見えない怪物
尻を回し蹴りされた奈々を尻目に優はダッン!と踏み込んで荒れ狂う最新型戦車(メーカー希望価格8500万円)に突っ込む。そこには既に激しい戦闘が繰り広げられていた。
「止目、砲弾の回収サンクス!」
「私の人体模型ならあらゆる角度から連射される砲弾を地面に叩きつけることなんて楽勝すぎてオナラが出るでガンスこんちくせう・・・」
「なんかキャラ設定があらぬ方向に!?てか、それって脳のストッパーを下げる能力だよな?」
「そうですが、なにか?レレレのレー♪」
「いや、それはもういいって。ならさ、その反動で骨とか筋肉がズタズタにならないの?」
「そういえば、先輩にはお話していませんでしたね・・・」
と言って、止目は制服の下に着ている黒いボディースーツを少し引っ張る。
「これは、会長さんの体液を織り込んだ特製の樹脂で出来ていて自分側に掛かるベクトルを反射する・・・まあ、要するに自分は当たった感じがしないのに、相手側に2倍のダメージが掛かっているカンジです」
と喋りながら、跳んでくる黒い鉄球を右に左になぎ払う。
「体液?!おえっ、気持ち悪・・・。はっ、っていうことは今止目は全身をアホ会長に舌なめずりされているのと同じことにっっっおわっ!!!」
急に迫ってきた正拳突きを間一髪のところでかわす優。
「あっぶ―――」
「キモイことを言わないでください。これ、血ですから!唾液じゃないですから!!」
「まあ、似たようなもんだろう・・・」
といってゴソゴソと学ランから四角い小さな箱を出す優。
「とはいっても、筋肉への負担はやっぱり相当なもんだろう?あとで救護班にヒールしてもらえよ」
「ラジャー」
軽く流すように受け応えてから、止目は視線を斜め上へと促す。
「正面の目立つデカブツは1機ですけど、わかってます?」
優も視線を少し上げ、ぐるっと周りを見渡し、跳んできた砲弾に手をかざす。すると、小さな火花が発生し、黒い鉄の塊は手を滑るように流され後方に落ちる。
「9時の方向に3人、11時の方向に1人、2時の方向に4人ビルの屋上に遠距離射撃班を待機させてやがる。ついでに言うと、俺たちの前150mあたりに地雷をいくつか埋めてやがるな。計画性のある犯行だとわかる。ざっと見ると素人らしくない、というか手馴れたヤツが指示を出してると思われるな・・・。実行してるのはただの学生だけどな」
「ご名答、ご明察」
パンッパンッパンッ、と乾いた拍手を贈る止目。
「ってえことで、鉄の猪は私の剛拳がアイラヴューな銃撃は先輩の電撃&水素爆発でお願いします。あっ、地雷ちゃんの方は正確な位置がわからないので先輩、察知したら報告してください。」
ふうっと息を吐き出すと、優は先ほどの箱の蓋を開け中身の灰色の砂を地面に垂らす。すると、チリチリッと火花が発生すると同時にそれはくるくると少年の周りを囲む。
「りょーかいっ♪」
◇◇◇
「先輩先輩・・・」
先ほどの騒動が終わったあと、彩は奈々の袖をくいくいっと引っ張る。
「なに、彩ちゃん?」
クソ生意気な後輩に蹴り飛ばされたお尻をさすりながら、応じる奈々。
「さっきの防衛戦で擦りむいたみたいなんで、負傷者として救護班に合流していいですか?」
んっと可愛らしい声で、赤くミミズ腫れっぽくなっている腕を見せる。
「擦過傷ねえ・・・。まあ、今日はやることも無いだろうし早く戻って休みなさい」
「はぁい♪」
とやけに明るい返事をしてルンルンとスキップしながら戦場を離れていく。これで、この一帯には非戦闘員は奈々一人になったはずなのだが―――
「そろそろ出てきてもいいんじゃないですか?お姉様、いわさ試験体番号20781号・・・」
声のトーンを低くして前を見たまま後方ヘ声をかける奈々。誰も居ないその場所から、ひとりの少女が姿を現した。元々そこにいたわけではない、気がついたらそこに立っていたという感じだ。
「あらあら、その名前で呼ぶのはやめてくれないかしら。どこで誰が聞いているかも分からないんだからぁ~♪」
ざっざと踏み出し奈々の横についたのは優姫雫。いや、正確には優姫雫のようなものだ。
「何をおっしゃっているんですか?お姉様をどうしたかは知りませんけど、その身体を手足として操っているのはもう【優姫雫という不確定精神体】ではないはず。乗っ取ったのか殺したのかは存じ上げませんけれど、その人形でこれ以上それをこの世に具現化しないでもらいたいわね」
鋭い目つきで睨む一方、その口は不敵に笑っている。
「ずいぶんペラペラと喋るじゃないか。だが、貴様も人のことは言えないだろう。その玩具はあくまで借り物のはずだ、Ms.ハートキラー」
雫のようなもの、試験体番号20781号の口調が変わった。と同時に奈々は手刀を作り口を開く。
「確かに、今この身体の主導権は私に・・・正確にはこの場所ではないどこかに存在している複数の私にあるけれど、話している内容自体はこの身体の持ち主自身の意思よ。今日、この場に居合わせたのはお互いにあの子を見極めるという1つの理由からでしょう?そう、ガブリエルの因子を持つものを・・・」
言い終わったところで、Ms.ハートキラーは手刀を横になぐ。そしてそれが試験体の腰のあたりに触れた瞬間。音もなく、その女の下半身が消し飛んだ。綺麗な断面を残して。
「ぐっぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁuewgyjdhehro?!?!?」
響き渡る咆哮、絶叫、試験体の神経が脳を刺激し、空気を震わせる。
「うへぇ、要所要所の機関はモノホンの内蔵を使ってやがる・・・。悪趣味にも程がある」
「それは、製作者本人に言ってあげなよ?」
そう、そこには、上半身しかない死体があるはずのそこには、何もなかったように生徒会副会長の身体が佇んでいた。
「うっわー、マジかよ。超速再生?」
「そーんなヤワなモンじゃねーよ。あえて言うなら瞬間再生。意識がそれに向いた瞬間に、もう治ってました~♪的な?」
「的な?ってお前、実は何も考えてねえだろ」
呆れ気味に言うハートキラー。
「まあ、こっからは一時休戦にしようぜ。お前のその身体が惚れた男の活躍、網膜に焼き付けておきたいだろ?」
「そりゃお互い様だろうがよ。ま、その案には多いに賛成だ。殴り合いの嬲り合いの醜い殺し合いはそのあとでも十分に意味を持つだろうよ・・・」
そして二人はガッと拳を合わせ、目の前で繰り広げられる激戦を見つめる。
そして等の本人の紫音優は二人の美少女の怪物が背後で静観していることを知る余地もない。
あっれぇ~?ちゃんと書いたつもりなのに、なんか変な伏線が立ったぞ???
まあ、なんとかなるかな(ポジティブシンキング)・・・。