決戦前夜
ここは優姫家の別棟にある会議室。入口の正面には大きな液晶モニタがあり、その映像が見やすいように半円型に椅子が多数並べられている。席にはそれぞれ風紀委員のメンバーがついている。
「はいはい、皆席ついてー」
風紀委員長である亜衣がパンパンと手を叩き、異色なメンツを着席させる。
「急に呼び出した割にはほとんど全員そろってるのな」
ムスっとした顔で優が言う。それに対し亜衣はにやっとし、俗に言う猫なで声で返答する。
「優姫家の情報網を甘く見ないでほしいなあ。一体どのタイミングで連絡をすれば状況的かつ心情的に断ることができないかなんてすぐに判ってしまうのですよ。ボッチ君もとい優君の朝ごはんから下着の色までわっかっちゃう優れモノなのです!」
ドヤ顔を決め込む亜衣を、一人の少女が遮る。
「プライバシーの欠片もないですね」
会話に割って入ったのはこの中で最も小柄な少女。1年生の冥利 止目だった。身長は中肉中ぜの優の胸辺りに頭が届くか届かないかくらいであり、胸も決して大きいとは言えない。いわゆる幼児体型というやつである。
「この街にプライバシーなんてあったっけ?」
「今私は近いうちに必ず引っ越そうと固く決意しました。今までありがとうございました」
「止目ちゃんの銀行口座の番号を今ここで滑舌よく暗唱してあげてもいいんだよ?」
「ちっ」
影のかかった亜依の笑みに悪意を投げつける止目。第一、いいんちょさんに口論で勝とうとするのが間違いなのである。
「優姫妹先輩、とどちゃんは僕のものなので手出しはしないでいただきたい」
止目の隣で鼻息を荒くして異を唱える小太りの男。
「ロリコンも大概にしろって言いたいとこだけど、、、無理か・・・」 訂正しよう。小太りではなくこのデブの名は迂回 |周期(周期)。特徴は過度のロリコンである。ちなみに止目と同じ1年生。
「ここには変態しかいないのかぁぁぁぁあああああああ!!!」
とどめの絶叫。止目だけに。
「はいはい、お遊びはそれまでにしないと」
ピタッと騒ぎが止まった。
いや、止められた。
1人の少女によって。
「お姉ちゃん、ここでの能力発動は禁止のはずだけれど・・・」
「こうでもしないと止まらないでしょう?」
全員の顔が青ざめている。
特に美月はカタカタとハムスターのように震えている。
彼女の名前は優姫 雫。亜衣の双子の姉で、風紀委員会副委員長と生徒会副委員長を兼任している実力者だ。
彼女の能力は心理描写。半経2キロ以内に存在するありとあらゆる生き物を特定し、愛情・恐怖・憎悪といったさまざまな感情を植え付ける。能力判定はA3で、かなりの化物といえよう。
たった今、室内にいる全員に植え付けた感情は恐怖と孤独。目の前がかすむほどの状態である。
「皆だらしないわねえ」
パチン!と指を鳴らした乾いた音が響き渡った。
すると、雫を除いた全員から肩の力が抜ける。
すぐさまいざ行かんと口々に抗議の意見の雪崩が
「いいかげんにしてよ!」
「ちょ、まだ震えが止まらないんだけれど・・・」
「怒気がカーソルの限界点をガンガン叩いています」
「雫姉はおちゃめだなあ・・・」
あ、これは昭久
「脳への負担がハンパないんだけど!」
「優姫姉先輩、メガネに亀裂が入りましたぞ」
豪邸の1室が国会中継に様変わり。
雫は周りをぐるっと視線を這わせると―――
「さっきより騒がしくなってる・・・」
驚愕の表情
『当たり前だ!!』
数分後、ある程度騒ぎ立てたところで1周回って沈黙を取り戻した。
美月は疲れ果ててぐったりしていたが、ふと違和感に気づく。
―何かが、いや、誰かが足りない―
「あ!」
美月同様、疲れ果てた面々が美月に視線を向け頭の上に疑問符を浮かべる。
「凪零が居ないじゃない!!」
『今更か!』
総ツッコミ炸裂。
その疑問に雫が答える。
「凪零君なら、生徒会長の付き添いでロサンゼルスよ」
「え、何それ。ずっるぅーい!」
「いやいや、先週から何度も言われてたじゃないか」
優が呆れた顔で美月を見つめる。
「まず、凪零先輩と生徒会長のコンビはかなりマズイと思いますよ?」
ここでデブロリ登場
