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溺れる

作者: 綾㮈詩音

簡単な人物紹介など。


未志麻(みしま) 翡翠(ひすい)

・母

・母子家庭で、幼い頃から母と二人暮らし。

・・・ぶく。ぶくぶくっ。

ぶくぶくぶくぶくぶくぶく。


口内から吐き出された空気が、

私の眼の前に束となって視界を覆う。


「・・・っ」


“ まただ。”


水槽の中に、私はいる。

息が出来ない。

いつの間にか着ていた白いワンピースが

水の中で浮遊する。

苦しくなって脚をばたつかせる。

もがく。もがく。もがく。

助けてと、誰もいないのに懇願する。

酸素が無くなる。

頭が潰されそうな程痛くなる。


苦しい苦しい苦しいよ。


そう叫ぶかわりに、泡が水中を乱舞する。

なんとも悲惨な光景だろう。

なんとも凄惨な光景だろう。

叫びたいのに、言葉が出ない。

口がぱくぱくと金魚の様に動くだけ。

かわりに泡が増えていく。

視界が遮られてなにも見えない。



ああ、もう、駄目だ。



リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!



目覚ましの音と共に、私は現実へと

引き戻された。





************





「・・・あ、また・・・この、夢・・・っ」



毎日の様に夢を見る。

水槽の様なところで溺れる夢。

底が無くて、もがくたびにどんどん、どんどん、墜ちて行く夢。

なにか言いたいのに、なにも言えなくて、全て泡となって消えてしまう夢。

私はこの夢を幼い時から見てきた。

最初見た時は、自分が溺れるシーンがあまりにも怖くて冷汗が止まらなかった。

母に泣きついて報告もした。

母も、それが一度ならあまり心配は

しなかっただろう。



私は、それから毎日、毎日その夢を見た。

毎日泣きついて母に言い、涙を溢れさせた。

母も、ただ事ではないと思い、私を精神科

に連れて行った。

医師は確かこう言った。



「溺れる夢は、不安な気持ちに

支配されている表れと、聞きます。

孤独な心が誰かの助けを求めているのかも

しれませんね。

何か最近辛い事はありますか?

