06
これは大団円と言っていいのだろうか。
今宵、王城で行われるパーティを思う。あちらこちらでデューイと姫さまの名前が囁かれる。それはおかしなことではない。
しかし、魔王討伐は数ヶ月も前の話で、今のいままで王城奥深くでひっそりと暮らしていた。外に出ることを禁じられているかのような物々しい警備の中。家に帰ることも許されず、接触できたのは突っ込むことすらためらわれる見目麗しい神官さまのみ。
そして帰還後初の外界との接触で、その意味を知る。
世界情勢が傾きつつあるなか、魔王が現れたことが囁かれ、それを裏付けるかのように勇者の剣が神殿に姿を現す。勇者の剣が多くの人々の中から勇者を選び、選ばれた青年は世界の平和のためにと立ち上がる。数少ない従者を連れて危険な旅へと向かう。いくつもの困難を超えて、魔王城へとたどり着き、ついには魔王を打ち倒す。世界に平和が戻ったことを王へと伝え、勇者である青年は褒美にと珠玉の宝ともいえる姫を娶り、次期国王になるに違いないと噂されている。
吟遊詩人が各地を歩き、勇者デューイの物語を唄う。
どこか違う! 全部ちがう!
詐欺だ! と訴えたいけど、いったいどこに訴えればいいのか。陛下がそれをよしと認めたのであれば意義を唱えることなど至難の業である。
「勇者ってこれでいいのかしら」
「もちろん構いません」
「まぁ、民衆には魔王がいなくなって平和に暮らせることが1番重要なことだけど」
「お話が早くて助かります、サラ様」
またどこかで聞いた台詞をのたまう神官さま。話題の神官さまがこんなところにいていいのかしら、と思うが突っ込むまい。わたしの気力が奪われるだけだともう学んでる。
「ねぇ、ヨシカワって」
「なんのことでしょう? サラ様」
いきなり体感温度が下がった気がして地雷を踏んだことに気づいた。
ヨシカワなんて家名は珍しい。それどころか今現在ヨシカワの家名を名乗れるのは本家のそれも直系しか名乗れないことになっている。つまりは、いつも私の目の前にふらりと現れる神官さまは、あのヨシカワ家のそれも直系であるというわけで。
やっぱり、タケル・ヨシカワの直系で、確実にその血を引く、勇者さまってことよね。お飾りの勇者さま、デューイとは違う。
でも、勇者の剣の選定はいったいどういうことなのかしら?
「サラ様、そんな情熱的に眺められたら……」
「ちょ、ちょっと待って! 情熱的って」
「そうですね、確かにこれではお話が進みません。それで、私たちはいつにいたしましょう?」
「『わたしたちはいつにいたしましょう?』」
「えぇ、姫様とデューイ様の次に」
――――世界に平和が戻ったことを王へと伝え、勇者である青年は褒美にと珠玉の宝ともいえる姫を娶り、次期国王になるに違いないと噂されている。
そして一の従者であり、勇者の出現を予見し、勇者タケルの血を後世へとつなぐ神官は、身を挺して守った一人の女性と恋に落ち、その手に幸せを掴む。
二の従者の剣士は、その名を残しながらもその後の歴史に名が出てくることはなく、剣を持って王へと仕える。
のちに歴代最強とまで謳われる三の従者である魔術師は、その帰りを信じ一途に、信頼を持って待ち続けた婚約者と添い合った。
やっぱり、違う! 全然ちっがーう!
【END】
誰が何と言おうと完結です!
婚約者は勇者さま?……タイトルに偽りないですともッッ!
そのうち補足的に番外編でも書きたい、が予定は未定。