第9話〜11話
第9話
知美の野望
「お姉ちゃん、話があるんだけど・・」
「なに?知美。」
姉妹ふたりが暮らすアパートの一室で、夕食を食べながら知美が切り出した。
「お姉ちゃんさぁ、雄介さんとあまり進展してないんじゃない?」
「うん。。特にはね。」
「じゃあ雄介さんのこともあまり知らないのね?」
「あまりプライベートなこと聞くのも失礼でしょ?彼が自分から話してくれるときしか聞かないわ。」
「そんなときってあるの?」
「う〜ん。。ないわねあまり。」
「それって怪しいと思わない?お姉ちゃんが好きなら、もっと自分をアピールしてくるはずでしょ?」
「その人の性格にもよるわよ。」
「ダメよ!お姉ちゃんに合う人は、もっとグイグイ引っ張ってくれる人じゃないと!お互い消極的じゃ何も進まないでしょ。」
「知美、あたしを応援してくれてるんじゃなかったの?」
「お・・応援してるからこそ言ってるのよ。この前、雄介さんと駅で会ったとき、確かにいい人だとは思ったけど、お姉ちゃんをリードできるかは別問題よ。」
「厳しいこと言うわね。知美。」
食べながら話していた知美はここで箸を置いた。
「実はね、お姉ちゃん。アタシ偶然、雄介さんの同僚の人と知り合ったの。」
「え・・・?」恵美も箸を置いた。
「つまり・・その・・その人も同じ電車通勤の人で、雄介さんと一緒に話してるところをアタシ見たのよ。」
「そんなの・・アタシ今まで1度も見たことないわ・・」
「だってお姉ちゃんが電車から降りて会社に向ったあとのことだもの。」
「でもどうしてそれが、知美と知り合うことになるのよ?」
「えへへ。。それがね、その人駅でお財布落としちゃったのに気がつかなくってね、アタシが拾って届けてあげたの。」
このような知美のウソは言うまでもないが、恵美と雄介を別れさせ、良太を姉に紹介させるために用意されたシナリオであった。
「それでね、お姉ちゃん。アタシお礼にその人にランチおごってもらったんだ。そのとき少し話したんだけど、すごく話が上手で、人を飽きさせない技を持ってるというか・・ランチのメニューだって、強引にアタシの分まですぐ決めちゃうほど決断力が早いの。」
「あたしはメニューくらいじっくり見て決めたいわ。。」
恵美はまた箸を取って食べ始めた。
「お姉ちゃん、アタシが言いたいのはね、お姉ちゃんが付き合う人は、そのくらい行動力と決断力が早くて、人を不安にさせない人じゃなきゃってことよ!わかる?」
「そりゃ・・そういう人の方が頼りになるとは思うけど・・」
「でしょでしょ!」
「でも・・そういう人って裏がありそうで・・なんか・・」
「だからそれをハッキリさせるために今度ウチに呼ぶことにしたの。」
「Σ('◇'*エェッ!?。。知美。。そんないきなり。。」
「ランチのお礼も兼ねてだけどね。お姉ちゃんもその人を見極めるチャンスよ。」
「あたしは別に。。知美の彼氏にしたらどうなの?」
「ダメよ。アタシも強引タイプだから、似た物同士はケンカばっかりになるわよきっと。お互い自分にないものを持ってる同士がいいのよ。」
「困ったわ。。何ごちそうすればいいの?」
「アタシが何か作るから心配しないで。」
「。。。。。」
こうして無理矢理に恵美を納得させた知美は内心ご満悦だった。
『うまくいったわ。。アタシも早く雄介さんとデートできる日が来ればいいなぁ。。』
そして知美は良太に携帯メールをした。
作戦成功!!(p・・q)イェイ
第10話
計画の実行
土曜の夕方、福永良太は知美と駅で待ち合わせて、彼女の自宅アパートへと向った。良太にしてみれば、すでに雄介を尾行したときに家はわかっていたのだが、当然そんなことなど言えるはずもない。
