05
なんだろう、この脱力感。わかっていはいたけど、ありえない予想と高をくくっていたにもかかわらず、こうもその通りに進んでしまったこの現状に突っ込む気力すらない。
「ということで、デューイ様。あなたはまぁそれなりに剣を振るってくださってればいいので」
わかっていたはずだ。うん、幼少期よりデューイと付き合ってきたんだし、デューイが剣を持ったことがないことくらい。それでも、それでも! 勇者の剣に選ばれて王城へ行った数週間に瞬く間に剣の腕が上昇した、と思いたかった。だってそれが勇者ってものじゃないのー?
「うん、サラと一緒に邪魔にならないようにしとくね」
どう考えても勇者の発言じゃない。顔が引きつるのがわかる。というか、目の前に敵意あらわにしている魔王と呼ばれる存在がいるにも関わらず、この会話をのうのうと続けられる精神をほめたたえたい。神官さまもデューイもどこかおかしい! まわりがぼんぼん火を上げて壊れているというのに!
「サラ様、ご安心を。ヨシカワの名に掛けて、あなたには傷つけさせないと誓います」
慣れてしまった手の甲への感触にわたしは唖然とする。テオトバルトさんもヨシュカさんも魔王へと立ち向かっているにもかかわらず、この神官さまは自身で張った安全な結界のなかで、デューイに言い聞かせながら、わたしに場違い(でもないかもしれない)なことをおっしゃる。
「さぁ、さっさと帰りましょう」
デューイは、安全な、といってもこの敵地に安全な場所あること自体神官さまと魔王との力の差は歴然としているのかもしれないが、結界の中で剣を振るう。剣が届く前に魔王の配下である魔族は結界に阻まれ消滅しているのだけれど。おめでたいデューイは知らず喜んでいる。
あぁ、デューイ。あなたは変わらないわね。
結界の中から悠々と抜け出していった神官さまに目を移して、まばたきを数度する。
「マルイ! いい加減真面目にやれ」
「そうですマルイ様! はやくロイのところに戻りたいんですっ」
「まぁまぁ、デューイ様にはそれなりに動いてもらわないと困りますから。剣ぐらい振るってもらわないと。あぁ、熱い熱い」
魔王って人に害成す存在で、魔王が現れるとともに勇者の剣が勇者を選んで、勇者が魔王を倒す、魔王は勇者の剣でしか斬ることができない、のではなかったのだろうか。
どこからか取り出したのかわからないが身の丈ほどの大剣を肩に担いだ神官さまがいる。いやいや、神官さま、あなたいったい何者でしょうか。神官さまって剣を扱えるのですか、そもそも神に愛され見目麗しいマルイさまは人よりずば抜けた才能をお持ちではなかったでしょうか。それこそ剣技など必要もないくらいに。
これは、見なかったふりが一番いいんじゃなかろうか。デューイといることで鍛われてきた、空気を読むことをいまここで発揮しなくてどうする! と直感が告げ、背を向けようとしたけれどあとすこし早ければ。
消えゆく魔王が口悪く罵る、耳障りな声が届く。
あぁ、やっぱりそれって。
「デューイ様、おめでとうございます」
「終わったの?」
「えぇ、すべて終わりましたよ。城へ戻り姫様、いえ陛下へ報告に」
すべてが白々しく聞こえるのですけど、わたしはいったいどのような反応をとればいいのか。テオトバルトさんはわたしの視線の意味に気づいていないのか答えをくれることはなく。ヨシュカさんに至ってはロイロイロイ、と呪術のごとく唱えている。
「サラ様、お手を」
差し出された手の期待するところはわかるものの、このまま乗せてしまえば、予想外の方向へ転がりそうな。いや、ある意味予想通りというべきか。
「サラ様戻ったあかつきに、私と……」
声が聞こえなくなったのは、きっとヨシュカさんが転移魔法を施行したから。
決して、わたしが意識して聞きたくなかったわけではない、と思いたい。
戦闘描写?なにそれ?このお話に必要なもの?なテイストです(笑)