スリーピングチャイルド
「$%&!*@+!」
「聞いたことない言葉ですね。」
「そうだな。だが、よっぽどのことがあったのだろう。」
「かわいそうに。まだ子供なのに。」
「なんであんなところに倒れていたのだろうか。」
「ロック鳥にでもさらわれてきたのかしら。」
「ともかく、目が覚めてから聞いてみよう。」
「コトバが通じればいいけど・・・」
「いやだぁああああ」
自分の叫びではっと目が覚める。
ガバッと起きる。今まで見たことのない部屋だ。
部屋には自分だけだ。
ドアがあく。飛び起きるとベッドの影に隠れる。
「Rhotuna?Urenuyg。」
器をもった女性が立っていた。武器は持っていない。声も緊張していない。
敵じゃないのか。
バングルに触れる。
「Netobaga taana inarawa。」
女性は器を置くと手を広げて害意のないことを示す。
「Yojyobu.」
『自動翻訳機能セット完了しました。』
「? どこから、音がしたの?」
「ここはどこですか?私の仲間は?」
女性が嬉しそうに笑った。
「まぁ、よかった。うなされて異国の言葉を話していたから、通じないと思っていたのよ。」
おいた器を再び持つとベッドに近づいてきた。
「わたしは、マーシャ。マーシャ=マーレイ。お名前は?」
「キサラ。」
私はジリジリと壁際による。武器は・・・ある。もし、攻撃してくるようなら・・・
「キサラ。残念だけど、倒れていたのはあなたひとりよ。」
やっぱり、逃げられなかったのだ。
みんな 変わってしまったのだった。魔人に・・・
カイ キャプテン、テクワ、ミナト、ユーレシア。
やっと手に入れた仲間だったのに。
またひとりになってしまった。
なれている。
一人はなれている。
大丈夫。
「ふっ。くっ。」
食いしばった口から声が漏れる。
涙がこぼれる。
マーシャは痛ましそうにキサラを見る。
「辛かったら、泣いてしまいなさい。いない方がいいなら出て行くから。」
そう言うとマーシャは部屋を出ていった。
キサラは、そのまま床にうずくまり声を上げて泣き始めた。
「グラン父さん・・・」
『キサラ』
グランは、スリーピングチャイルドにそう名前をつけた。
毎日状態を確認するときに声をかけている。
スリーピングチャイルドと呼ばれているが実際の年齢は300歳近い。
保護された5歳の時から昏睡状態に入りそのままだ。
当時、魔人化の危険性があるので処分しようという動きがあったが、幼児であったためと、魔人化の研究対象として保護された。
昏睡状態にあるため魔人化しないのか、魔人化しているため5歳の状態で300年生きていられるのか、研究課題は山積みだったが、そのどれも解決せずに終わっている。
今では経過観察のみ継続中。グランは、亀からの派生人類だ。キサラとはもう90年近い付き合いだ。長く付き合っていられたが、その私とてあと10年くらい後には余命を数える年になる。その時も、まだキサラは眠っているのだろうか。
「キサラ。今日も元気だね。」
バイタルサインは通常値だ。
「今朝、スヌリヤの花が咲いたよ。私はあの花が大好きなんだ。ピンク色の花で木いっぱいに花がついてピンクの雲のようなんだ。知っているかい?スヌリアの花は散る時は一斉に散るんだ。一度だけその瞬間を見たことがあるんだ。」
キサラのまつげが揺れる。センサーが警告音を鳴らす。
「! 覚醒?!」
願っていたにも関わらず、その時が来ると焦ってしまう。
グランはワタワタと仲間をよびに走った。
目覚めたスリーピングチャイルドは、目覚めただけだった。
外部の刺激に対しては、生理反射以外のリアクションがなかった。
保護したとき彼女は、四方を壁にかこまれた独房のような部屋にいた。
テロリストの言では、実験体と扱われ誰も話しかけず餌だけ与えるといった非人間的な扱われ方だったらしい。
そのため、まるで人形のように感情のない顔で決められた動作を繰り返す。
隷属していた獣人の労働をオートマタが、請け負っているが、そのオートマタの方がまだ人がましいと言えるほど、無機質的だった。
検査、検査、検査。
人とは明らかに違う能力を持っているが、《魔人》としての兆候はない。
テロリストどもは、ネオ・ヒューマンの創世に成功したのか。
そのまま『キサラ』と名付けられたスリーピングチャイルドは、秘密裏に政府の管理下に置かれたまま、『人』になるための訓練を受けることになった。
スリーピングチャイルドのキサラの時計はまた時を刻み始めた。
10年がたち推定だがキサラは15歳になった。
魔人化は起こっていない。
この10年で科学者たちはキサラが何らかの要因で魔人化を抑えていると結論づけた。
そしてその状態は、未だ発見されていない強制進化促進機械の切り札になるかもしれないと考えた。
人との絆や親近感をすりこむために、特定の個人と密接にかかわり合いを持たせる事に鳴ったとき、グランは自ら志願した。
グランはキサラの親替わりになった。
自分の死期が間近なことを悟ったとき、政府の許可を得ずに無断でキサラに彼女の生い立ちを話した。それによって、自分の人生を選び取ってもらいたかった。
それが出来る子に育ったという自信もあった。