「家にいるお姉ちゃん、すごく緊張してたわよ。」
「そりゃ知らない人が来るんだから警戒はするだろうさ。」
「初対面なのに福永さんは全然緊張しないの?」
「そりゃしなくもないが・・目的のためには冷静に行動しないとね。」
「お姉ちゃんをものにするってことね。」
「そう。そして君のためでもある。」
「くれぐれもお姉ちゃんには優しくしてね。」
「わかってるよ。しかしそれが、これから雄介との仲を引き裂こうとしてる妹の言うセリフかねぇ?(* ̄ー ̄*)フフ・・。」
「だって。。別にアタシお姉ちゃんを不幸にさせるつもりなんてないわ。ただ雄介さんと付き合うのは絶対アタシってこと。そしてお姉ちゃんのためには行動的な福永さんの方がいいと思っただけよ。」
「協力感謝するよ。知美ちゃん。」
「 (o^-^o) ウフッ」
こうした会話をしているうちに、二人はアパートに到着した。
恵美が玄関先で出迎えた。
「おかえり知美。・・こちらの方が?」
「そうよ。こないだランチごちそうになった福永さん。」
「はじめまして。福永良太と言います。ごちそうだなんて・・知美ちゃんに財布を拾ってもらって助かったのは僕の方でしたから。」
「当然のことをしたまでよ。」
「福永・・さん。妹がすっかりごちそうになって・・ありがとうございました。」
「そんなかしこまったお礼されると照れちゃうなぁ(~д~ )ゞデヘヘ。それに今日は招待までしてもらって・・お礼を言うのは僕の方ですよ。」
「まぁ福永さん、とにかく狭いとこだけど中に入って。」
「はい。ではお言葉に甘えてお邪魔します。」
キッチンでは知美が料理の準備をしていた。
「知美。手伝おうか?」
「いいよ。すぐ終るから。お姉ちゃんは福永さんと座ってて。」
恵美は小声で知美にささやいた。
「そんなこと言ったって・・無理よ初めて会う人なのにいきなり話せるはずないじゃない。早く来てよ。」
「はいはい。なるべく急ぐから。先に下ごしらえしてるからもうすぐよ。」
恵美は居間に戻った。そこには良太が正座して待機していた。
「福永さん。あの・・遠慮なく足をくずして下さい。」
「あ・・はい。。どうも女性の家へ通されるのは初めてなもんで、緊張しまくってます;^_^A アセアセ・・・」
「気楽にゆっくりくつろいで下さって結構ですから。」
もちろんこれも良太の芝居である。さわやかでちょっとウブな面を見せつつ、礼儀正しい自分を表現して好印象を得ようとしているのである。
「福永さん、今キッチンで知美がお鍋を作ってるんだけど。。キムチ鍋はお好きですか?」
「はいっ!大好物です!いいですねぇ。この寒い時期には体があったまります!」
そのときちょうど知美が両手に具のいっぱい入った鍋を持って居間に現れた。
「良かったわ〜大好物で。福永さんの好きなものや苦手な食べ物聞くの
忘れちゃったから、ちょっと心配だったんだアタシ。」
「僕は雑食ですから何でも食べますw」
知美はカセットコンロをセットして鍋に火をかけた。
「うちって、お姉ちゃんと二人っきりでしょ。お互い少食だし、普段は鍋なんてしないのね。だから1度みんな集まってにぎやかに鍋パーティーしたいと思ってたの。」
「僕がひとり増えただけですよ?」
「でも男の人の食べる量ってアタシたちに比べたらハンパじゃないでしょ?」
「まぁ・・確かに食いますね僕は。(#^.^#)」
「アタシたちだけじゃ、食べきらないですもん。材料も中途半端になっちゃうし。」
「福永さん、妹のお礼と言ってはなんですけど、たくさん食べていって下さいね。」
「はいっ!遠慮なくいただきますっ!」
