03
辺境の地にて持てるだけの贅沢で領主が勇者さま御一行をもてなすのは昨夜のこと。
ここはどこ、なんて答えを聞きたくない私は言葉に出すのもおぞましい。
神に愛された見目麗しい神官さまに三度軽い口付けをされたあと、一気に視界が白くなったと思ったら、今までいた街道はどこにも見えず、目の前に広がる長閑な風景に呆気にとられた。
座っていた馬車の椅子が消えたため、身体を支えるものがなくなり手を取る神官さまに抱えられていたのにも驚き、暴れて、ぐらりと視界が揺れた。
「もしかして、酔われましたか?」
地面へ私を落とさなかったのだけは褒めてあげよう。しかし、酔うとはいったい。
「初めて転移される方にはその身にまとわりつく魔力に気分を害したり、身体が構築されなおすことに違和感を覚える方がいるのですよ。それを総じて私たちは“酔う”と言ってます」
疑問を浮かべた私に反応してか、真っ先に魔法使いの女性が答えをくれる。しかしまた、どうして。
「いきなり村の中に出てしまったら村人が驚きますし、同じ地点に人がいれば存在が消滅してしまいますからね」
そんな話はどうでもよくて。いや、存在が消滅ってかなり恐ろしいこと言ってるけど! どうして、私が。
「だって、サラがいないと」
今のままでデューイがいることを忘れていた。この神官さまの存在感が大きすぎて忘れてしまう。
そして、そのデューイの一言で、幼いころからデューイに振り回され続けて磨かれた状況の背景を読み取る能力とでもいうのか、ピンと来てしまった。
「わがまま……」
「お話がはやくて助かります、サラ様」
どこかで聞いた言葉に脱力する。けど、けど!
「勇者の旅立ちっていえば、城下町の人々に盛大に見守られながら、パレードみたいな感じで旅立つでしょ、普通!」
「いやですねぇ、サラ様。一体どこのおとぎ話ですか。徒歩、まぁ最低でも騎馬でしょうけど、そんな進行速度の遅い旅ではいったいいつに成ったら魔王討伐ができるというのです。転移という素晴らしい魔法があるのですから、そんなお金も時間もかける必要がどこにあります」
お金も時間もかける必要とは、身も蓋もない言い方、それが貴族ってものでしょう、と言いたくなる。
「今日はここの領主の館で泊まらせてもらいましょう。明日の、そうですね、お昼前には立つことにしましょう。領主のゴルディ殿には連絡が入っているはずなので、さぁさぁ行きましょう。デューイ様、くれぐれもゴルディ様の愛娘に手を出さないよう……いえ、話をしないように」
帰る、という選択肢はすでに残されていないとわかっていても周囲に目を向ける。魔法使いの女性には気まずげに目をそらされてしまった。護衛の剣士には感情のこもらない目を向けられただけで終わった。
ここにいるのは私と神官さまと勇者の剣を佩いたデューイと護衛の剣士、魔法使いの女性の5人。どうやらここには私の味方はいないらしい。
神官さまの冗談の含まない目でデューイへ話した注意が城で起こした面倒事を簡単に察せられてため息をついた。
「サラ、お腹減ったね」
おいしい料理があるといいんだけど、とこの雰囲気をわかっていないのかデューイは続けた。この能天気な元婚約者の幼なじみを見て、もういちど深いため息をついた。
ハイ、超特急で進みます。
だって中編程度で終わりますもの。