リリーン
プロローグを変更しました。
キサラの仲間の状況が変わります。(死んでしまってはいるのですが)
「さて、改めて自己紹介をしようか。俺はボルカノ=マーレイ。このビヨルンカの街の城壁の門番をしている。」
ボルカノはがっしりとした体格でいかつい顔の男だ。左の耳は半分切れたのかない。だが声も言葉も穏やかだ。
マーシャが二人の前にカップを置き自分もカップを手にして座る。
「はい、お茶。」
「ありがとうございます。」
湯気がたって、ハーブのいい香りがする。
「キサラと呼んでいいかな。」
キサラが一口飲むのを待って、ボルカノが切り出す。
物腰が落ち着いているので、キサラは銀河連邦の上官を思い出した。
門番なんて職業じゃなく職業軍人でも十分務まりそうだ。
「はい。」
「キサラを見つけたのは、インデの森の川べりだ。」
インデの森がどこにあるなんてさっぱりわからない。
何故川べりにいたのかも・・・
覚えているのは・・・
体が震えてくる。
「大丈夫。怖い目にあったのよね?言いたくないなら聞かないわ。」
マーシャがそれでいいでしょとボルカノに目で合図する。
「まぁ、そのうち話せるようになったら、話してくれ。」
ボルカノとしてはきいておきたいようだが、キサラの様子で今はその時じゃないと思ったようだ。
「申し訳ありません。お世話になりました。厚かましいようですが、あと2、3日こちら居させていただいてもよろしいですか?」
キサラはぺこりと頭を下げる。
上陸船がある。ここからそのぐらい遠くにあるのかは調べなくてはならないが、そこまでたどり着けば、モリソンが戻ってきたとき合流できる。
「うちは構わないが」
「キサラ、行くあてはあるの?」
「何とかなると思います。ご好意感謝いたします。」
「そう堅苦しくしなくていいわよ。宮廷じゃあるまいし。」
「ただ。」とボルカノが付け加える。
「所属不明のリリーンは基本いないからな。・・・キサラ、そのくらいは言えるかい?」
(リリーン?)
キサラの戸惑いがわかったのか、マーシャが説明してくれる。
「リリーンは赤い髪を持つ人のことをいうのよ。」
「・・・ではアリスもリリーンなのですか?」
「そうよ。赤い髪の人たちはエリン使いの素質があるの。それで国々は登録して囲い込んでいるってわけ。」
エリン使い。
ギルドの二階で確か書いた文章があった。
この世界と重なってエリンという世界がある。その世界から火・水・風と言った現象を自分の意思で呼び出すことのできる人間。
まるでおとぎ話の、魔法使いだ
だがこの世界では実在するらしい。
赤い髪がエリン使いの条件とは書いていなかった。
「自分がリリーンであることを知らなかったって顔だな。」
面倒事になりそうだと思ったキサラは
「ご迷惑になりそうなので、明日出ていきます。申し訳ありませんが、地図と食料を少し分けてくださいませんか」
「そう急がないでいい。」
マーシャがパンっと手を打ち合わせる。
「髪、染めちゃいましょう!」
「お、おい。」
「だって、この子本当になにも知らないか、覚えていないのよ。そんな子を放り出したりしないわよね?」
「マーシャ。お前のその拾いグセどうにかならんか」
「あら!この拾いグセで、あなたに出会ったというのにそんなことをいうの?」
ぐっと詰まったボルカノ。
「キサラ、何色がいい?といっても紫か黒ね。」
「・・・黒で。」
「そういうことなので、いつまでも居ていいわよ。」
「いつまでもって」
ボルカノはため息をつく。
「・・・そういうことになったか。まあ、予想通りだが。確かに常識さえ知らないようだ。こちらは君が何を知らないかわからないから、知りたいことや疑問に思ったことは聞いてくれ。」
「申し訳ありません。なるべく早く出ていきます。」
「いいって。それにそういう時はありがとうというもんだ。」
「ありがとうございます。」
正直ホッとする。足場があるのとないのでは大違いだ。
この世界の知識が全然ない今は特に。
「店の手伝いやマリア遊び相手お願いするわね。そのほうが世話になりやすいでしょう?」
「はい。手伝えることはなんでもします。」