その後、三人でテーブルを囲んで鍋をつつきながら会話は進んだ。
といっても、話してるのはほとんど良太と知美で、恵美は聞き役になっていた。しかし、いやいや聞き役になっているのではなくて、話上手の良太に恵美も少しばかり気がほぐれたようだった。
そしてその恵美の様子を、良太は見逃さなかった。
「実はですね、恵美さん。あ・・恵美さんて呼んでいいですか?」
「い・・いいですよ(#^.^#)」
「実は僕、恵美さんの顔は電車の中でいつも見ていたんですよ。」
と、マイカー通勤だった良太は切り出した。
「Σ('◇'*エェッ!?」
「僕は残業が多いから、帰りの電車では見ませんが、朝は毎日お見かけしてました。」
「なんか・・そんなこと言われたら恥ずかしいわ。」
「あ、すいません。。。でも、清楚で素敵な人だなぁって思ってましたよ。」
「そんなこと・・ないです・・」
「お姉ちゃん顔真っ赤よ。うふふ。。」
「こら知美!・・ち、ちょっとお酒入ってるからよ・・」
「でもですね、偶然とはいえ、さっきこの家へ来て、電車でしか見かけなかった恵美さんが玄関にいたので内心驚きましたよ。」
「ごめんなさい。アタシは全然気づかなくて。」
「謝ることなんかないですよ。あんな満員電車の中でなんか、特別オーラの出てる人でもいない限り、顔を覚えるなんてことはできないはずでしょうし。」
「はい・・」
「それに恵美さんはいつも田口としゃべってるのを見かけてましたから。」
「・・・・・え?」
「あぁ、僕ですね、田口とは同僚なんですよ。」
「Σ('◇'*エェッ!?」
「でも不思議でした。僕んちと田口んちは近所なんですが、僕が電車に乗ったとき、すでに田口は前の駅から乗ってるようでしたから。」
「??????????」
恵美は戸惑い始めた。。。
第11話
マインドコントロール
福永良太は話し続けた。
「で、不思議だったもんで僕は、田口に会社で聞いてみたんです。。。あ、恵美さんはもしかして知らかったとか・・?」
「え・・えぇ、何にも・・」
「うわ、僕まずいこと言っちゃったかなぁ・・じゃこの話はこれでやめましょうかね?」
知美が間髪入れずに割り込んだ。
「いえ、福永さん続けて。お姉ちゃんも気になるでしょ?聞きましょうよ。ね!」
「えぇ・・。」
「そうですか。では話しましょう。僕が会社でそのことを田口に聞いたら怒鳴られましたよ。『余計なお世話だ』ってね。あいつはすごく気が短いんです。でも最近ここ数ヶ月、様子がおかしいんで僕も気になってはいたんです。」
「どう様子がおかしかったんですか?」
と、知美が合いの手を入れる。
「田口は帰宅時間になると、我先にと言わんばかりに急いで帰るんです。たまに飲みに誘ってもOKしてくれることがなくなりましてね。」
「それで?」
「それで僕が、『お前付き合い悪いなぁ。何か急いで帰る理由でもあるのか?女か?』って言ったら、またやつはキレちゃって怒られまくりましたよ僕は。」
「お姉ちゃん・・雄介さんて・・なんか怖い人みたいね。」
「・・・・・・・」
「で、ある日僕はたまたま隣町に住んでいる親戚の家に用事があって、次の駅、つまりこの町の駅ですね、ここに降りたら雄介も別なドアから恵美さんと降りているのを見たんですよ。」
「いつも雄介さんはそうよね。お姉ちゃん。そして駅を出たとこで挨拶して別れるのよね?」
「・・うん。」
「そうですか?えと・・言いづらいんだけど・・そのときはですね、田口は恵美さんの後ろを気づかれずに跡をつけて行ったように見えましたよ?」
「キャー!こ、こわいっ!」
知美がまたまた、わざとらしく叫んだ。
