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戦国フットボール   作者: 習志野ボンベ
桶狭間の戦い
1/15

桶狭間の戦い~前半、その一

 ときは16世紀――、

 極東の島国、日本において――、 



 1543年、種子島に南蛮人が漂着、火縄銃を日本にもたらす。



 1549年、フランシスコ・ザビエル日本に来訪、キリスト教の布教を開始。



 1551年、スペイン人宣教師コスメ・デ・トーレスが、ザビエルに日本での布教を任される。

 


 同年、トーレスは信者たちとのレクリエーションのため、イタリアの友人から聞いた競技を利用する。

 競技の名は『カルチョ』。

 そのままでは少々荒っぽい球技にトーレスは日本の風俗にあわせた改良を施す。

 

 そしてトーレスは改良した足で遊ぶこの球技に足球(フットボル)と名付けた。

 もっとも日本人には発音しづらいため、だんだんとフットボルはフットボールと呼ばれるようになる。


 その日こそ――日本フットボールの誕生の日であった。


 はじめてこの競技が行われたのは戦国大名、有馬氏の庇護下にあった長崎の平戸。

 そこからフットボールはキリスト教との相乗効果で爆発的に広まり、やがて日本中を巻き込む熱狂的な流行となった。

 この流行に乗ったのは庶民たちだけではない。

 西国各地に群雄割拠していた戦国大名たちも例外ではなかった。彼らは有能な武将をかき集め、威信をかけたフットボール合戦を繰り返すようになる。

 


 やがて歳月は過ぎ――、

 


 1559年、室町幕府十三代将軍・足利義輝は宣教師ガスパル・ヴィレラに教えられたこの球技に熱狂し、洛中・畿内においてキリスト教ともども広める許可を出した。

 そして、いつしか足利家と幕府が主催元となり、大名同士の争いすらこの球技で決着がつけられるようにまでなっていく。



 ――のちに言う、蹴球戦国時代の幕開けである。




     ◆   ◇   ◆   ◇   ◆





 時は永禄三年、五月十九日のこと。

 尾張国、桶狭間陸上競技場にて――。




山科言継(以降『山』)

「みなさま、こんにちは。本日は今川家対の織田家の一戦をお届けしたいと思います。実況は名前がアナウンサーっぽいということで選ばれた、わたくし山科言継(やましなときつぐ)。いい加減な人選ですが、基本万能型の人間なのでなんとかこなしてみせましょう。受け取るギャラは少々手元不如意の職場、朝廷のために使用する予定です。そして今回、解説は剣豪としてもおなじみの長野家家中・上泉秀綱(こういずみひでつな)さんでお送りいたします。上泉さん、よろしくおねがいします」


上泉秀綱(以降『上』)

「よろしくお願いします」


山「では開戦前に両家の陣形(フォーメーション)を発表いたします。まずは今川家から――こちらは433の陣形ですね。逆三角形の中盤の底には大将・今川義元が入ります。『東海一の舵取(ボランチ)』と呼ばれる彼を中心とした連携がこの陣営のキモと言えるでしょう。そして気になる三先鋒(スリートップ)にはおなじみ朝比奈泰朝を中央に配置。右には期待の新人・松平元康、左ウイングは斬りこみ隊長・岡部元信となっております。……上泉さん、この陣営を見ての感想は?」


上「そうですね。技術のある武将がそろった華やかな陣営です。その技術力をいかした中央突破が売りですね。ウイングの選手もぐいぐい中に入ってきます。徹底的に中央を狙う攻めには『御所(足利家)が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ』と言われた名門としての誇りが感じられます」


山「なるほど。続けて織田家の陣形解説にまいります。陣形は442と中盤を一線にならべた布陣。注目選手の当主(キャプテン)兼監督・織田信長はなんと今日、二先鋒(ツートップ)に入っています。なんでも対戦前に熱田神宮に参拝してきたということで、意気込みが感じられますね。上泉さん、こちらについてはどう思われます?」