ボルカノさんを立てつつ、主導権はマーシャさんのようだ。
「何者なんだ。自分の名前と言葉しかわからないとは。」
ボルカノが上の部屋へキサラがひき取ったあと、ため息混じりに言う。
「私はあの子を手放しませんからね。」
「なんでそう肩入れする?リリーンだからか?」
「インデの川の上流は、あの土地につながっている。あの子はあそこから来たのかもしれない。」
「廃都ナルタナ。もし・・・いや・・そうだとしたら保護した時の錯乱状態は納得できるな。」
「どうして無事だったのかも気になるけど、父の気配のある子を見捨てるなんてできないわ。
「気配ってまさか生きて?」
「父はもうエリンの捧げものよ。でもあの子にはエリンの匂いがした。」
ボルカノはがしがしと頭を掻く。
「そういうところはさっぱりわからない。うちの女房はじつは赤い髪じゃないかってみんなが言うのもわかる・・・」
マーシャはかすかに笑う。
「いろいろ私にもあるのよ。」
「旦那に隠し事かよ。」
「ミステリアスでいいでしょ。・・・ところで、今日王都から早馬が来てたわよね。」
「耳も早い。」
「わたしにはご近所ネットワークがありますからね。」
「王都からの使者だ。エリン使い『予知者』ユイチィスの神託があったらしい。詳しくはまだだ。俺のところに伝わるより早くお前のところにくるだろうさ。」
翌日、マーシャのうしろをでマリアの手をひいて(というか引かれて)キサラは街を歩いていた。
赤い髪は黒く染められている。
「マーシャ、クカの実がお店にはいっているかい?」
「ええ。それとセンかの葉もはいっているわ。あばあちゃんの腰にいいと思うわよ。」
「わかった。あとでとりにいくよ。」
「マーシャ、おはよう。店開けてていいのかい?」
「おはよう。ちょうどネクルが来たから、店番頼んできた。」
そう来たお客さんに店番を頼んできているのだ!
「マーシャ、いい天気だね。」
「そうね。でも午後からかぜがでるわよ。」
「そうかい?じゃあウゴルンを干すのはよしとくかね。」
あちらこちらからマーシャに声がかかる。
「マリア。マリアのお母さんって皆に好かれているのね。」
「ウン!お母さんすごいの!
あのね、エリンのごかごがあるんだって!」
エリンのご加護だろう。
鼻息も荒く自慢しているマリアが可愛い。
自分より小さい子と一緒にいりなんてことは今までなかった。
覚えているのは白い部屋と大人たち。
同い年の子もいなかった。
調査官になろうとしてはじめて同年代にあったくらいだ。
だから手をつなぐのも初めてでちょっと恥ずかしい。
でもうれしい。
マーシャのあとをマリアに手を引かれて着いた先は、店の前だ。
絵の着いた看板が、洋服屋であることを示している。
「こんにちは。」
「おや、マーシャ。マリアもこんにちは。」
鼻眼鏡の男の人が出迎える。
「一緒のお嬢さんははじめましてだな。今日はマリアの服の仕立て直しかい?」
「今日はこの子の服を何着か欲しいの。」
キサラの方を向く。
「直ぐにだったら、古着でいいのがあるよ。きれいなもんだ。新品なら2、3日待ってくれれば、そちらのお嬢さんにピッタリなのが上がるが」
「新品も欲しいけど、すぐに一枚は欲しいから・・・古着も見せてくれる?」
キサラの来ている服はマーシャのものだ。キサラは背こそマーシャより少し高い程度だが、幼児体型なので、胸のあたりがぶかぶかだったので詰めて着ている。
「あの、お嬢さんでもないので、あれでいいです。」
キサラが指をさしたのは、部屋の隅に袋に入れられていた服だ。
「いやいや。あれは下取り品だよ。もうほごして再利用するものだ。着れたもんじゃない。」
「でも、ズボンがいいです。それに新品なんて・・」
「子供が遠慮しないの。エスト、古着を見せてくれる?ズボンの古着もあったら一緒に。」
「シャツとズボンなら新品もあるよ。」
「じゃ、お願い。」
「わかった。」
古着のスカートとシャツとズボンに決まった。
新品のシャツとズボンは必死で辞退した。
「ありがとうございます。」
「そのうち、新しいのを買ってあげるわね。」