あるとしたら、原因はそれだと考えられます。

その原因を取り除くのが一番の解決策だと

思います。」



幼い私は、

何か辛い事といってもこれといって

わからなかった。

友達が私を無視する事や、叩いたりする事は、普通だと思っていたのだから。

ただ、原因がこれだと自分でわかったのは

幼稚園を卒園して直ぐだった。

小学校にあがり、友達はがらりと変わった

から、夢はあまり見なくなっていった。

だが、友達や、何かが拗れた時に、溺れる夢を見ては、涙を気づかないうちに流していた。

だが、最近はずっとだ。ずっとこの夢を見る。



理由は、わかってるんだけどなぁ・・・。



そう、理由はわかっている。

しかし、これは自分やましてや他人が

どうにか出来る訳がない。

だから、困っているのだ。



「翡翠ーっ早く起きなさいっ!!!」



下から母の声が聞こえる。



「はーいっ今降りるーっ!!!」



私は元気に返事を返す。

そう、これがいつもの日常。私の演技。



私はいつからか親にまで仮面を着けるようになっていたのだ。

毎日泣きついて伝えたあの夢のせいで、

母は少し痩せ細ってしまった。

精神的に、私が母を追い詰めていたのだ。

だから私は決めたのだ。

あの夢を見ても、いつも通りに過ごし、

笑おうと。

いつもヘラヘラと笑ってさえいれば、

なにもおきない。



小さい頃に学習したソレは、なんとも悲しい物分かりだっただろう。



「お母さーん、今日パンだけでいーよ

遅れそうだからさっ」



「だから早くしなさいって言ったでしょうがっ」



「はいはいっごめんごめんっ」



あはははははははっ。



うん。バレてない。いつも通りだ。



「いってきまーすっ!!!」



そういって私は広い広い外へと飛び出した。





************





学校につくと、もうみんな殆どが席に

座っていた。先生ももう来ていた。



「・・・えーっとぉ、セーフ?」



「アウトだ馬鹿っ!!!」



先生につっこまれると、教室中が笑いの渦とかした。

その日は、朝から少しのお説教をくらった。ただ、笑顔は崩さなかった。

いや、崩せなかった。





「今日は災難だったねぇ翡翠」



クラスメイトにそう話かけられる。

正直、あまり好きではない子だ。

あちらも私の事を良くは思ってないらしい。

私のヘラヘラしているところが気に入らない

のだという。

何度か嫌がらせもされた。



「あははっうん。ちょっと寝坊しちやってさぁー。お母さんにも怒られた」



だが、それは別に、私が流せばいいだけの話だ。

溜め込めばいいだけの話だ。

躯に、心に、埋め込めばいいだけ。

そうすればもう、何処にも無くなる。

消えてなくなる。

だから、それでいい。



「気を付けないと、先生達に眼ぇつけられるよ?」



その言葉はきっと嘘なのだろう。

言葉からは安っぽい笑いが含まれている。



「うん。気を付けるっありがとう」



それを、作った笑顔で返す。

聞こえないと思ったのかその子は、

去ると同時に舌打ちをした。



その後も、仲の良いと思う友達と

昼食をとったり、沢山話しをした。

ただ、そこにある筈の笑顔は、

私の物ではない。作った私の笑顔だ。


いつまで私は私を作らなければならないのだろう。



ああ、辛い。辛い。苦しい。

まるで液体が躯の中をかき乱して暴れる様に痛い。


誰か、誰か、誰か気づいて。助けて。

誰か気づいて。誰か、誰か、誰か



「 翡翠?」



「え、あ、うん。ごめんごめんっ

聞いてなかったっ、なに?」



「いや、なんか、大丈夫かなって。

・・・大丈夫?体調とか悪い?」



「・・・・・・」



「 翡翠?」



この友人は、真実を知れば私から遠ざかって気持ち悪いと罵倒するだろう。

だってそうだろう。

今までのが全て嘘だったのだから。

笑いも、笑顔も、言葉も、全て、全部。

わかっている。だから、



「・・・なんでもないよっ」



私はいつも通り、笑っておけば良いのだ。





************





家に着き、部屋へと戻る。

ベッドに横になると、急に睡魔が

襲って来た。



あれ、まだ眠く、ない、のに・・・。

どう、して・・・



駄目。貴方は眠らなきゃ。



・・・え・・・、だ、れ・・・



かくんっ。


私は自分に似た声に促され、

再び眠りについた。





************





・・・ぶく。ぶくぶくっ。

ぶくぶくぶくぶくぶくぶくっ。



・・・苦しい。息が出来ない。

躯が何故か所々痛い。

あ、れ、なんでこんなに、傷だらけなの?

どうしてこんな急に。なんで。

痛い。なんで?痛いよ。なんで?

なんでこんなにも痛い?苦しい?



助けて。

ぶくぶくぶくぶくっ。



お願い、誰か、助けてっ。誰か、誰か

助けてっ。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっ。

“ ここは、もう嫌だっ。”

お願い助けてっ。助けてっ。助け


ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくっ。ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくっ。



声が出ない。泡が嘲嗤うかの様に乱舞する。



嫌だっ。嫌だ嫌だっ。助けてっ。お願い、誰か、誰かっ



「無駄だよ。」



え・・・っ。


ぶくっ。



「もう、遅いよ。」



なん、で・・・。





この水槽の中にいたのは、



「あなたはもう、遅過ぎた。」



黒いワンピースを纏った、私だった。





************





・・・な、んで?


ぶくぶくぶくぶくぶくぶくっ。



「あなたが“ 保たない ” から」


「あなたが、もう、壊れるから。

壊れて、自分を見失って、狂ってしまうから。」



私の姿をした、私と正反対のワンピースを纏った彼女は、そう淡々と語った。しかし、何故彼女がいるのかがわからない。



・・・あなたは、なに?


ぶくぶくぶくぶくぶくっ。



「私はあなたで、あなたは私。一緒だよ。同じ。」



・・・なに、をしに来たの?


ぶくぶくぶくぶく、ぶくぶくっ。



「あなたを、助けに来たの」



私、を?


ぶく、ぶくぶくっ。



「そう。あなたを。壊れそうな、あなたを。ここから、出してあげる。」



彼女は、私に手を差し伸べた。



「あなたもう、辛いのでしょう?

苦しいのでしょう?痛いのでしょう?

その証拠に、あなたの躯はもう傷だらけで

ボロボロでしょ?

なら、楽になってしまえばいい。

誰もあなたを責めたりなどしないよ。

だってここは、

“ あなたの心の中なのだから。”」



・・・私は、楽に、なる?


ぶくぶくぶくぶく、ぶくっ。



もう、このおかしな痛みからも、解放される?


ぶくぶくぶくぶく、ぶくぶくぶくぶくぶくぶくっ。



「そうだよ。何もかもから解放される。あなたはもう、なにも演じないでいい。

あなたはもう、苦しまなくていい。

・・・だから、


“ 私と、代わろう?”」



彼女の笑みは、私の物とは思えない程

優美で美しかった。

これで、楽になるのなら、

これで、もう、苦しまなくてもいいのなら、これでもう、

“ 作った私から解放されるなら ”

・・・それ、なら、・・・





・・・うん。代わって・・・。


ぶく、ぶくぶくっ。





「うん。・・・わかったよ。

よく、頑張ったね。ゆっくり、おやすみ。」



彼女は、そういって私の心臓に触れた。

そして、



「さようなら・・・私。」



そして、私は、

泡となり、水の中に消えて行った。





最後に見た水槽の中は、濁りきっていて気持ち悪かった。





************





リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!



目覚ましが鳴る。その拍子に起きる。



私は消えた。白い私は消えた。

あの汚い水槽の中で。泡となり、

あっけなく消えた。

代わりに私が残った。

しかし、誰も気付かないだろう。




ーーーーーーーーーーーーー




その日、一人の少女の心が死んだ。

汚い水槽の中で、もがいてもがいてもがいてもがいてもがいて、

泡となって、死んだ。



だがそれは、誰も知らない。



だってこれは、ただのくだらない

一人の人の噺なのだから。







************

最後まで読んで頂きありがとうございます。

大変読みにくかったと思います。

もうしわけありません。

この夢は、皆様がいつの日か見るかも

しれませんね。

その時は、もう一人の自分に捉えられない

よう、お気をつけ下さいませ。


では、失礼します。

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