表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 藤堂遥惟

 彼女が手を伸ばした先には、木製の壁があった。彼女が、壁をつたって、歩くとそれほど広くない窓はない部屋の中にいることが分かった。

 彼女がどうにかこの部屋から出ようと扉の前にいたら、後ろの方から水の流れる音が聞こえた。

 しばらくして、音と共に水が流れる音が消え、水が何かに跳ねた音が聞こえた。彼女は少しでの外の状況が知りたく、壁に耳を当て、外からどんな音がするか神経を集中させて聞いていた。足音は聞こえないが、またなにか聞こえてくるかもしれないと思い、その場に座っていた。

 それから彼女はどれくらい時間が経ったのか、腹の虫が鳴いたのに気づき、「そういえば、最後に食事をしたのはいつだろう?」と考えていた。その直後、いきなり扉が開き、懐中電灯を持った人が立っていた。

 懐中電灯を向けられ、急に眩しくなり、目の前が見づらくなり、「いきなりなに!?」と思っていた。

 懐中電灯を持った人は部屋の中に入り、扉を閉め、彼女の前にある物を置き、座った。

「食べろ」

 彼女は初めて、入ってきた人が男で、自分に食事を持ってきたことに気づいた。目の前に置かれた皿に乗せられた食べ物はパンなど手軽の食べられる物ばかりで、とても栄養がある物とは言えない。だが、彼女は文句一つ言わず、完食をした。

 彼女が完食をしたのを見ると男は皿を持って、部屋を出ようとした。

「あ、あの!」

 男は彼女の方を振り向きはしなかったが、その場に立ち止まった。

「ここはどこですか……それと貴方は誰ですか……」

「俺は梗(きょう)。だが、偽名だ。そしてここは俺の家だ」

 何故、ここに自分がいるのか彼女は疑問に思ったことを聞こうとしたら、先に梗が答えた。

「何故、俺の家にいるか疑問に思っているだろ。君の父親にちょっと恨みがあってね、そのためにこの狭い物置小屋の中に監禁させてもらったよ。学校帰りに一人になるのを待ってつけていたかいがあったよ。そういうわけだから暫くの間よろしくね。未緒(みお)ちゃん」

 梗と名乗った男は不気味な笑顔で彼女――未緒を見下ろし、部屋だと思っていた物置小屋から出て行った。

 梗が出て行ってすぐ、壁にもたれて、未緒は泣いていた。この物置小屋に監禁されてからなん時間経ったかわからない。朝、いつも通り学校へ行き、授業を受け、休み時間は友人と他愛もない会話をして、帰りに近所のショッピングセンターへ友人と行き、人通りの少ない所に一人で急に誰かに襲われた。そこまでは覚えているがそこから先のことは一切覚えていない。

 梗が未緒の父に恨みがあると言っていたことを思い出した。未緒の父は凄腕の科学者。科学の道へ進む人間なら名前ぐらいは聞いたことがあるくらい有名な人。

 そこで、未緒はある仮説を立てた。もしかしたら梗も科学者だったのでは……と。確証はないが、次に来たときに聞いてみるしかないと思っていた。

 ただ、そんなことよりも家族と一緒にショッピングセンターに行った友人の心配をしていた。自分はいつ解放されるか分からない。もしかしたら殺されて、二度と家族・友人に会うことができないかもしれない。多少の不安はあったが、どうにかしてでも、情報を得たかった。父が梗に何かしたのではと考えていた。

 未緒は泣きつかれて、寝てしまった。寝たのを見計らったかのように物置小屋に入ってきた。


 翌朝、暗い物置小屋に監禁されている未緒には今が朝かどうかは分からない。少し肌寒い朝だったので、未緒は目が覚めた。肩から何かずり落ちたことに気づき、触ってみると毛布だった。自分が寝た後に、梗が風邪をひかないように持ってきたのかと思った。毛布に包まっていると梗が食べ物を持って入ってきた。

 無言で、未緒の前に置き、未緒が食べ終わるのを待っていた。

 食べ終わった頃、未緒は梗に「毛布、ありがとう」とお礼を言った。梗にとっては予想もしなかった言葉で、誘拐して監禁している相手にお礼は言うのかと驚いていた。

「私、梗さんが出て行ってからずっと考えていたんです……」

 詳しい事情は知らないが、梗は未緒の父に話があるので、未緒を誘拐して監禁をしていると考えていた。多少の食事があるのは予想していたが、風邪をひかないように毛布まで持ってきたことに未緒は驚いていた。

 最後に一番気になっていた質問をした。

「梗さんはもしかして、父と同じ科学者なんですか……?」

 その質問をして、梗はいきなり手に持っていた懐中電灯を投げつけた。あたりはしなかったものの、場所が悪ければ大けがをしていたかもしれない。豹変した梗を前に未緒はこれ以上何も聞けなかった。

 殺されるかもしれないという危険を感じて。

 それから未緒は毎日恐怖に怯えながら数日が経った。


 未緒の家族は警察に未緒が行方不明になったことを毎日のように相談していた。時には未緒の母と学校の友人が一緒に相談に行くこともあった。未緒が家出するような子じゃないと連日のように訴えていたので、とうとう警察が折れて、未緒の捜索が開始された。

 だが、一ヶ月経っても未緒が、警察に保護されることもなく、死亡説がでてきた。


 それから更に四ヶ月後、猟犬四頭と猟に来ていた猟師が人里離れた山中から死後一週間程の未緒の死体が遺棄されていた。未緒の遺体が発見されてから一年経っても、未だに未緒を誘拐、監禁、そして、殺害して遺棄したと思われる梗という男は見つかっていない。


  終

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