻めにも人数をかけず、じっくり自陣にこもったまま。対戦する織田家選手陣も少々面喰っているようすです。結果として双方が様子見のような攻撃を散発的にくりかえすだけ。これはいったいどういうことでしょう?」


永「ああ……もしかすると、これが武田家の戦術変更なのかもしれません」


快「戦術変更と、いいますと?」


永「前線からのプレスが武田家の特徴だったわけですが、ある意味それは高いディフェンスライン設定と裏腹ですからね。前半から再三、上げ過ぎた守備陣の裏をつかれる攻撃をくり返されたので、ついに対策をとったということでしょう」


快「あ、なるほど。たしかに、これならば織田家のカウンター攻撃を防げますね」


永「ええ、計算上では……しかし、そううまくいくでしょうか? ちょっと心配ですね」


快「むむ。なにかこのカウンター対策に不安でもあるのでしょうか? 永田さん」


永「う~む。ちょっと、これは『やりすぎ』のような気がするのですよ」


快「はあ? 『やりすぎ』ですか? それはいったいどういうことでしょう?」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「後半開始から十分経過。武田家は慎重な立ち上がり。引いて守る守備陣のおかげで織田家のカウンター攻勢は息をひそめていますが、武田家もボールを奪えません。そのせいで先ほどから織田家にパスを回され続けている……もしかして、永田さんはこの状況を不安視されていたのですか?」


永「はい。ラインが下がり過ぎていますからね。カウンター対策としては申し分ないですが、ゴール前にへばりついていても、なかなかボールが奪えません。カウンター対策に気を配りつつも、ここは、もう少しラインを上げていかないと……」


快「むむむ。細かなライン設定が必要ということですね? これはなかなか難しい状況です」


永「ええ。なんといっても武田家は先制点をくらってますからね。さっさとボールを奪い、攻めに出て、早いうちに同点を狙うべき局面なのですが……」


快「なるほど。追加点こそ奪われていませんが、このままでは負けですもんね」


永「そういうことです。その上、こうまで引いて守るのは選手たちにとってストレスでしょう。ここまでずっと前線からのプレスをやってきた選手たちが多いですから」


快「ああ。そのようですね。やりづらそうにしています。慣れない守り方に四苦八苦している様子がうかがえてきました」


永「ええ。これでは自慢の走力もあまり生かせませんからね。得意分野でない戦い方を貫かせるほど勝頼選手に当主としての力量があるかどうか……」


快「むぅ、たしかに――では、武田家に明るい面はないのでしょうか?」


永「そうですね。一つ良い面をあげるとするなら……このあと、当主である武田勝頼選手の能力が有効になってくると思われます」


快「ほう。勝頼選手の能力が? それはいったいどういう……と、おっと!? ここで武田家の固い守備に業を煮やしたのか。右サイド高い位置でパスを受けた佐々選手が強引に内側に斬りこんでいく!」


永「おやおや! すばらしいドリブル突破ですね!」


快「はい! そしてペナルティエリア手前――佐々選手がゴールにせまり……なんと! ここでシュートを撃ちました! これは危ない! ……いや、しかしシュートは武田家キーパー小山田選手のほぼ真正面。小山田選手がこれをきっちり押さえ、キャッチします!」


永「おお! 距離のあるところから思い切りのいいシュートでしたよ! しかし武田家守備陣も寄せが速かった。とくに守備的ミッドフィルダー通称『鬼美濃』とよばれるベテラン馬場選手が、きっちりシュートコースを限定していましたからね。良い判断です。あれでは中々点が奪えないでしょう」


快「なるほど、さすがベテランといったプレイですね」


永「はい。お互いなかなか良いところの出しにくい試合展開でしたから、こういう応酬があると見ていて楽しくなります」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「さて。織田家の鋭い攻撃を防いだ武田家ですが――おっと! キーパー小山田選手、ここで得意のロングフィードを炸裂させる! 小山田選手が勢いよく投じたボールは、そのまま一気に前線へ! これぞ彼の持ち味だ! そして、そこに待ち構えているのは……当主の武田勝頼選手ッ!」


永「むッ! ここにきて勝頼選手にいいパスが出ましたね。これは期待できそうです!」


快「はい! そして武田勝頼選手――後ろから飛んで来たボールにジャンプして追いつくと、足を伸ばして空中トラップ! かなり速度のあるボールでしたが強引に自分のボールにしました!」


永「おぉッ! なんという高さ――すばらしい身体能力ですよ!」


快「ええ! さらにボールを収めた勝頼どのは加速して織田家ゴールに向かう! お、これは速い! 速いぞ! 並走してきたディフェンダー柴田選手、河尻選手があっさりとぶっちぎられます!」


永「なんと! 織田家に強烈なカウンターを喰らわせる武田家――先ほどと逆の光景ですね。佐々選手のシュートから、いきなりのカウンターとは……いやはや目まぐるしい展開です」


快「そうですね! さあ、一気にフィールドを駆け抜けた武田勝頼どの! 体を寄せてきたディフェンス池田恒興選手と競り合いながら突き進みます。さらに、そこに急ぎ戻った織田選手が加わろうとするが、――いや、ここで勝頼選手がシュートだ! 地を這う弾丸シュートが織田家ゴールを襲うぞッ!」


永「――おッ! 入りましたか!? これは同点ゴールですかね!?」


快「……あ、いえ、残念ながらポストに嫌われたようです。ポストからすさまじい音が響きましたが……結果はノーゴール。弾かれたボールは枠の外に勢いよく転がっていきます」


永「いやはや……これは残念。トラップからシュートまでの流れが実に迫力あるプレイでした。ただ、最後に織田選手の姿が目に入ったせいか、シュートが少しぶれてしまいました。実に惜しい。とはいえ武田勝頼選手の能力が存分に発揮されたプレイでしたね」


快「ふむふむ。……あ、もしかして、先ほどおっしゃられた『武田勝頼選手の能力が生かされる展開』というのはこのことでしょうか?」


永「そうです。前半のショートカウンター戦術では勝頼選手が攻撃のふたになっていましたが、こういったロングボール主体の戦術では違います。距離の長いカウンターでは身体能力のある優秀なフォワードは十二分に真価を発揮しますからね」


快「おお、なるほど! ここにきて、ついに隠されていた力を見せる武田勝頼選手! これは後半、熱くなりそうです!」




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