落下してきた鉄柱が、君を貫いて突き刺さる~♪
「死ねる・・・」
青い空、胸じゃなくて雲の谷間から覗かせる夏の天敵太陽さんが今日も路上の人々の頭部を焼き焦がす。
本日世界で最も不運な男、紫音 優は頭上から降ってきた不運の塊(主に植木鉢とか鉄骨とかetc...)を蛾のように舞って避けつつ、見事目的地の国内有数の大財閥、優姫グループのお屋敷に到着したのであった。
目の前に広がるは大豪邸も大豪邸。なに、このゲームバグッちゃったの?的な感じで、普通なら圧巻するところだが、その大きな門の前には大黒柱並みの図太い神経を持ち合わせている男女が一組―――
「で、よりにもよってコイツとハチ合わせるとはな・・・」
「なに、容姿端麗・眉目秀麗・学力優秀な美月さんと一緒なのが気に食わたいとでも?ぼっち君にしてはなんとも要求がお高いことで」
優姫邸に到着するちょうど5分前に駅前の交差点で出会ってから、お笑い芸人の漫才がごとくペラペラペラペラ悪態をついているのが我らが美少女、水野 美月様である。
「容姿端麗と眉目秀麗って意味かぶってんぞ。小学校からやり直してこい」
「うっさいわね、平々凡々ぼっち君に言われたかないわよ。」
「ぼっち君言うな!」
「あら、そんな鬼のような顔をしなくても・・・。まあ、いつも欲求不満でしょうから仕方ないことだったわね」
「う、うっさいな!お前こそ、実はビッチ君なんじゃないのか?」
「私は貴方みたいな蛮族とはちがいますぅ~。魂のレベルが違うんですぅ~。」
「な、お前そろそろ黙んないとその舌焼き切って二度と喋れないように―――」
「はいはい、そこまでー。」
『昭久!』
ある意味お似合いなカップルのマシンガンキャッチボールの仲に割って入ったのは亜衣の彼氏、イケメンの山ノ内昭久。
「人様のウチの前でなにをやってるんだ君たちは。」
『だ、だって・・・』
「だっても明後日もありません。門番の人が困っているじゃないか。」
2人とも、お互いの悪口の言い合いに熱中していて気付かなかったのか。確かに大きな門の前には毛根が末期で目も当てられない焼け野原になっている中年の男性(指輪がハメられているのでおそらく既婚)が困った表情を顔に貼り付けている。
「え、あ、、、すみません・・・」
「私たち、話に夢中で・・・」
「い、いえいえ。お嬢様からは喧嘩をしているお似合いの男女がいたら止めるなと言われておりますので」
『え?!』
「おそらく、亜衣が指示したんだろうねえ。・・・面白いから・・・」
『は!?』
「息ピッタリだね。やっぱりお似合いなんじゃない?」
『だ、誰がコイツなんかと!!』
「ぷふっ」
『おじさん!!』
「あ、その、すみません」
「ははは」
普段通りのショートコントが行われたあと、大豪邸の敷地内に足を踏み入れた。
「てか、こんなに軽い感じで入ってもいいのだろうか?」
「まあ、何回も来ているからこの雰囲気にはもう慣れたものよね」
「俺はほぼ毎日来ているけどな・・・」
『毎日?!』
国内有数の大財閥ということは、屋敷の大きさもそれなりに広いわけで。わかりやすく例えるなら、「ハヤテのごとく!」三千院家の屋敷とほぼ同規模である。それでもわからない人は、練馬区の半分の面積だと認識してくれるとありがたい。
「恋人だからしょうがないっていうか、もはや義務みたいな?」
「そうかもしれないけど、これこそレベルが違いますよ?」
「どう反応したらいいのか皆目見当つかないわ・・・」
2人がスケールのデカさに困惑しているうちに、ようやく玄関が見えてきた。
「いや、玄関までの道のりの長さには未だにキツイわ・・・」
「これに慣れたらもう一般人には戻れない気がする・・・」
「私も、この家に25年ほどお使えしておりますが、確かにこの長さはしんどうございますね・・・」
「まあ、俺はもう慣れたけど・・・」
『お前はもう異常だよ(ですよ)!!!』
「も、門番さんまで・・・」
ひとしきりのコント(part2)が終了してから玄関で靴を脱いでスリッパに履き替え、目的の会議室へと向かう。
そして、シリアスへの扉が開かれる―――
「さあ皆、七条学園風紀委員会緊急会議の開催だ!!」
まさか、お屋敷に入るまでにここまで行数を費やすとは・・・