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「お邪魔しています、サラ様」
1日の疲れにぐったりとしながら部屋に戻ると、あたかも自室であるかのように寛ぐこの世の美を集めたかのように華やかな神官さまがいらっしゃる。なぜいるのかなんて突っ込むことは体力の無駄である。あきらめて受け入れるしかない。
「お疲れでしょうから、ティータイムでもどうですか?」
ティーセットがどこからともなく現れ、美味しそうな匂いも漂ってくる。こんなことが日常になりつつある現状に、感覚がマヒしつつあることに気づいた。
「もうお聞きでしょうが」
「世継ぎのことですか」
「お話がはやくて助かります」
もう聞き飽きた掛け合い、慣れたものだ。国の中枢を担う神官さまと一介の商家の娘がこのような馴れ馴れしく話すことからおかしいと言えば、そうなのだけど。
「ということで、どれにします?」
ぞろぞろと入ってきたのはウチで雇っている女中たちで色とりどりの装飾のついたきらびやかなドレスたち。以前のわたしであればウチよりもいい布をつかってる、なんて僻みのような思いも浮かんだが、いま、出世したともいえるわたしのおかげでストーニー商会は箔がつき、商家の格が上がったと言える。
きっと手触りのいい布を見ても、これくらいウチでも見れるわっ、おほほほ。と言えるくらいには。
っと、脱線したけど。
「いやいや! なんのことですかといいたい。けど、けどっ! わかりたくもないけど、わかってしまうこの察しの良さ! 自分でも惚れ惚れする! ってことで神官さまお引き取りください」
「そんなこと言わずに、これとかどうです?」
「ぎゃー、なにそれなにそれ! むりむりむり! というかあなた! 含み笑いやめなさーい」
「そうですか、サラ様はこういうタイプがお好み、と。ではお願いしますね」
まじめに頭を下げたのにもかかわらず、見事に聞いてやしない。わたしのなかの神官さまの好感度、初対面から悪いものだったけど、そこが知れない。落ちる落ちる。
わたしがわーわー喚いているあいだに勝手に自己完結してしまった神官さまはそばに控える侍女に手渡してよろしく頼みます、と言って消えた。
そう、消えた。残されたのは焼き立てで美味しそうな匂いが漂うお菓子とティーセット。
ウチに仕える者たちでさえ見慣れてしまった光景。喚くわたしをしょうがないお嬢さまですね、とでも言いたげな目で幼少期より仕えてきた侍女はみる。仮にも主であるわたしをそんな目でみない、含み笑いしない! そのドレスがわたしにどれほど似合わないかなんてわたしが一番知ってるー。
「デューイ様らしいですわね」
その言葉にわたしがこうなる原因がすべて詰まっている。こうなる、とはもちろん。
「やめてやめて、マリア! 服を引っ張らないで」
「マルイ様に頼まれましたからね、今宵のパーティーの主役はお嬢さまですからね!」
鼻息荒くキラキラひかる目の奥に見える怪しい光に着せ替え人形になることは逃れられそうにない。
今宵の主役はもちろん、半年前に盛大な結婚式を挙げ、どう計算しても合わない、のちの世継ぎとなるに違いない王子を生んだ姫様とデューイでしょうに、と。内心突っ込んでみた。
その名の通り追いかけっこ編。
数話で終わる、はず。
補足的な番外編はまた今度。