「本気で殺りあったら街が1つ消えるだけじゃすまないでしょうね。まあ、先生方がついて下さっているから、そんな事態にはならないでしょう」
雫の苦笑。
基本、超能力はある特定の才能ある学生にしか使えず、主にそれは一般市民を守るために使用される。規定の訓練場や練兵場以外で能力者同士争うことなど、能力没収げは目に見えている。
あまりの規模のデカさに本日何回目かの沈黙。
「はいはい、さっさと議題に入っちゃいましょう」
副委員長であるはずの雫がその場をしきり始める。
「いやいや、そのまえに俺の腕を胸から外してくれよ・・・」
・・・
何故か雫の胸に優の腕が沈んでいる。
顔は真っ赤っかである。
「えー、優君かわいいし~こっちの方が落ち着くし~」
急にきゃぴきゃぴし始める雫。
「さっきまでのシリアスモードはどうしtjsふぁじさふぁじmv?!?!」
こんどは顔が胸に埋められる。
やってらんないとばかりに総員スルーを決め込む。
「はいはーい、では議題に入りまーす」
冒頭と同じように、亜衣が場を取り仕切る。
「今回集まってもらったのは他でもありません。皆さん、落ち着いてよく聞いてください」
しばしの沈黙。
ごくっと誰かの喉が鳴る。しかし、雫は優の首にホールドをかけたまま。
亜衣はすうっと息を吸い込む。
「理事長のお孫さんの純一郎君が不良集団に誘拐されました~!!」
特に反応は無し。
というか、またかという雰囲気。
「またか・・・」
止目がわざわざ声に出した。
はぁ~・・・っと全員のため息が場を澱ませる。
七条学園が創設されたのは10年ほど前であり、本校の理事長、七条 源左衛門の孫、純一郎が上京してきたのが3年前である。
超能力がこの世の理を掌握してから、学生の格差は学力から能力判定の高低差に移行し始めた。
能力値が高いものは出世し、低いものは万年下っ端。
要するに、今まで学力や暴力でジャイアンの地位を保っていた者が、一瞬にしてのび太まで突き落とされたのである。
そりゃあ、不満も出るだろう。
いくら腕っ節がたとうと、テレポートやサイコキネシスにはかなわない。
だが、どうにかして現状を以前の状態に戻したい。
そうなると、彼らの怒りの矛先は何処へ向かうか。
超能力開発の権威。事実上の世界の王。七条源左衛門である。
どうにか彼を突き落としたい。やれるなら殺りたい。
なにか弱点はないものか。
そこで出てくるのが孫の純一郎である。彼は無能力者であるにもかかわらず、とても祖父に重宝されている。
彼らは唯一の弱点をつかって世界を変えようとしたわけである。
「はいはい、皆気が抜けているようだけど改めて引き締め直しなさい。」
全体が謎の空気に包まれる。
「今回の彼らは今までの武器だけでなく、重機を、戦車を所有しています」
『戦車あ!??!』
そりゃあ、驚くだろうよ。だって戦車だもん。
「まあ、今回はバックアップがいるってことだよね」
「だろうな」
明久が頷く。
「銃刀法で武器の所有や、やりとりが禁止されている以上、個人やましてや学生がそんなものを持てるはずがない。まあ、ピストルやライフルくらいなら訓練場に常備されてるからなんとかなるだろうけれど・・・。後ろに大きな組織がいるのは間違いないだろうね」
「武器商かなにかか?」
優がペンをクルッと回しながら尋ねる。
「さあね。そうとは断定できないけれど可能性が大きいのは確かだ」
明久が返答した。
今度はは雫がゆっくりと口を開いた。
「学生の能力、しかも一般生徒じゃあ正直いっぱいいっぱいってとこかな」
「一般生徒だと無理だろうね。ってことは―――」
「私たちの出番ってことね!」
美月が拳を固く握る。
「で、勝つための作戦は?」
止目が亜衣に尋ねる。
「それを今から考えるのさ!!」
やはりか、と全員が思ったが口には出さない。
これからが面白くなると確信しているからだ。
少年少女たちは、烈火の炎へと歩み始める。
この先に、全てを飲み込むとてつもなく大きい闇があるとも知らずに―――
今回はちょっと長くなりましたw
次回からはシリアスです!
あ、これからは新キャラもどんどん出していきます♪