しかし、素直な恵美には知美の芝居など見抜けるはずもなく、雄介に対する恐怖心が次第に募ってきたのである。
「あ・・すいません。やっぱりやめましょうこんな話。恵美さんを怖がらせてしまって。。」
「いいえ、言ってくれて良かったわ。ありがとう福永さん。」
「ほんとにすいません。せっかく作ってもらった鍋に水が入ってしまったような。。。責任取って残さず全部食べますので僕。」
「そうしてちょうだいね、福永さん。アタシが作ったんだから。」
「はい。」
「でもお姉ちゃん、先にわかって良かったわよほんとに。雄介さんがそんなに短気でストーカーのような人だなんて。。前の人とたいした変わらないんじゃ・・」
「知美っ!そのことは言わないでっ!!」
「ご、ごめん。」
「いろいろ事情があるようですね。僕が人のプライベートを聞くのも失礼ですので、あえて聞きませんが、僕ができることであれば何でもしますのでいつでも相談して下さい。」
「福永さんて優しい。。ね、お姉ちゃん。」
それとなく良太に心変わりさせようと仕掛ける知美。
「ただ僕が今思うに、雄介にはやっぱり気をつけた方がいいと思いますね。」
「あたし。。あたしって。。どうしていつも男運が悪いんだろ。。」
恵美は目の前のキムチ鍋をボーッと見つめながらつぶやいた。
「恵美さん。元気出してください。僕は今までに10回はフラれてます。でもその都度、自分の精神力は鍛えられてきましたし、経験から学んだことも多かったです。恵美さんもまたひとつ強くなる第1歩だと思って前向きに生きましょうよ。」
「強いのね・・福永さんは。でも・・そうよね・・そう・・強くならなくちゃね・・あたし。」
「そうよお姉ちゃん。」
「そうですとも!恵美さん。僕応援しますから。それともうひとつ・・」
「??」
「こんなときに不謹慎かもしれませんが、僕、恵美さんを電車で見かけてから実は一目ぼれしてました!今日こんな偶然なめぐり合わせで出会うなんて、運命と言うしかないと思いました。返事は今すぐとは言いません。僕と付き合ってください。」
「ええぇぇー?(◎0◎)」
恵美は突然の良太の告白に度肝を抜かれた。
「あの・・あの今はちょっと・・ショックなことばかりで・・」
「わかってます。でもどうしても言っておきたかったんです。許してください。」
こうして3人の食事会は終った。良太が帰ったあと、恵美はしばらくソファに横になっていた。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「心臓に悪いわ。どうきがまだ続いてるし。」
「ぜいたくよ。お姉ちゃんモテまくりなのにwもっと楽しく気軽に考えればいいのよ。アタシは、あとのショックが大きすぎないように、深く考えないの。何かあったらこっちから先に捨てるくらいの気持ちで付き合うのよ。いちいち凹んでたらこっちが馬鹿を見るわ。」
「でもそれって、いつまでも信用し合えない仲ってことじゃない?」
「いいの。アタシはそれで。自分が傷つくよりとっぽどマシ!」
「そう。。強いわね知美は。あたしには・・・無理。」
「でもさっき福永さんも言ってたでしょ!経験から学ぶものもあるって。お姉ちゃんは確実に学んでるじゃない。いつかきっと幸せをつかむことができるわよ。」
「うん・・ありがとう。知美。」
その後、知美は良太にメールした。
「福永さんが10回もフラれたなんて信じられないんだけど?」
良太の返信
「もちろんウソさ。あの場はああ言うしかなかった。これでまた1歩進んだな。(* ̄ー ̄*)ニヤリッ」
知美の返信
「アタシはまだよ。これからもっと雄介さんに密着しないとね!」
(続く)