上「はい。やはりこの陣営の中心はなんといっても織田信長選手でしょう。織田家は選手の位置が非常に流動的で大将である織田の動きを起点に、すべてが連動して動き始めます。戦術がときとして革新的で、なかなか理解されづらいところはありますが、時代の最先端を行っている武将といえるでしょう」


山「ほほう。高評価を与えていらっしゃるのですね。下馬評では今川の圧倒的有利が伝えられていますが……」


上「ええ。しかし聞くところによれば、織田のほうは近日中の専業(プロ)化を進めているとのこと、となれば武将のモチベーションも変わってくるでしょう。あるいはこの一戦、歴史を変える試合になるかもしれませんよ」


山「そうですか。それは実に楽しみですが……おっと、間もなく開戦(キックオフ)です」



    ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



山「さあ、開戦です。(ボール)は今川家、織田家は地の利を取りましたね」


上「はい。先ほどまでひどい豪雨でしたし地面の状態は最悪です。織田家はこのあたりの地理に詳しいということで、もしかしてなにか秘策があるのかもしれません」


山「なるほど。その点にも注目ですね。おや、たしかに松平から皮鞠(ボール)を受け取った朝比奈、ぬかるみに足を取られているようです」


上「はい。ぬかるんだグラウンドでは球足が極端ににぶりますからね。ショートパス主体で攻める今川には厳しい状況といえるでしょう」


山「おっと、大将・今川義元にボールが渡った。さすがに技術が高い。ぬかるみの中でも安定したボールキープ。技術を見せています」


上「ええ、本物の技術はどんな状況でも発揮できるものです。しかし……ちょっと不安ですね」


山「おや、いったいなにが?」


上「今川どのはもうけっこうなお年です。技術は衰えませんが、このぬかるんだ足元では体力の消耗が激しいかもしれません」


山「ほほう。たしかに動きづらそうですね。駿河国など支配領域では整った芝でプレイしているとのことでしたし……しかし、今川どの、なんとふりかえりざまに一発で縦にパスを通した!」


上「すばらしいです! そして右サイド、パスの出た先、走りこんでいる武将が一人いるようですね。まるで出る先を予測していたようです」


山「はい。あれは松平選手です! ぬかるんだ芝の上、ふだんならば届かないボールが止まって追いつきました。そのままドリブルを開始します! 完全に意表を突かれた織田家、左サイドバックの佐久間盛重が追いつこうとして――あっと! 転倒した! 立ちあがれない! その間に駆け上がっていく松平、馬力のあるドリブルです! そういえば米俵を背負うトレーニングを自らに課しているとか」


上「いいですね。人生は重い荷を背負って行くがごとし。そんな強さを感じさせるドリブルです」


山「おっと、敵陣深くまで切りこんだ松平、ここで中にクロスを上げますが……――なんと! そこへ走りこんでいたのは朝比奈です! マークはついていない。完全にフリーだ! そして軽やかに流し込んでゴーーーーーーーーール! 開始からここまでわずか五分でした!」


上「おお! 見事な連携です! 今川のパスから始まり、松平のドリブル、朝比奈のゴール嗅覚が生きましたね。地の利を生かしたのがアウェーの今川家というのがおもしろい話です」


山「ええ。そして……おや? 織田家の佐久間選手、立ちあがれません。たんかでフィールド脇に運び出されます。お恥ずかしながら、わたしは医術も少々やるのですが、あまりよくない倒れ方のように思えました」


上「ぬかるんだ芝の上で急に方向転換をしましたからね。肉離れなどおこしてないといいんですが……」


山「ああ、やはりこれはダメなようですね。ピッチ脇では治療にあたっていた曲直瀬道三医師が手でバツを作って出しています。織田家、試合開始早々失点した上、選手がケガをしました。これは大きなピンチです!」




                                   ~つづく~

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