第31話
☆最終回特別ロングバージョン
揺ぎない決意・後編その1
AM11:10
「こんな大事なこと、雄介さんも知ってるの?」
恵美は不思議そうに宗則に聞いていた。
「そうですよ。今日は僕と知美。そして雄介さんとお姉さんの合同結婚式ですからね。」
「そんな・・あなたたちに悪いわ。今日の主人公はあなたちよ。あたしたちが出る幕じゃないのよ!でしゃばるわけには。。」
「全くお姉ちゃんたら、やっぱりそう言うと思った。だから内緒にしたのよ。」
「僕たちのことは全然気にしないで下さい。お二人ともご苦労されてきたんですし。嬉しいんですよ僕らだって。お姉さんたちとこうして式を挙げられることをね。」
「でも・・・何から何までお世話になってしまって。本当にいいのですか?宗則さん。無理はなさらないで。」
「無理などしてませんよ。この企画を提案したのは、実は雄介さんなんですよ。僕はそれを聞いて即決しましたよ。」
「え・・?」
「雄介さんが、僕のところに頭を下げて話をしに来たんです。」
「彼が・・・そんなことを・・」
「はい。恵美にどうかウェディングドレスを着させて欲しい。そして式も合同で挙げさせてもらえないかとね。」
「。。。。」
「しかも式にかかった費用は2組分、全額払うと言われました。一生かかっても、どんなことをしても必ず返しますと何度も僕におじぎをしました。」
「雄介さんがそんなことまで。。。」
「僕は雄介さんの心にうたれました。幸せになるのは僕と知美だけじゃない。ささやかな式ではありますが、お姉さんと雄介さんだって、一緒にこの幸せなひとときを体験しなけれなならないんだと思ったのです。知美も同じ気持ちだろ?」
「そうよお姉ちゃん。お姉ちゃんと一緒なら幸せも倍増しそうよ。」
「ありがとう・・ほんとにありがとう。。」
「お礼なら雄介さんに言って下さい。でもまだ・・到着してないようですね?」
AM11:40
式の時間が迫っていた。だが雄介は姿を見せてはいなかった。
恵美を始め、知美あ宗則、そしてスタッフたちにも不安がよぎる。
「携帯にも繋がらないの。。」と恵美。
「どうしちゃったんだろうね?雄介さん。。」
そんな中、ひとりのスタッフが外から走ってやってきた。
「あのー、この川のちょっと先に救急車やパトカーが停まってるんですよ。」
「それがどうかしたのか?」と宗則。
「人が集まってたんでちょっと覗いて見たら・・」
「うん?」
「子供と大人の男性が岸に横たわっていましたが・・」
「え!!?」恵美の鼓動がドクッと鳴った。
「どうやら今、救急隊が介抱してるようでしたがまだ・・」
異常な胸騒ぎを感じた恵美は無言のまま、教会を飛び出した。
「そんなはずない・・そんなはずない・・彼じゃない・・絶対彼じゃない!」
恵美は無我夢中で走った。遠くでパトカーの灯りが赤く光っている。
恵美は無意識に自問自答していた。
『なんで泣くの?恵美。まだ見てもいないのにわからないじゃない!泣いちゃダメ!雄介さんなんかじゃないったら!』
宗則と知美も恵美の跡を追った。
「まさか・・そんなことは。。」
「お姉ちゃん・・」
AM11:55
恵美が息を切らしながら現場に到着すると、救急隊員が現在もなお、横たわっている子供と大人の男性に、人工呼吸や心臓マッサージを懸命に施していた。
「雄介さん。。雄介さんっ!!」
恵美は一目で彼だと確認した。
「雄介さん!起きて!起きてお願い!起きて!」
恵美は彼の体を揺さぶる。
すぐさま、そぼにいる警官に取り押さえられなだめられる。
「とにかく落ち着いて下さい。今、隊員が懸命に蘇生させてますから・・」
「いやああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
恵美は半狂乱になっていた。
少し遅れて到着した知美と宗則も愕然としていた。
「お姉ちゃん・・」
「まさか、こんなことが・・」
恵美は知美をの顔を見るなり、彼女に抱きついて大声で泣きじゃくった。知美も強く恵美を抱きしめた。姉にかけてあげる言葉が見当たらない。ただ痛いほどわかる恵美の心情を思うと一緒に泣くばかりだった。
雄介の脳裏では、今まで生きてきた様々な出来事が、一瞬のうちに流れ続けていた。特に恵美との出会いは鮮明な画像で、当時自分が心踊るような心境であったことまでリアルに映し出されていた。
恵美との電車での出会い。遠くから見つめていた恵美の姿。たどたどしい会話。恵美に会うためだけの自転車通い。そして緊張したデート。
『これが・・走馬灯というものなのか。。』
雄介はそう思った。
『じゃあ・・俺は死ぬのか・・・』
走馬灯を観ながら考える雄介。
『いやだ!絶対死なない!こんなことで死ねない!恵美をひとりにできるもんか!まだ恵美に何もしてあげていないのに・・このままじゃ俺はただの大バカ野郎じゃないか!』
走馬灯の画像から一転して暗黒の闇の世界になった。
どこをどう歩いても走っても暗闇から抜け出せない雄介。
『俺は本当にこれで終りなのか・・』
すると闇の中に突然切れ間が生じ、その中から手を差し出している者がいた。まだ暗くて顔まではよくわからない。
『しめた!これが救いの手なのかもしれない。』
雄介はとっさに差し伸べられた手を握った。
と、同時にものすごい力で暗黒の切れ間に引っ張り込まれそうになった。雄介は嫌な予感がして、その力に抵抗した。
そして雄介が逆にその手を一気に引っ張り込んでみると、それは。。
それは福永良太だった。
「田口、無駄な抵抗だ!早くこっちの世界へ来い!」
「福永・・悪いが俺はまだ行けない。」
「ふざけるな!お前が俺にしたことをわかってるのかっ!」
「すまない福永。あとでこの責任は必ずとる!お前と地獄でとことん付き合うから、今だけは勘弁してくれ。頼む!約束する!」
「雄介は福永の握った手を力づくで振り切った。
後編その1(続く)