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戦国フットボール   作者: 習志野ボンベ
長篠の戦い
10/15

長篠の戦い~前半、その三

快「なんということでしょう! 織田信長選手の一本のロングパスから前田選手、丹羽選手とボールが渡りゴール! 前半十分、保たれていた均衡がここで崩れました!」


永「う~む。さすがですね織田選手。きついプレスをいなして、あっさり前線にパスを送りました。あえて食いつかせたようなプレイは、よほどキープ力がないと難しい――その後の弾道が低く速いロングボールもすばらしかった。ふわりとした浮き球だと武田家の走力で追いつかれますからね」


快「そのようですね。武田家は織田選手にプレスをかけに行ったところを狙われ、上げ過ぎたラインの裏を見事に使われてしまった形です――3バックの弱点、両サイドのスペースをうまく利用されました」


永「はい。その上、走力を生かしてもどった武田家守備陣の逆を突くようにバイタルエリアに戻すパス――前田選手の選択したプレイで丹羽選手がゴールを決めました。武田家はもどりの早さがかえって災いし、中盤にフリーの選手を残したばかりか、キーパーの死角を作ってしまったようにも思えます」


快「なるほど。武田家ゴールキーパーの小山田選手は、味方のディフェンダーが壁になって、シュートを見失ってしまったわけですね?」


永「ええ。そうなります。丹羽選手ほど技術のあるプレーヤーに自由を与えてしまえばこうもなります。おそらくこれも織田家の策でしょう」


快「……なんと! そこまで考えられた一連の攻撃だったのですか?」


永「はい。武田家のやっかいな走力をむしろ自らの味方としてしまう――戦略家・織田信長選手の企みは恐ろしいものですね」


快「なるほど。衝撃の展開です。こうなると武田家、どういった戦術をとればよいのでしょうか?」


永「う~ん。むずかしいですね。武田家はもともと走力を生かした短いカウンター戦術に特化することで強みを得ていましたから。急に変えることはできないでしょう」


快「……ああ、そうですね。戦術家として知られた先代の信玄公ならばともかく、まだ家督を継いで日の浅い勝頼どのでは難しいかもしれません」


永「そういうことです……いえ、その点まで含めてが織田家の作戦なのかもしれません」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「――さあ、気を取り直して武田家による試合再開です」


永「ま、とりあえず一点返すことができれば大きくちがってきますからね。ここは武田家の奮起に期待したいところです」


快「なるほど。おっと、ここで山県選手から武田勝頼選手にボールが渡って試合再開――しかし織田家、ボールを奪いに来ません。スペースをしっかり埋めている。武田家の選手は困惑しながらもその周囲でボールを回すしかない」


永「そうですね。相手が攻めに出たところでボールを奪い、相手守備陣が混乱しているうちにゴールに迫るのが武田家の攻撃でしたから。今のようにボールを持たされる展開はやりづらそうですね」


快「ああ。そのようです。引いて守る織田家に対してなすすべがない武田家――これはこまったぞ」


永「すでに織田家は一点取っていますからね。最悪このまま試合終了でもいいわけです。そこが武田家との大きな違いですね」


快「ふ~む。そう考えると、やはり先制点を与えてしまったことは痛かったのでしょうか?」


永「ええ、それはもう。無造作なプレスがいなされて失点――教訓として痛すぎました。織田家の最初の攻撃が未遂ならば慎重な戦い方に変更できたのですが……。一点のリードを許した今、武田家は攻めざるを得ないわけです」


快「つまり、先制点を奪われたことによって戦術をせばめられてしまった……と?」


永「まさしく。織田家は武田家の攻め上がりを待っていればいい。一方、武田家は罠と分かっていても攻めざるを得ないわけです。不用意な序盤の立ち上がりが重い結果をまねきましたね」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「武田家――先制されてから、ひたすらボールを回すしかない状況。攻め手を欠いて二十分が経過しています。いつの間にか、すでに前半三十分――永田さんの言われたとおりの展開になりましたね」


永「織田家の守りに隙がありませんからね。こうなっては武田家の強みである走力も生かしようがないです。うかつな攻めがカウンターを招く恐れもありますから、安全策でいかざるをえません。二失点目を喫した場合、その時点で勝利は難しくなりますし」


快「むう。なんという困難な状況――武田家に勝ち目はないのでしょうか? かつて堅守で知られた北条家に勝利したこともあったかと思うのですが……」


永「ああ。そんなこともありましたね。たしか……『三増峠(みませとうげ)の戦い』でしたか?」


快「はい。攻め疲れたように見せかけた武田家に対して、北条家が反撃に出たところで――ボールを奪い取り一気のショートカウンターでしとめた一戦です。見ごたえのある戦いでした」


永「……う~む。しかし、あのときと状況が違いますからね。『三増峠の戦い』ではスコアは0対0――北条家が勝利に色気を出したところを逆襲したのですが、今の織田家は無理に攻める必要がありません」


快「あ……なるほど。たしかにそうです。今は織田家がリードしています」


永「――その上、あのとき武田家の当主は信玄公でした。彼の類まれな指導力あってこその作戦ですから。正直、今の当主である勝頼どのには荷が重いかと思われます」


快「むぅ、やはりそうですか。一所懸命に当主を勤める姿を見ると、どうしても勝頼どのを勝たせてあげたくなるのですが……」


永「……ああ。そういえば快川さんは武田家のサポーターでしたね? たしかにサポーターとしては今の状況は気が気でないでしょう」


快「はい。しかし『心頭滅却してサポートすれば火もおのずから涼し』の精神で冷静に実況をおこないたいと思います。……というわけで、再びの質問ですみませんが、この状況から武田家が逆転する方法はないのでしょうか?」


永「そうですね。今の武田家には難点が一つだけあります。その短所が改善されればあるいは……」


快「ほう……短所の改善ですか?」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



快「永田さんが言う『武田家の短所』というのはいったいなんでしょう?」


永「先ほども言いましたが、当主勝頼どのが前線のフタになっています。勝頼どのはご自身にボールを集めさせたいようですが――これがいけません」


快「ああ。『攻撃手段が限定されてしまう』と言っておられましたね。あとは攻めが『一手遅れてしまう』とも……」


永「はい。本来『ショートカウンター』というのは優秀な戦術ですから、だいたいどんな相手にも通用するものです。しかし勝頼どのは自らがゴールすることに執着して常に味方にボールを要求している――そのせいで織田家の守備がやりやすくなっています。以前のようにボールを奪った選手がそのまま上がる形にできればよいのですが……」


快「……ふうむ。そうですね。勝頼選手は優秀なフォワードですが、数人がかりのマークを受けて結果を出せるほどの実力は……残念ながらありませんし」


永「ええ。偉大なお父上を乗り越えたいのかもしれませんが、中心選手のわがまま――それも結果につながらないわがままはチームの士気を下げますからね。できるだけ早く対応すべきかと思いますよ」


快「……むう。サポーターとしては、その点にできるだけ早く気づいてほしいものですが……おっと、ここで前半残すところ十分を切ります。武田家はわずかな残り時間で一矢報いることができるのでしょうか!?」




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